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健康情報へのアクセス状況が後期高齢者の食生活の多様性を左右する 国内・非都市部の住民対象研究

日本国内の非都市部に暮らす75歳以上の高齢者では、より多くの経路を通じて健康情報に接している人ほど、食生活の多様性が高いことを示す研究結果が報告された。食生活の多様性はとくに高齢者において健康アウトカムを左右する可能性があることから、著者らは「多様な健康情報へのアクセスを促すことの重要性が示唆される」と述べている。認知症介護研究・研修仙台センターの森下久美氏、桜美林大学大学院国際学研究科老年学の渡辺修一郎氏の研究によるもので、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に論文が掲載された。

健康情報へのアクセス状況が後期高齢者の食生活の多様性を左右する 国内・非都市部の住民対象研究

健康維持に重要な食事の多様性は、健康情報へのアクセス状況により異なるのか?

「栄養素をバランス良く摂取すること」は健康の基本とされている。しかし、健康の維持・増進に重要な栄養素をまんべんなく含有している食品は存在しないことから、より多くの食品を偏りなく摂取すること、つまり食事の多様性を高く保つことが、必要とされる栄養素を過不足なく摂ることにつながる。ところが高齢者では摂取する食品が固定化しやすく、食事の多様性が低下しやすいことが知られている。

他方、食行動を規定する因子の一つとして社会経済的レベルが挙げられ、そのレベルが高い人ほどより多くの健康情報へアクセスし、良好な食行動をとることが多いと報告されている。さらに国外で行われた研究では、このような傾向は都市部よりも非都市部の居住者で、違いがより強く認められるとされている。ところがその一方で、非都市部に暮らす高齢者はインターネット等の比較的新しい情報へアクセスする機会が、都市部の高齢者より少ないとする研究結果もある。

日本は世界で最も急速に高齢化が進んでいる国の一つであり、とくに非都市部でそれが顕著となっている。こうした環境では、健康情報へのアクセス状況の格差が食事の多様性の差につながり、健康アウトカムの差となる可能性も考えられる。ただしこれらの関連はこれまでのところ十分検討されていない。森下氏らの研究は、このような背景に基づいて行われた。

長寿コホートの総合的研究(ILSA-J)の嬬恋村スタディのデータを横断的に解析

この研究は、国内の大規模多施設共同研究である、長寿コホートの総合的研究(Integrated Longitudinal Studies on Aging in Japan;ILSA-J)のうち、嬬恋村スタディの2019年4月の調査データを横断的に解析するという手法で行われた。解析対象は75歳以上の高齢者411人。

なお、嬬恋村は群馬県西部の高原に位置し、2019年時点の人口は9,521人で、その約25%が農業に従事していて、高齢化率は36.4%(全国平均は28.4%)。

健康情報のソース

健康情報のソースとして、テレビ、ラジオ、書籍/雑誌、新聞、同居家族、別居家族、友人、医療専門家、インターネット、近隣住民、および、‘情報源なし’を選択肢として挙げ、複数選択可で回答を得た。全体の4人に3人(75.9%)がテレビを選択し、次いで3人に1人(33.1%)が新聞を選択していた。それら以外では、書籍/雑誌(27.7%)、友人(22.9%)、同居家族(20.4%)が、比較的多く選択されていた。インターネットは2.7%で、最も少なかった。

潜在クラス分析の結果、「複数の情報源を選択した群(クラス1)」、「テレビのみを選択した群(クラス2)」、「情報源なしと回答した群(クラス3)」の三つに分類した場合に適合度が良好となることが示され、この三つのクラスで比較するという解析手法がとられた。各クラスの該当者数は、クラス1から順に、122人(29.7%)、220人(53.5%)、69人(16.8%)。

食事の多様性

食事の多様性には、10種類の食品群(魚介類、肉類、卵、牛乳・乳製品、大豆製品、海藻類、いも類、果物、緑黄色野菜、油脂)の摂取頻度から把握する「食品摂取多様性得点(diet variety score;DVS)」を用いた。

