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妊娠前から育児期の母親の累積身体活動量が、子どもが活動的であることと有意に相関

母親の妊娠前から育児期の累積身体活動量が多いことと、子どもが5歳半になった時点に活動的であることの有意な相関関係を示すデータが報告された。ただし、母親の身体活動量を五つの時点に区分けしたうえで検討すると、有意な相関は妊娠中と産後5.5年時点でのみ認められるという。東北大学大学院医医学系研究科運動学分野の門間陽樹氏、山田綾氏、永富良一氏らの研究によるもので、「Journal of Epidemiology」に論文が掲載された。

妊娠前から育児期の母親の累積身体活動量が、子どもが活動的であることと有意に相関

母親のどの時点の身体活動量が子どもの身体活動量に強い影響を及ぼすのか?

母親の身体活動量と子どもの身体活動量の関連については、これまでにもいくつかの研究結果が報告されてきている。しかし一貫性が十分でなく、その理由として、母親のどの時点の身体活動量を評価しているかの違いが、関連性の強弱に影響を及ぼしている可能性が考えられる。そこで門間氏らは、複数の時点で母親の身体活動量を評価して、子どもの身体活動との関連を検討した。

この研究は、環境省が2011年から行っている大規模疫学調査「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」で宮城地域が独自に実施している追加調査のデータを用いて行われた。2011年1月~2014年3月に、同県内14の市町村に居住する9,217人のエコチル調査参加妊婦のうち、3,793人が本追加研究への参加にも同意。このうち、多胎出産やデータ欠落、国籍が日本以外などのケースを除外して、1,067組の親子を解析対象とした。

身体活動量の評価方法

母親の身体活動

母親の身体活動量は、国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)の短縮版を使用して、妊娠前、妊娠中(第2~第3三半期)、出産後1.5年、3.5年、5.5年という5時点で評価した。妊娠前の身体活動量は、思い出しによる評価した。

IPAQ短縮版では、ウォーキング、中~高強度の身体活動(Moderate to Vigorous Physical Activity;MVPA)について、それぞれ10分以上続けた場合の継続時間と頻度を把握。5時点の1週間あたりの代謝等量(MET-分/週)を算出し、低・中・高をそれぞれ1点、2点、3点とスコア化して、その合計スコアを指標として用いた。

子どもの身体活動

子どもの身体活動は、世界保健機関(WHO)の学齢児童の健康動態調査(Health Behaviour in School-aged Children;HBSC)で用いられている質問票を用いて、中~高強度の身体活動(MVPA)を行っているか否かを判定した。より具体的には、「過去7日間で60分以上身体活動をした日は何日あったか?」との質問の回答が5日以上の場合を「活動的」と定義した。

なお、HBSCは子ども自身が回答することを前提としているが、本研究の対象は5.5歳と幼齢であったことから、母親が代わりに回答した。

活動的な母親の子どもはやはり活動的であることが多い

母親の出産年齢は中央値31.0歳、BMIは同21.1であり、46.5%が高校時代に部活やスポーツクラブでの運動経験を有していた。WHOの「身体活動および座位行動に関するガイドライン(2020年)」の推奨(週に150分以上のMVPA)を満たしている割合は、妊娠前は30.0%、妊娠中は18.5%、出産後1.5年は23.7%、3.5年は22.2%、5.5年は24.5%だった。

身体活動量のスコアの四分位で4群に分けて比較すると、年齢やBMI、教育歴、就労状況、世帯収入などには顕著な差はなかったが、累積身体活動量が高い群では高校時代にスポーツクラブ活動に参加していた割合が高かった(第1四分位群の41.3%に対して第4四分位群では52.0%)。

母親の累積身体活動量が多いほど、子どもが「活動的」であるオッズ比が高い

交絡因子(母親の年齢、BMI、妊娠合併症、教育歴、就労状況、世帯収入、子どもの性別、BMIzスコア、兄弟の人数など)を調整したロジスティック回帰分析の結果、母親の累積身体活動量が多いほど、子どもが5.5歳時点で活動的であるオッズ比が高いという、有意な相関が認められた(傾向性p<0.001.第1四分位群を基準として第4四分位群はOR3.74〈95%CI;2.09~6.69〉)。

なお、交絡因子として高校時代のスポーツクラブへの加入を追加して調整した解析でも、ほぼ同様の結果だった(傾向性p<0.001.第4四分位群がOR3.72〈2.07~6.67〉)。

妊娠中と出産後5.5年の母親の身体活動量も有意な関連

次に、妊娠前、妊娠中、出産後1.5年、3.5年、5.5年という5時点のそれぞれの身体活動量と、子どもが5.5歳時点で活動的であることとの関連性を検討した。この解析では交絡因子として、前記の因子(高校時代のスポーツクラブへの加入も含む)のほかに、関連性を検討する時点以外の4時点の身体活動量も調整した。

その結果、妊娠前と出産後1.5年、3.5年の身体活動量は、子どもが活動的であることと関連がなかった。それに対して、妊娠中(傾向性p=0.031)と出産後5.5年(傾向性p=0.010)の身体活動量は、子どもが活動的であることと有意な関連が認められた。

本研究のポイント

著者らは本研究の限界点として、解析対象から除外された研究参加者が多く、事後解析から、解析対象者と除外された群とで身体活動量が有意に異なることが確認されたこと、宮城県沿岸部の住民も含まれていたことから東日本大震災による生活の変化が残存していた可能性があること、IPAQ短縮版では10分未満の身体活動が評価に含まれないこと、および、父親の影響などの残余交絡が存在する可能性などを挙げている。そのうえで、「母親の累積身体活動レベルは子どもが5.5歳時点での身体活動レベルと正相関していた。ただしこの関連は身体活動量の全評価時点で一貫したものではなく、妊娠中と出産後5.5年のみ、累積身体活動量と同様の関連が認められた」と結論をまとめている。

このほかに論文中では以下の2点について、既報文献を参照し詳細な考察が加えられている。

母親の身体活動量の多さが子どもの身体活動量に影響を及ぼす機序

母親の身体活動量が多いほど子どもが活動的となる理由の一つとして、スポーツ体験のある女性は妊娠中から出産後にも身体活動量が多いことが報告されており、そのようなライフスタイルが子どもに影響を及ぼした可能性が想定される。ただし本研究では、既報研究では把握されていなかった高校時代のスポーツクラブ体験を調査し、それを調整因子に加えた場合と加えない場合とで解析しているが、結果に大きな違いは認められなかった。

身体活動量の多い母親は子どもの身体活動を積極的にサポートしている可能性も考えられるが、この点は本研究では調査されておらず、潜在的なメカニズムは依然として不明と述べられている。

妊娠中と出産後5.5年の2時点のみ、関連が有意である理由

出産後5.5年の母親の身体活動量が、5.5歳の子どもが活動的なことと有意に関連する理由は、恐らく、時間的近接性によって説明される。一方、妊娠中の身体活動量との関連が有意であることの理由については、妊娠中の活動的な女性は出産後にも活動的だとする先行研究があり、そうであれば子どもに対して継続的に影響を及ぼしていた可能性がある。しかし本研究では、妊娠中の身体活動量と出産後の身体活動量の相関は弱く(rs=0.21~0.31)、その可能性は否定的と考えられ、その他の生物学的なメカニズムの関与が示唆されるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between maternal physical activity from pre-pregnancy to child-rearing and their children's physical activity in early childhood among Japanese」。〔J Epidemiol. 2024 Jul 20. Online ahead of print〕
原文はこちら(J-STAGE)

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