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フードリテラシーと食事の質に有意な関連 東京大学による国内6千人の調査研究

適切に食品を摂取するために必要とされる総合的な資質の指標である「フードリテラシー」の高い人ほど、1日全体の食事の質、および、朝食・昼食・夕食の質が高いことが明らかになった。東京大学の研究グループが、20~79歳の日本人5,998人を対象に行った調査の結果であり、「Appetite」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究グループによると、本研究は一般の人々を対象としてフードリテラシーと食事の質との関連を包括的かつ網羅的に検討した世界で初めての研究であり、研究成果は一般の人々の食事の質を改善するための栄養教育のあり方や行動変容を目指した介入内容を考えるうえで、重要な科学的根拠となることが期待されるという。

フードリテラシーと食事の質に有意な関連 東京大学による国内6千人の調査研究

研究の背景:フードリテラシーは食事の質に関連するのか?

不適切な食事摂取は、世界で1年あたり1,100万人の死亡(総数の22%)の原因であると推定されている。このため、食事の質※1に関連する要因の解明は、世界的な最優先課題の一つとされている。このような背景のもと、「フードリテラシー」という概念に注目が集まってきた。

※1 食事の質:個々の栄養素や食品に着目するのではなく、栄養学的に見たときの食事全体の内容を包括的に捉えようとする試みで、最も一般的な方法は、「食事を構成する主要な要素のそれぞれについて、摂取状況に応じたスコアをつけ、そのスコアの合計点をもって食事全体を評価する」というもの。本研究における食事の質の評価には、健康食インデックス(Healthy Eating Index)を用いた。これは、現時点での科学的知見を網羅的にまとめたうえで定められた「米国人のための食事ガイドライン」(Dietary Guidelines for Americans)の遵守の程度を測る指標で、日本人における有用性も検証済み(Murakami K,et al. Plos One 2020;15:e0228318.)。

フードリテラシーの定義は数多くあるが、最も広く引用されているのはVidgenとGallegosによって提唱された、「食品に関するニーズを満たし、摂取量を決定するに際して、計画・管理・選択・準備・摂取するために必要な、相互に関連した知識・技術・行動の集まり」という定義。フードリテラシーと食事の質との関連についての研究は、欧米諸国を中心に世界各地で行われてきた。しかし、いずれの研究でも、フードリテラシー、食事の質、あるいはその両者の評価が限定的であり、その全貌は明らかになっていなかった。

そこで本研究では、一般の人々を対象としたオンライン質問票調査を実施し、フードリテラシーと食事の質との関連を包括的かつ網羅的に検討することとした。

研究の内容:日本人6千人の横断調査

本研究は、2023年2~3月にオンライン質問紙調査に参加した20~79歳の日本人成人5,998人を対象とする、横断研究として実施された。

フードリテラシーの評価は、オランダで開発された29項目からなる妥当性が検証された質問票の英語版を、日本語に正確に翻訳したうえで用いた。合計点は1~5点の間となり、スコアが高いほどフードリテラシーが高いことを表す。

食事摂取量の推定には、妥当性を検証済みの食習慣質問票であるMDHQ(Meal-based Diet History Questionnaire)の短縮版を用いた。食事摂取量データをもとにして、健康食インデックス(Healthy Eating Index)を1日全体の食事、朝食、昼食および夕食のそれぞれについて算出した。このスコアの範囲は0~100点で、スコアが高いほど食事の質が高いことを表す。

参加者の平均年齢は46.8±15.1歳で、フードリテラシースコアの平均値は3.18±0.43。食事の質スコアの平均値は、1日全体では50.4±7.5、朝食は41.8±16.3、昼食は43.2±11.2、夕食は52.6±8.9だった。

フードリテラシーが高い人は食事の質が高い

図1は、フードリテラシーと1日全体の食事の質、朝食・昼食・夕食の質との関連。ここでは、フードリテラシースコアをもとに参加者を4群に分けたうえで、下位25%の群と比べたときの食事の質スコアの差を、25~50%の群、50~75%の群、および上位25%の群ごとに示している。