各食品群の摂取頻度を、「ほぼ毎日」、「2日に1回」、「週に1~2回」、「ほとんど食べない」の四者択一で回答してもらい、「ほぼ毎日」を1点、それ以外は0点として、合計0~10点の範囲でスコア化。3点以下は食事の多様性が低い、4~6点は中程度、7点以上の場合に食事の多様性が高いと判定した。各群の該当者数は、低スコア群が205人(46.5%)、中スコア群が158人(35.8%)、高スコア群が78人(17.8%)だった。

その他の共変量

上記2項目のほかに、年齢、性別、教育歴、運動習慣、独居/同居、慢性疾患、料理習慣、経済的困窮の有無、咀嚼機能、食品店へのアクセスの可否などを評価した。また、「健康関連情報の信憑性を判断できるか?」との質問への回答(はい/いいえ)により、ヘルスリテラシーを評価した。

複数の健康情報ソースに接していることが、食事の多様性の高さと独立して関連

健康情報のソースに基づく三つのクラスの特徴をみると、クラス1(複数のソースの情報に接している群)やクラス2(テレビの情報のみに接している群)は、クラス3(情報ソースをもたない群)に比べて、女性、および料理の習慣がある割合が有意に高かった。さらに、クラス1は他の2群よりも、ヘルスリテラシーが高かった。

健康情報に接している高齢者は、そうでない高齢者に比べて食事の多様性が高い

次に、クラス3を基準として、食事の多様性を比較。すると、クラス1は食事の多様性の高スコア群に該当するオッズ比が高く(OR5.435〈95%CI;1.792~16.472〉)、低スコア群に該当するオッズ比は低かった(OR0.225〈0.111~0.458〉)。クラス2も同様の関係が認められたが、オッズ比はクラス1よりも1に近かった(高スコア群のOR2.900〈1.007~8.347〉、低スコア群のOR0.292〈0.154~0.553〉)。

クラス1と2で、魚介類や緑黄色野菜などの摂取頻度に差

続いて、前記の共変量(年齢、性別のほかヘルスリテラシーなど)を調整のうえ、クラス3を基準として、DVSで把握した10種類の食品群の摂取頻度が「ほぼ毎日」であることのオッズ比を検討。その結果、クラス1の該当者は、卵、牛乳・乳製品、海藻類を除く7種類の食品群のオッズ比が有意に高いという独立した関連が示された。

一方、クラス2の該当者は、卵、牛乳・乳製品、海藻類に加えて、魚介類と緑黄色野菜、およびいも類の摂取頻度もクラス3と有意差がなかった。つまり、複数の情報ソースに接している群と、テレビのみに接している群とでは、魚介類と緑黄色野菜、いも類の摂取頻度に差があり、前者の群のほうがより頻繁に摂取していると考えられた。

多様な情報源に接することが食事の多様性につながる可能性

著者らは本研究を、「国内の非都市部に居住する75歳以上の高齢者の健康情報源のパターンと、食事の多様性との関係を検討した初の研究」と位置づけている。

論文の結論は、「より多くの健康情報にアクセスしていることが、高齢者の食習慣に良い影響を与えることが示唆された。非都市部に暮らす高齢者の食生活と健康の維持・改善のため、さまざまな健康情報ソースに接する機会を増やすことの重要性が明らかになった」と総括されている。

またそのほかに、クラス1と2で摂取頻度に差がみられた魚介類と緑黄色野菜について、「魚介類は認知機能や身体機能に有益なオメガ3脂肪酸を豊富に含み、緑黄色野菜はビタミンやミネラルの重要な供給源である。健康情報の偏りが、それらの摂取量の差につながる可能性もあるのではないか」との考察が付け加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Health Information Source Patterns and Dietary Variety among Older Adults Living in Rural Japan」。〔Int J Environ Res Public Health. 2024 Jul 1;21(7):865〕
原文はこちら(MDPI)

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