日本高血圧学会が日本人のための「尿ナトカリ比」の目標値と適切な評価方法を提唱
日本高血圧学会は、10月8日、日本人のための尿ナトカリ比の目標値と適切な評価方法を提唱するため、同学会の学会誌「Hypertension Research」にコンセンサスステートメントを掲載するとともに、学会サイト内にニュースリリースを発表した。尿ナトカリ比は低コストかつ簡便に測定でき、高血圧の予防と管理、および高血圧合併症の予防に活用されることを期待するとしている。
ステートメントのポイント
- 尿ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)は、血圧値と連続した正の関連がある
- 尿ナトカリ比は、ナトリウム、カリウム単独よりも、より強く血圧高値と関連している
- 健常日本人における目標値として、「日本人の食事摂取基準」の食塩とカリウムの摂取目標量に相当する2未満を至適目標に、日本人の平均値未満に相当する4未満を実現可能目標に設定
- 随時尿を用いて尿ナトカリ比を測定する場合、週に4日以上、異なる時間帯に採取した尿の測定値から平均を算出することを強く推奨
- 尿ナトカリ比は、日本全国の健診・医療機関で安価かつ簡便に測定可能であり、減塩とカリウム摂取増加の指標として、高血圧の予防と管理、脳卒中、心臓病、腎臓病の予防に活用されることを期待
解説
尿ナトカリ比とは、尿中に排泄されたナトリウム濃度(mmol/L)とカリウム濃度(mmol/L)の比である(図1)。
摂取したナトリウム(食塩)の約90%、カリウムの70~80%が尿中に排泄されるため、尿ナトカリ比は食事から摂取したナトリウムとカリウムの量比を客観的に評価することができる。ナトリウム(食塩)の過剰摂取とカリウムの摂取不足は独立して血圧を高めることから、尿ナトカリ比が高いほど血圧が高いことが想定される。
実際に、日本人の地域住民を対象とした大規模な研究では、尿ナトカリ比と血圧値との間に正の関連が認められている。また、尿ナトリウムや尿カリウム単独の測定値よりも、尿ナトカリ比の方が血圧値との関連がより強かったことも報告されている。
図1 ナトリウム/カリウム比(ナトカリ比)
臨床や保健指導の場における意思決定(decision making)では、尿ナトカリ比の目標値が具体的に設定されていることが望ましいが、これまでにそのような値は設定されていなかった。近年の尿ナトカリ比に関する疫学研究の進歩を受け、日本高血圧学会コンセンサスステートメントとして、尿ナトカリ比の目標値を設定する運びとなった。
具体的には、健常な日本人における目標値として、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の食塩とカリウムの両方の目標量を満たす2未満を至適目標、また複数の日本人一般住民集団における平均値未満である4未満を実現可能目標として提唱した(表1)。二つの目標値を設定することで、食習慣を段階的に改善できるように配慮している。一方、疾患を有する患者には知見不足のため、これらの目標値は適用されない。
表1 健常者に対する目標値
尿ナトカリ比は、生理学的機序や食事の影響により、個人内でも日間および日内で大きな変動がみられる指標である。
尿ナトカリ比を評価するための最も精度の高い方法(ゴールドスタンダード)は、複数日の24時間蓄尿から算出する方法である。しかしながら、24時間蓄尿は時間と労力を要するため、日常的に実施するのは困難である。日本人を対象とした研究では、4~7日間の異なる時間帯に採取された随時尿から算出された尿ナトカリ比の平均値は、7日間の24時間蓄尿から算出された尿ナトカリ比の平均値と高い相関性および一致性を示したことが報告されている。
これをふまえ、本コンセンサスステートメントでは、週に4日以上、無作為に異なる時間帯に採取した随時尿での測定値から、平均値を算出する方法を強く推奨している(図2)。ただし、健康診断などでやむを得ず単回の随時尿で評価する場合には、起床後第2尿(午前9時頃の尿)を用いることが望ましい可能性がある。しかし、単回随時尿を用いた尿ナトカリ比の適切な評価法については知見が不十分であり、さらなる研究が必要である。
図2 随時尿を用いた測定方法
随時尿ナトカリ比を測定することが減塩および血圧低下に有効かどうかを検討した無作為化比較試験は今までのところ1報のみであり、さらなる知見の蓄積が必要である。一方、地域の健康診断において尿ナトカリ比測定器を用いて随時尿ナトカリ比を測定、その場で測定結果を返却し、減塩とカリウム摂取の増加に関する情報提供を行ったところ、尿ナトカリ比と血圧値の有意な低下がみられた。これにより、健康診断時における随時尿ナトカリ比測定と保健指導の併用が減塩や血圧コントロールに有効である可能性が示された。
尿ナトカリ比は、日本全国の健診機関や医療機関(実地医家を含む)において、安価で、採血と比べて負担が少なく、容易に測定可能である。高血圧の予防と管理、さらには脳卒中、心臓病、腎臓病の予防のために、減塩とカリウム摂取増加の指標として、尿ナトカリ比がさらに活用されることを期待したい。
プレスリリース
日本高血圧学会 尿ナトリウム/カリウム比(尿ナトカリ比)ワーキンググループ コンセンサスステートメントの発表について(日本高血圧学会)
文献情報
原題のタイトルは、「Practical use and target value of urine sodium-to-potassium ratio in assessment of hypertension risk for Japanese: Consensus Statement by the Japanese Society of Hypertension Working Group on Urine Sodium-to-Potassium Ratio」。〔Hypertens Res. 2024 Oct 8〕
原文はこちら(Springer Nature)