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自己決定理論に基づくスポーツ栄養教育で有効性アップ 国内大学ボートアスリートでのRCT

知識の伝達ではなく、アスリートの自己決定を尊重したスポーツ栄養教育の有用性を示す研究結果が報告された。自己決定理論に基づく教育により、一般的な教育手法に比べて介入効果の継続性が高まる可能性があるという。筑波大学大学院での研究として、江夏直子氏(現日本スポーツ振興センターハイパフォーマンススポーツセンター)、清野隼氏(現桐生大学)らが、男子大学ボート競技アスリートを対象に行った無作為化比較試験の結果であり、「Nutrients」に論文が掲載された。

自己決定理論に基づくスポーツ栄養教育で有効性アップ 国内大学ボートアスリートでのRCT

スポーツ栄養教育における自己決定理論の有用性を検証

ボート競技は無酸素性能力と有酸素性能力の双方が求められる競技であり、また軽量級と重量級に分かれている。試合でのレース時間は6~8分ほどだが、普段のトレーニングは長時間に及ぶ。よって栄養戦略も競技カテゴリーやトレーニング負荷にあわせて個別化する必要がある。一方、大学生は食事を外食やテイクアウトで済ますことが多く、栄養に対する意識が低くなるという実態が報告されており、栄養教育の意義は高い。

近年、食行動の視点を加えた教育が重要とされてきている中、動機づけに着目した自己決定理論(self-determination theory;SDT)に基づく手法が有効であるとする理解が深まっている。栄養教育においても、自主性の経験(自律性)や自信のある行動に対する自分の責任を感じる状況(有能感)を提供し、教育者と生徒との間(関係性)で支援すると、動機づけや自己制御、自己決定が得られると考えられている。

男子大学ボート部アスリートを対象とするRCT

このような背景の下、著者らは、男子大学ボート競技アスリートの栄養教育において、SDTの採用が有用と考え、無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)による検証を行った。

研究の対象は、大学ボート部に所属していて日常的なトレーニングを継続している男子学生36人。学年の分布を一致させたうえで無作為に18人ずつ2群に分け、1群をSDTに基づく栄養教育群とした。また、一方の対照群も倫理的な観点から、栄養教育を行わないのではなく、基本的な内容は同一としSDTの特徴を可能な範囲でコントロールした栄養教育を行った。

栄養教育の手法

スポーツ栄養の教育方法は、web会議システムを利用した講義を4週間に1回、計3回実施したうえで、オンラインコミュニケーションツールを利用して小グループ(学生4~5人と指導者1人)での情報共有が週に1回続けられた。介入期間は合計12週間だった。

Web会議による講義の1回あたりの時間はSDT群90分、対照群60分で、教材は同じものを使い基本的な内容は同一だったが、SDT群では5Aアプローチ(ask, advise, assess, assist, and arrange〈質問、助⾔、評価、⽀援、調整〉)と動機づけ面接(motivational interviewing;MI)の要素を組み入れた介入プログラムが追加された。

オンラインコミュニケーションツールを利用した小グループの情報共有では、学生は日々の食事の写真を提示し、質問があればスポーツ栄養士に相談するなどした。さらにSDT群では、上記のweb会議による教育機会で習得したことを実践しているかをスポーツ栄養士に報告し、それを基にスポーツ栄養士は電子メールでアドバイスを返信した。

評価項目

主要評価項目は、体格関連指標(体重、体脂肪率、除脂肪体重)、および簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)で把握される栄養素および食品群の摂取量とした。そのほかに副次的評価項目として、スポーツ栄養知識テスト(sports nutrition knowledge test;SNK)の正答率および行動の動機づけ尺度(treatment self-regulation questionnaire;TSRQ)のスコアを検討した。

SNKは40項目の質問からなり、そのうちの栄養知識に関する質問における正答率の高さは、スポーツ栄養の知識の豊富さを表す。TSRQは臨床で広く利用されているツールで、本研究ではアスリートとしての健康管理目的として回答を促して使用した。

これらの評価は介入前(ベースライン)、介入終了直後(ベースラインから12週後)、および介入終了12週後(ベースラインから24週後)に行った。

スポーツ栄養の知識がSDT群でより豊富になり、果物摂取量などが有意に増加

退部などの脱落のため、解析対象はSDT群14人、対照群17人となった。ベースライン時において、年齢、体格関連指標、BDHQで把握された栄養素摂取量、およびSNKとTSRQのスコアに有意差はなかった。摂取している食品群については、肉類(p=0.043)と油脂類(p=0.004)に有意差がみられ、対照群の摂取量のほうが多かった。

体格関連指標とBDHQへの影響

主要評価項目として設定されていた体格関連指標に関しては、両群ともに時間効果が非有意で群間差も非有意だった。BDHQで把握された栄養素摂取量についても、炭水化物とカルシウムを除いて、時間効果と群間差が非有意だった。炭水化物(p=0.021)とカルシウム(p=0.026)の摂取量は、両群ともに介入により有意に増加し、群間差は非有意だった。
果物、乳製品および緑黄色野菜の摂取量が有意に増加:

一方、BDHQで把握された食品群の摂取量に関しては、果物、乳製品および緑黄色野菜の摂取量について、ベースラインから介入後にかけての時間効果に有意差が認められた。

例えば果物の摂取量は、対照群ではベースライン時が133.2±152.4g、介入終了直後が215.3±208.6gであるのに対して、SDT群は同順に195.2±146.1g、306.0±196.2gだった。多重比較検定により、介入後の変化に有意差が認められた(p=0.013)。また、SDT群における緑黄色野菜の摂取量は、ベースライン時が126.7±70.6g、介入終了直後が159.1±74.2gに増加、乳製品については同順に183.3±167.9gから257.0±147.0gに増加していた。

SNK、TSRQへの影響

副次的評価項目として設定されていたSNKの正答率は、対照群ではベースライン時が75.6±10.1%、介入終了直後が83.6±8.3%、介入終了12週後には79.0±15.9%であるのに対して、SDT群では同順に78.6±12.5%、87.2±7.5%、87.2±8.0%であり、対照群ではいったん習得した知識が時間経過によって低下する傾向にあったが、SDT群では知識が維持されていた。多重比較検定により、介入後の変化に有意差が認められた(p=0.004)。

また、タンパク質に関する知識の正答率は、対照群がベースライン時56.9±22.9%、介入終了直後72.5±27.0%、介入終了12週後68.6±24.9%であるのに対して、SDT群は50.0±28.5%、78.6±28.1%、81.0±21.5%であり、対照群ではいったん習得した知識が時間経過によって低下する傾向にあったが、SDT群では介入終了後にも知識が増加する傾向もみられた。多重比較検定により、介入後の変化に有意差が認められた(p<0.001)。

TSRQスコアについては有意な群間差や時間効果は観察されなかった。

これらの結果から著者らは、「SDTに基づいたスポーツ栄養教育が、栄養知識の向上を通じて食行動の改善、およびその継続につながる可能性が示された。学生アスリートの自己決定を重視したアプローチは、スポーツ栄養教育の有効性を高め得るのではないか」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effectiveness of Sports Nutrition Education Based on Self-Determination Theory for Male University Rowing Athletes: A Randomized Controlled Trial」。〔Nutrients . 2024 Mar 11;16(6):799〕
原文はこちら(MDPI)

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