図1 フードリテラシーと1日全体の食事の質、朝食・昼食・夕食の質との関連

フードリテラシーと1日全体の食事の質、朝食・昼食・夕食の質との関連

(出典:東京大学)

食事の質と関連することが先行研究で明らかになっている因子(年齢、性別、BMIカテゴリー、教育歴、世帯収入、雇用形態、婚姻状態、居住形態、慢性疾患の有無、喫煙、栄養・健康関連職種、健康的な食べ方への動機づけスコア)を統計学的に調整した後、フードリテラシーと食事の質との間に統計学的に有意な正の関連が見られた。すなわち、フードリテラシーが高い人ほど、1日全体の食事の質、朝食・昼食・夕食の質が高いことが明らかになった。

フードリテラシーの高さは他の因子よりも強く、食事の質に関連している

図2は、フードリテラシーおよびその他の主要な因子と1日全体の食事の質との関連。フードリテラシーと1日全体の食事の質との関連の強さは、ここで挙げたその他の主要な因子と1日全体の食事の質との関連の強さを大きく上回っていることがわかる。このことから、フードリテラシーが食事の質に非常に強く関連する因子であることが示唆される。

図2 フードリテラシーおよびその他の主要な因子と1日全体の食事の質との関連

フードリテラシーおよびその他の主要な因子と1日全体の食事の質との関連

(出典:東京大学)

図3は、図1で示した解析を男性と女性、および栄養・健康関連以外の職種と栄養・健康関連職種に分けて行った結果。ここでは、フードリテラシーのスコアが1点上がったときの食事の質スコアの変化量を示している。なお、栄養・健康関連の職種とは、栄養士・管理栄養士、医師・歯科医師、看護師・助産師・保健師・薬剤師。

図3 性別および職種(栄養・健康関連か否か)別の解析

性別および職種(栄養・健康関連か否か)別の解析

(出典:東京大学)

フードリテラシーと食事の質との関連は、一貫して女性のほうが男性よりも強いことがわかった。一方、栄養・健康関連以外の職種と栄養・健康関連職種におけるフードリテラシーと食事の質との関連には、一貫した違いはないことがわかった。

食品の準備、間食、食費は、1日全体の食事の質、朝・昼・夕食の質のすべてと関連

今回使用したフードリテラシーのスコアには八つの下位尺度がある(食品の準備に関する技術、食の安定性、健康的な間食スタイル、社会規範と意識的な摂食行動、食品栄養成分表示の参照、日々の食事計画、健全な食費、健全な食品備蓄)。図4は、フードリテラシーを構成するこれら八つの下位尺度と、1日全体の食事の質、朝食・昼食・夕食の質との関連を示したもの。

図4 フードリテラシーを構成する八つの下位尺度と食事の質との関連

フードリテラシーを構成する八つの下位尺度と食事の質との関連

(出典:東京大学)

1日全体の食事の質、朝食・昼食・夕食の質のすべてと関連していたのは、食品の準備に関する技術、健康的な間食スタイル、および健全な食費の三つだった。

今後の展望

本研究では、20~79歳の日本人5,998人を対象としたオンライン質問票調査を行い、適切に食品を摂取するために必要とされる総合的な能力の指標である「フードリテラシー」が高い人ほど、1日全体の食事の質、朝食・昼食・夕食の質が高いことを明らかにした。本研究の成果は、一般の人々の食事の質を改善するための栄養教育のあり方や行動変容を目指した介入内容を考えるうえで重要な科学的根拠となることが期待される。今後は、今回の研究では扱えなかった間食に関して、その質に関連する要因をフードリテラシーも含めて明らかにしていくことが必要。

プレスリリース

適切に食品を摂取するために必要とされる総合的な資質の指標である「フードリテラシー」と食事の質との関連(東京大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Self-perceived food literacy in relation to the quality of overall diet and main meals: A cross-sectional study in Japanese adults」。〔Appetite. 2024 May 1:196:107281〕
原文はこちら(Elsevier)

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