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ウクライナ戦争が健康的/非健康的な食品の価格に与えた影響 英国の過去10年間の価格推移

2013年から10年間での食品価格の変化を、食品全体とカテゴリーごとに解析した結果が報告された。この間に食品価格は平均20%値上がりし、とくにウクライナ戦争後の上昇が顕著であることや、非健康的な食品は健康的な食品に比べて価格の相対的な上昇幅が大きいものの、絶対値を比較するとなお無視できない価格差が存在することなどが明らかにされている。著者らは、「健康的な食品は依然として高価であり、食生活の不平等を助長させる可能性がある」と指摘している。

ウクライナ戦争が健康的/非健康的な食品の価格に与えた影響 英国の過去10年間の価格推移

健康的な食生活と非健康的な食生活のコストの差は拡大したのか?

多くの生活習慣病のリスクは食生活に左右される。よって古くから、生活習慣病患者に対して食生活の問題点を明らかにし、それを是正する指導介入が行われてきている。しかし近年では、健康的な食生活は高コストであって、生活習慣病患者の一部はそのコスト負担のために健康的な食生活をすることが容易でないという、社会経済的な問題点が重視されるようになってきた。今回紹介する研究が行われた英国においても2013年の時点で、健康的な食生活を送るにはそうでない食生活に比べて最大、1日あたり1.20ポンド(1.50米ドル)の出費となることが報告されている。

上記の報告以降にも、食生活のコストに関する研究が多く行われてきているが、食品を含めさまざまな物価は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響を受けてやや上昇し、さらに食品に関しては、2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻をきっかけに大きく上昇している。これらを背景として本研究の著者らは、2013年からの10年間の食品の価格の推移を、物価のインフレ率を考慮したうえで解析した。

2013年から2021年までは3%低下、それ以降のわずか2年で22%上昇

この研究には、英国の物価に関する複数のデータベースを統合したデータセットを作成し、英国の食事摂取ガイドラインである「Eatwell Guide」に即した食品群に分類して価格の推移が検討された。また、英国保健福祉省の栄養素プロファイリングモデルに基づき、健康的な食品群とそうでない食品群に大別した解析も行っている。価格はすべて100kcalあたりに換算して比較された。

全体的な傾向として、2013年の第1四半期から2021年の第3四半期にかけて、食品の価格は3%低下していた。その後、COVID-19パンデミックとロシアのウクライナ侵攻の影響を受けて価格上昇に転じ、2021年の第4四半期から2023年の第1四半期にかけて、わずか2年で22%上昇。解析対象とした10年間では、ベースラインの2013年第1四半期が100kcalあたり0.56ポンド、2023年第1四半期が0.63ポンドであり、価格にして0.07ポンド、インフレを考慮した相対的上昇率が20%と有意に上昇していた(p<0.001)。

相対的な上昇率は高脂質・高糖質食品が最も高値

10年間の価格の変化を「Eatwell Guide」のカテゴリー別にみると、「高脂質・高糖質の飲食物(high in fat and/or sugar;HFS)」の相対的上昇率が30%であり、最も高値だった。反対に、パン、米、ジャガイモ、パスタなどの「穀物」は6%の上昇であり、最も低値だった。ただし、インフレ圧力(COVID-19パンデミックおよびロシアのウクライナ侵攻)以前と以後に分けた場合、穀物の価格はインフレ圧力以前に-15%低下し、インフレ圧力以後に22%上昇していた。

その他のカテゴリーに目を向けると、「野菜・果物」は10年間で7%上昇、肉、魚、卵、豆、その他のタンパク質食品で構成される「タンパク質食品」は26%上昇、「牛乳・乳製品」は27%上昇だった。

健康的な食品と非健康的な食品は、ともに0.07ポンド上昇

次に、健康的な食品群と非健康的な食品群に二分して行われた検討結果に着目する。

ベースラインの2013年第1四半期において、非健康的な食品群は100kcalあたり0.26ポンドと安価であるのに対して、健康的な食品群は0.74ポンドと3倍近く高価であった。10年後の2023年第1四半期にはそれぞれ、0.33ポンド、0.81ポンドであり、どちらも0.07ポンド上昇していた。これを相対的な上昇率として比較すると、前者は32%、後者は14%であって、非健康的な食品のほうが高値だった。

インフレ圧力の前後で分けると、インフレ圧力以前の非健康的な食品群の価格相対的上昇率は5%であるのに対して、健康的な食品群は-7%と下降していた。インフレ圧力以後は同順に26%、20%であった。つまり、健康的な食品群の価格のほうが、COVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻に伴い発生したインフレ圧力の影響を強く受けて変化した実態が浮かび上がった。

賃金上昇を伴わない食品価格の高騰で健康格差が拡大する懸念

著者らによると、本研究は近年のインフレ圧力を考慮し食品のカテゴリーごとの価格の推移を評価した、英国における初の研究だとしている。結論として、「インフレ圧力によって食品価格が22%上昇し、すべての食品群の価格に影響を及ぼしていた。健康的な食品群は非健康的な食品群に比べて、相対的な価格上昇幅が大きいわけではないが、もともとの絶対価格が高いため、食生活の不平等という状況を悪化させている可能性がある」としている。

また、論文の考察において、英国では過去3年の間に可処分所得に占める「Eatwell Guide」に即した食事のための出費が、高所得世帯では1%の増加にとどまっているのに対して、低所得世帯では7%も増大しているとする既報研究のデータを取り上げ、インフレに伴う賃金の上昇がないまま食品価格が上昇することで、健康的な食品へのアクセスの格差が拡大するのではないかとの懸念が語られている。

文献情報

原題のタイトルは、「Changes in UK price disparities between healthy and less healthy foods over 10 years: An updated analysis with insights in the context of inflationary increases in the cost-of-living from 2021」。〔Appetite. 2024 Mar 8:197:107290〕
原文はこちら(Elsevier)

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