毛髪のストレスホルモン量で身体的負荷の客観的・非侵襲的な評価が可能に 疲労蓄積やオーバートレーニング予防に期待
髪の毛に含まれているストレスホルモンを測定することで、アスリートのトレーニングによる身体的負荷量を客観的に評価可能であることが報告された。新潟医療福祉大学健康スポーツ学科と群馬大学共同教育学部の研究グループの研究結果であり、応用生理学の国際的専門誌「European Journal of Applied Physiology」に論文が掲載されるとともに、大学のサイトにニュースリリースが発表された。
研究概要:トレーニングで受けた負荷量を客観的かつ非侵襲的に把握する
アスリートはパフォーマンス向上に向け、日々激しいトレーニングを行い、長期間にわたり身体的負荷を受けている。同様なトレーニング内容であっても、アスリート個々の身体的負荷量は異なるため、選手によっては過剰となり(オーバートレーニング)、パフォーマンス低下やメンタルヘルスの低下、さらには燃え尽き症候群を招くことがある。
その予防には、トレーニングによる身体的な負荷量の評価を行い、それにあわせたトレーニング計画の立案が重要。しかしこれまで、負荷量は選手やコーチの主観的な評価でしか把握できなかった。本研究では、毛髪中に蓄積されるストレスホルモン(コルチゾール)が、過去1カ月間にトレーニングにより受けた身体負荷変化と関係することを明らかにし、毛髪中コルチゾールが長期トレーニングによる身体的負荷量を非侵襲的かつ生理的に評価できることを明らかにした。
研究の方法と結果:毛髪中のコルチゾールレベルが負荷量と有意に相関
本研究では、女子大学サッカー選手28名を対象に、毛髪中コルチゾール(HCC)がトレーニング負荷と関係するかを検証した。
チームが所属するリーグ戦前半が終わりオフ期に入った8月と、全日本大学選手権大会直前の12月に、毛髪を根本から1cmを10mg程度(図1)採取するとともに、自己申告によるトレーニング負荷量、心理尺度、認知機能の測定を行った。
図1 毛髪の採取
その結果、トレーニング負荷量はHCCと有意な正の相関を示した(図2)。心理尺度や認知機能とHCCの関係は認められなかった。
図2 毛髪コルチゾールとトレーニング負荷量
研究のポイント
- オーバートレーニングや燃え尽き症候群の予防は、競技引退後の心身の健康を守るために重要な要素。
- 根本から1cmのHCCは過去1カ月間に受けたトレーニング負荷量変化を反映した。
- HCCはオーバートレーニング予防のための非侵襲的かつ生理的な、新しい評価法となり得る。
- 選手やコーチの主観的評価や経験則だけでなく、客観的な評価法を日々のトレーニングに加えることで、高いパフォーマンスのみならず、安心安全なスポーツ活動の実現に寄与することが期待される。
プレスリリース
【健康スポーツ学科】毛髪中ストレスホルモンにより身体的負荷量を客観的に評価! 越智講師らの研究論文が国際誌に採択!(新潟医療福祉大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Hair cortisol is a physiological indicator of training stress for female footballers」。〔Eur J Appl Physiol. 2024 Aug 12〕
原文はこちら(Springer Nature)