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中学時代に試合前の減量を行った高校生アスリートは身長が有意に低い 国内女子柔道選手を横断調査

国内の高校女子柔道選手を対象に行った横断調査の結果、体重63kg以下の階級においては、中学時代に試合前の減量を行った経験のある選手は身長が有意に低いことが明らかになった。また減量をして試合に臨んでいたにもかかわらず、競技レベルは減量経験のない選手と変わらないこともわかった。桐蔭横浜大学大学院スポーツ科学研究科の吉田恵菜氏、林田はるみ氏らの研究によるもので、論文が「Frontiers in Sports and Active Living」に掲載された。

中学時代に試合前の減量を行った高校生アスリートは身長が有意に低い 国内女子柔道選手を横断調査

成長期のアスリートが試合前に減量することの影響を横断的に調査

体重別階級のある競技のアスリートは、有利な条件で戦うため、試合前に減量を行い軽い階級に出場することが少なくない。しかし、とくに試合前の短期間に急速な減量を行った場合には、筋損傷のリスク増大や免疫能およびパフォーマンスの低下が生じやすい。ことに精神的・身体的な成長過程にあるジュニアアスリートでは、成長の遅延や摂食障害、女子では月経異常など、発生した場合の影響が生涯にわたることもあり得る健康リスクの懸念が生じる。しかしこれまでのところ、女子ジュニアアスリートの減量戦略の実施率やそれによる健康リスクの実態は明らかにされていない。

柔道も体重別階級制がとられている競技であり、ジュニア大会でも体重階級が設定されている。これを背景として吉田氏らは、柔道の女子ジュニアアスリートに焦点を当て、試合前の減量の実施率を把握するとともに、食習慣や月経異常を含む健康リスク、競技レベルなどとの関連を横断的に検討した。

女子柔道部のある高校、417校に調査協力依頼

この研究は2023年1~2月に、高校の柔道部に所属する女子選手を対象とする、オンラインアンケート調査として実施された。過去2年間に国内で開催された高校柔道大会のデータを参照し、女子柔道部があると思われる417の高校に回答への協力を郵送にて依頼。512人の女子高生柔道選手がオンラインで回答した。そのうち回答内容が不十分なものを除外し、477人を解析対象とした。なお、減量の定義は、「大会の1カ月前から計量までの期間における意図的な体重減少」とした。

中学時代の減量経験の有無で身長に有意差がある一方、競技レベルは差がない

477人の内訳は、学年は1年生211人(44.2%)、2年生193人(40.6%)、3年生73人(15.3%)であり、体重別階級は48kg級82人(17.2%)、52kg級95人(19.9%)、57kg級109人(22.6%)、63kg級79人(16.6%)、70kg級48人(10.1%)、78kg級33人(6.9%)、78kg超級31人(6.5%)だった。なお、全体の体重平均は 60.5±12.2kg、身長は158.9±5.6cm。

中学時代に過半数が減量を実施

高校に入ってから減量を行ったことがある割合は約6割(60.6%)であり、中学時代にその経験のある割合も5割を超えていた(51.8%)。さらに、小学校時代に減量を行った生徒も6.9%存在していた。

論文ではこれ以降、中学時代に減量を行った経験のある247人(上述のように51.8%)と、その経験のない190人(同39.8%)に二分し、試合成績、現在の食習慣、月経状態などを比較した解析結果が述べられている。なお、40人(8.4%)は中学時点では柔道を行っていなかったため、以降の解析の対象から除外されている。

現在の身長や競技レベルの比較

中学時代の減量の有無で現在(高校生の時点)の身長を比較すると、63kg級以下の体重別階級では有意差が認められ、いずれも中学時代に減量を行った経験のある群のほうが低身長だった。70kg以上の体重別階級の身長差は有意水準未満だった。

次に、中学時代の減量の有無が競技成績に与える影響を検討した。全国大会で上位4位以上、全国大会への参加、地方大会への参加、これらに満たないレベルの4群に分けた場合に、その分布に有意差は観察されなかった。つまり、試合前に減量を行ってより軽量級に出場したことが、結果に結びついていないことが示唆された。

食事の多様性の比較

食事多様性スクエア(Dietary Variety Square;DVS)により、現在の食生活も評価された。DVSは、肉、魚介類、卵、牛乳、大豆製品、緑黄色野菜、海藻、果物、ジャガイモ、油脂という10種類の食品群の摂取頻度により、0~10点にスコア化し、スコアが高いほど食事の多様性が優れていると判断する。

中学時代に減量をした経験のある群のスコアは3.7±2.6点、減量経験のない群は4.3±2.7点であり、有意差が認められた(p=0.04)。

体重管理についての相談相手

月経状態や睡眠習慣については、中学時代の減量経験の有無による有意差は認められなかった。

このほか、現在の体重管理に関する相談相手についての質問に対して、57.4%が家族を挙げ、次いで上級生/下級生(52.4%)、インターネット(47.6%)、監督(42.8%)などが上位を占め、管理栄養士はわずか7.1%にすぎなかった。

本研究のポイント

以上、主な解析結果を紹介した。論文ではこれらの結果に基づく重要な点として、以下について考察が加えられている。

中学期の減量は骨の発達に悪影響を与え得る

中学時代の減量経験の有無で高校時点での身長に有意差が生じていたことは、減量が骨の成長を遅延させた可能性を示唆している。著者らは、「これは新しい発見であり、早急な対策が求められる」としている。

なお、70kg以上の体重別階級に参加している生徒では身長差が非有意であったことについては、次のような解説が加えられている。すなわち、高校期に体重が重い生徒はそうでない生徒よりも初経発来が早く、中学時代に減量を行ったとしても、既に二次成長のピークを過ぎた後にそれが行われた可能性が高く、かつ、体重が重いことは体脂肪の蓄えが大きいことを意味し、短期間の減量であれば成長への影響が抑制される可能性があるという。

科学的な根拠なし、栄養指導の機会なしに、減量が行われている

二つ目のポイントは、中学時代に試合前の減量を行った群とそうでない群とで、競技レベルに差がないことを挙げ、減量が科学的根拠に基づかず、非戦略的に実施されている実態を表しているとの解釈が可能としている。

また、中学時代に減量の経験がある生徒は、高校に入ってからの食事の多様性が低いことを指摘。適切な栄養指導・教育の機会が提供されていないことが影響を及ぼしているのではないかと述べている。実際、管理栄養士に相談している高校生アスリートがごくわずかであることも、本研究で明らかにされた。

ジュニア大会では試合参加時に成長曲線の提示を義務付けては?

とは言え、全国の高校生チームのすべてに管理栄養士を配置し、エリートアスリート対象に行われている栄養指導と同様の指導を実施することは現実的でない。著者らは一つの解決策として、ジュニア大会の出場時に成長曲線のグラフ提出を求め、成長遅延の早期スクリーニングの機会とすることを一案として提案している。

文献情報

原題のタイトルは、「Evidence of weight loss in junior female judo athletes affects their development」。〔Front Sports Act Living. 2024 Jun 13:6:1420856〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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