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屋外での活動時間を増やすことが、子どもの近視の発症予防や進行抑制につながる可能性 京都大学

子どもが屋外で過ごす時間を増やすという介入が、近視の発症を抑制する可能性を示唆する研究結果が報告された。京都大学の研究グループによるシステマティックレビューの結果であり、論文が「Cochrane Database of Systematic Reviews」に掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。

屋外での活動時間を増やすことが子どもの近視の予防につながる? 京都大学

研究の概要:外遊びする子どもは近視になりにくい?

近年、近視の増加が世界的な問題となっている。近視は、近くのものははっきりと見える一方で遠くのものがぼやけて見える屈折異常であり、適切な眼鏡やコンタクトレンズ等で屈折矯正を行わないと日常生活に不便が生じる。また、近視は緑内障や網膜剥離といった眼科疾患の危険因子となることが知られている。

現在、東アジアを中心として世界的に近視が増加していることから、近視の発症を減らしたり進行を遅らせることが喫緊の課題となっており、さまざまな療法が試みられている。これまで、「学校等において屋外活動を推奨して屋外活動時間を増やすことで、近視の進行を遅らせることができるのではないか」という仮説の下に、無作為化比較試験が複数行われており、一定の成果が報告されている。しかし、個別の報告から結論を導き出すには限界があることから、研究グループでは、これまでに実施された、または実施中のすべての無作為化比較試験を網羅的に集めて、それらの結果を統合して解釈するシステマティックレビューという研究手法を用いた検討を行った。

この結果、屋外活動の時間を増やすことは、子どもの近視の進行予防になるかどうかは未だ不明確なものの、子どもの近視発症予防につながる可能性は高いことが明らかになった。

研究の背景:屋外活動と近視との関係に関する初のシステマティックレビュー

近視の進行を抑制する治療として研究がよく行われているのは、アトロピン点眼治療やオルソケラトロジーといった療法。一方で、このような医学的な介入ではなく、環境を変化させる介入として、屋外活動時間に注目した研究も数多く行われており、複数の無作為化比較試験(無作為に割り付けした二群の一方のみに屋外活動の時間を増やす介入を行って、両群の近視進行や近視発症に差が出るのかを比較した研究)も行われている。

これらの研究からは、屋外活動時間を増加させることによって近視進行を抑制する効果や近視発症を予防する効果があったと報告されている。しかし、このような無作為化比較試験を俯瞰して統合的に解釈するための、適切な手法で行われたシステマティックレビューは行われていなかった。このため、屋外活動の時間を増やすことが近視に抑制的な効果を持つのかについて、十分な結論が出ているとは言えなかった。

研究のデザインには、コホート研究やケースコントロール研究などの観察研究、介入研究などさまざまなデザインがあるが、それぞれの研究が生み出すエビデンスの信頼性はデザインによって差があることが知られている。単体の研究において最も信頼性が高いと考えられているのが無作為化比較試験という研究手法だが、この無作為化比較試験でさえも、研究分野全体で俯瞰した場合には、「期待する結果が得られた場合は論文として報告されるものの、期待する結果が得られなかった場合は論文として報告されない」というバイアス(出版バイアス)の影響を受け、効果があったという報告ばかりが注目されることで、真の効果が歪められてしまう可能性を孕んでいる。

システマティックレビューは、結果の善し悪しや論文報告の有無を問わず、計画されたすべての無作為化比較試験を網羅的に集め、すべての結果を統合して解釈するという研究手法で、最も信頼できるエビデンスと考えられている。

研究手法・成果:3年後の近視発症率は介入群と対照群で約9ポイントの差

研究グループでは、子どもの屋外活動の時間を増やすことで近視の発症や進行を抑制することができるのかを明らかにするために、システマティックレビューの国際的なネットワークであるコクランの協力のもと、厳格な手法に則ってシステマティックレビューを行った。近視の進行抑制や発症抑制を目的として子どもの屋外活動時間を増やす介入を行った無作為化比較試験を、2022年6月の時点で網羅的に検索し、プロトコルで事前に設定された基準を満たすすべての研究を同定した上で、それらの結果を集約し、解析を行った。

対象となった無作為化比較試験は5件であり、そのうち4件は学校単位で無作為化し、屋外活動時間を増やす介入を行う学校と行わない学校に割付けする、クラスターランダム化比較試験だった。研究対象は小学生で、研究に参加した児童数の合計は1万733人だった。

それらの研究の結果を統合したところ、屋外活動の時間を増やしても近視の進行については一貫した結果が得られず、近視の進行抑制効果に関しては現時点では結論が出せなかった。しかしながら、屋外活動の時間を増やすことで、介入群の近視発症率は対象群の近視発症率と比べて1年後では2.4%(7.1 vs 9.5%)、2年後では4.2%(22.5 vs 26.7%)、3年後では9.3%(30.5 vs 39.8%)低く、近視の発症予防効果は期待できることが示された。

波及効果、今後の予定:最も現実的で効果的な介入を探る

本研究の結果は、屋外活動を増やすことが近視の発症と進行を抑制するのかを明らかにした、最もエビデンスレベルが高い結果。近視の進行抑制については、低濃度アトロピン点眼やオルソケラトロジーなど種々の治療が有効であることが示されてきたが、近視の発症予防に関する報告は限られており、近視の発症予防効果がシステマティックレビューによって示されたのは今回が初めて。

本研究で対象となった無作為化比較試験で行われた、屋外活動時間を増やすための介入方法は、授業に屋外活動を取り入れるもの、授業の間の休み時間に屋外で過ごすことを習慣づけるもの、屋外活動を促す動機づけとなるようなツールを配布するものなどさまざまだった。日本においても取り入れることが可能なプログラムもあることから、本邦におけるエビデンスの創出も期待される。

現在進行中のために本研究の対象とならなかった試験も複数あり、また、屋外活動に関する試験は今後も増加すると考えられる。このため、今後期間をおいて改めてシステマティックレビューを実施することで、近視の進行抑制に関する更なる知見や、どのような介入が有効かといった詳細な知見が得られる可能性がある。

関連情報

屋外活動時間を増やすことが子どもの近視発症を予防―ランダム化比較試験を集約したシステマティックレビューの結果―(京都大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Interventions to increase time spent outdoors for preventing incidence and progression of myopia in children」。〔Cochrane Database Syst Rev. 2024 Jun 12;6(6):CD013549〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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