水泳選手の口腔内が健康なのは塩素処理されたプールの水のおかげ? 約200名のアスリートを横断調査
長時間トレーニングをしているハイレベルの水泳選手は、口の中の健康状態が、同程度のレベルにある水泳以外のアスリートよりも良好であるとする研究結果が報告された。著者らは、塩素処理された水が口腔内の環境に良い影響を及ぼしているのではないかと述べている。
塩素処理されたプールの水は、歯に良いのか悪いのか?
口の中の健康は全身の健康にとって重要であり、アスリートの場合はパフォーマンスにも影響する可能性が指摘されている。虫歯や歯周病は歯磨きやデンタルフロス等による自己管理と定期的な歯科受診によるプラークコントロールによって予防が可能であるにもかかわらず、世界的に有病率は高い。またアスリートは、口腔内の乾燥やその補正または補食のため、飲食物の摂取回数が多いことから、口腔環境が悪化しやすいとされている。
さらに水泳選手は、塩素処理されたプールの水への曝露によって、非細菌性の歯の侵食が進みやすい可能性が指摘されている。しかし、口腔内が塩素水に曝されることは、すすぎ効果や細菌の希釈効果もあると考えられる。今回紹介する論文の著者らは、このような観点から、プール内で長時間トレーニングをしているハイレベルの水泳選手は、むしろ口腔内の状態が良好なのではないかとの仮説の下、以下の検討を行った。
水泳選手と非水泳選手、約100名を横断的に比較
この研究は、ハイレベルの水泳選手、およびそれと同レベルの水泳以外の競技アスリートの口腔内の健康状態を比較するという、横断研究として実施された。研究参加の包括条件は、すべての歯が永久歯への移行を完了している13歳以上で、かつ加齢による口腔衛生の悪化の影響が顕著にはなっていない26歳以下であって、少なくとも過去2年以上にわたり週あたり5時間以上のトレーニングを継続しているアスリートとした。
この条件を満たす水泳選手102名と非水泳選手101名がスクリーニングを受け、虫歯のリスク要因の認められた2名(糖尿病と口蓋裂)を除外し、水泳選手101名、非水泳選手100名を解析対象とした。評価項目は、染色による隣接面プラーク指数(approximal plaque index;API)と、健康でない歯の数を表すDMFT指数(虫歯や何らかの処置がされている歯、抜けた歯の本数)であり、すべての選手のAPIとDMFT指数を1名の歯科医師が判定した。
口腔衛生習慣に群間差はないが、ジュースの摂取に有意差
まず、水泳選手と非水泳選手の特徴を比較すると、水泳選手は年齢が若くて(中央値15 vs 18歳、p<0.001)、女性が多く(54 vs 17%、p<0.001)、BMIが低かった(平均20.1 vs 21.9、p=0.004)。週あたりのトレーニング時間、親の教育歴、1日の食事回数、菓子の摂取頻度には有意差がなかった。ただし、ジュースの摂取習慣は非水泳アスリートのほうが高かった(毎日摂取する割合が前記と同順に9 vs 24%、p=0.004)。
口腔衛生習慣については、1週間の歯磨きの回数(中央値がいずれも14回)、毎日フロスを用いている割合(55 vs 45%、p=0.18)であり、有意差がなかった。
水泳選手はプラークの付着が少なく、健康な歯が多い
次に、口腔中の状態を比較すると、隣接面プラーク指数(API)については、最適と判断されるAPIが5%未満(プラークの付着している面積が5%未満)の割合は、水泳選手が51%であるのに対して非水泳選手は21%にとどまった。APIが5~35%で口腔衛生は良好だが改善の余地がある割合は同順に48%、56%、APIが35%以上で口腔衛生の改善が必要な割合は2%、23%だった。
DMFT指数については、0(歯についてはすべて健康)の割合が水泳選手では64%、非水泳選手では52%、DMFT指数が1~5の割合は同順に32%、39%、DMFT指数が5を上回っている割合は5%、9%だった。
年齢や性別、食習慣などを調整しても水泳選手のほうが口腔内の状態が良好
続いて回帰分析にて、APIやDMFT指数で評価される口腔内の悪化のオッズを算出。その結果、単変量モデルでは、非水泳選手はAPIがオッズ比(OR)2.91(95%CI;1.69~2.71)、DMFT指数についてはOR1.60(同1.11~2.31)と、有意なオッズ比上昇が観察された。
さらに、口腔内の状態に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、親の教育歴、食事回数、菓子やジュースの摂取頻度、フロスの使用、トレーニング時間)を調整した多変量回帰モデルでも、APIはOR2.47(2.08~2.94)、DMFT指数はOR1.67(1.06~2.65)であり、引き続き有意な関連が示された。
プールの水での口すすぎ効果?
この結果から、塩素で処理された水中で長時間トレーニングを行っているハイレベルの水泳選手は、他の競技のアスリートよりも虫歯やプラークの付着が少なく、これは年齢や性別、食習慣の違いなどを考慮しても変わらないことが明らかになった。
著者らは、考えられるメカニズムとして、「水中で長時間過ごすことで、頻繁に口すすぎが行われることが関与しているのではないか。単なる水での口すすぎはプラーク除去に無効だが、塩素が含まれる水ではプラークが除去されることが、先行研究で示されている」としている。ただし、本研究はベースライン時点での特徴の群間差が大きく、回帰モデルで調整してもなお、残余交絡が存在している可能性があるとのことだ。
文献情報
原題のタイトルは、「Dental Health Benefits of Swimming in Chlorinated Water」。〔Dent J (Basel). 2024 Mar 31;12(4):87〕
原文はこちら(MDPI)