機械学習で食品の機能性が予測可能に 876食品の新たな機能性とそのメカニズムの推定に成功
名古屋大学と九州工業大学は、ハウス食品グループ本社との共同研究により、生命医薬ビッグデータを用いて、食品の機能性を網羅的に予測する新しい機械学習手法を開発したと発表した。約5万種類の食品成分化合物と約4,800種類のヒトタンパク質の間の相互作用を探索し、疾患に関与するタンパク質群の制御を考慮するのが特徴で、この手法を用いて876種類の食品が有する新しい機能性や、その作用メカニズムの推定に成功したという。論文が米国化学会のジャーナル「Journal of Chemical Information and Modeling」に掲載されるとともに、プレスリリースが発表された。研究グループでは、本研究の提案手法は、疾病予防に対する食品の効率的な活用を促し、健康寿命の延伸へとつながることが期待されるとしている。
図1 研究イメージ
研究背景と内容:栄養素単位ではなく、食品ごとの健康への影響を機会学習で予測する
先進国では高齢化社会が進み、医療費の拡大が社会問題となっている。この原因の一つには健康寿命と平均寿命の乖離があり、その解決には健康維持に対する日常的な取り組みが重要。食品は日々摂取するものであり、また食品に含まれる成分化合物には生体を調整するものが数多くある。このことから、食品を選択的に摂取することは、疾病予防、さらには平均寿命延伸につながると考えられる。しかしながら、ほとんどの食品の健康効果やその作用メカニズムはよくわかっていない。
本研究では、生命医薬ビッグデータを用いて、食品の機能性を網羅的に予測する機械学習※1手法を開発した(図2)。
図2 食品成分化合物とタンパク質の相互作用を機械学習により推論し、網羅的に食品機能性を予測する計算手法の概要
まず、食品成分化合物とヒトタンパク質※2の相互作用を、生命医薬ビッグデータを機械学習で解析することによって導いた(図2 Step1)。次に、食品成分の化合物の構造情報を用いて、食品が作用するタンパク質群を推定した(図2 Step2)。最後に、疾患に関与するタンパク質群の制御を考慮することで、食品の機能性を予測した(図2 Step3)。
続いて、提案手法を876種類の食品に適用し、食品と健康との関連性を予測した(図3)。導き出された食品と機能性の組み合わせには、過去の実験的手法によって関連性が認められているものも多く含まれており、提案手法があらゆる食品の機能性について探索できることが確認された。
図3 広範な食品と機能性の関連性解析
食品には古くから知られている機能性があるにも関わらず、どのように生体内で作用しているか不明なものが非常に多く存在する。そこで、食品がどのようなメカニズムで機能するかを探索するため、食品成分化合物およびヒトタンパク質を介した食品機能性の階層的なネットワークを描いた。
例えば、グレープフルーツは34種類の成分化合物から14のヒトタンパク質を介して4種類の疾患と関連していることがわかる(図4)。
図4 グレープフルーツが有する機能性の基礎となる推定作用メカニズム
アルツハイマー病の重要な病理学的特徴の一つに老人斑の形成があり、老人斑形成に関わるはアミロイドβ※3で主に構成されている。APP※4と呼ばれるタンパク質はアミロイドβの形成に関わっており、今回フェルラ酸などがAPPと相互作用すると予測された。興味深いことに、過去の研究でアルツハイマー病モデルのマウスにフェルラ酸を投与することでアミロイドβの沈着が低減することが報告されており、それを反映する結果となった。
成果の意義:疾病予防のための食品の効率的な活用の提案へ
本研究では、広範な食品の潜在的な機能性を予測するために、生命医学ビッグデータを用いた機械学習手法を開発した。本研究は、食品と機能性を網羅的にコンピュータ上で予測した最初の研究であり、食品機能性についてこれまで知られていなかったメカニズムの解明につながる可能性や、疾病予防に対する食品の効率的な活用を促し健康寿命の延伸へとつながる可能性がある。提案手法は、疾病予防のための効果的な食事の選択や、食品化学研究の進展を促進することが期待される。
プレスリリース
食品の機能性を機械学習で予測する手法を開発 ~5万種の成分と健康への作用を探索、疾病予防に活用~(名古屋大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Revealing comprehensive food functionalities and mechanisms of action through machine learning」。〔J Chem Inf Model. 2024 Jul 1〕
原文はこちら(ACS Publications)