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男性と女性で運動神経の活動特性が異なることが明らかに 運動方法への応用、病気や怪我の発症頻度の解明などに期待

運動神経の活動特性に性差があることが明らかになった。女性は男性と比較して運動神経活動が過剰であり、また男性は利き手と比較して非利き手において運動神経活動が過剰であるのに対して、女性は利き手と非利き手の運動神経活動には差がないという。金沢大学、中京大学、広島大学、米国マーケット大学の共同研究グループの研究成果であり、「European Journal of Applied Physiology」に論文が掲載されるとともに、各機関のサイトにプレスリリースが掲載された。

男性と女性で運動神経の活動特性が異なることが明らかに 病気や怪我の頻度の解明などに期待

研究の概要:運動神経の活動を数値化し、性差や非対称性について解析

運動神経とは、脳からの運動に関する指令を筋肉まで伝える神経線維のこと。ヒトが運動を理解するうえで、運動神経の活動特性を理解することは重要だが、運動生理学領域において、性差に注目して比較検討をした研究は非常に少ない。筋組織量や筋血流量といった筋肉に着目した研究結果は多数報告されているが、一方で運動神経活動に関しては報告が少なく、性差に関する情報が不足していた。

今回の研究では、運動神経活動を非侵襲的に計測可能な高密度表面筋電図法※1を用いて、運動神経の活動を数値化し、性差や非対称性(利き手と非利き手の活動の違い)について解析した。

※1 高密度表面筋電図法:60〜100個程度の表面電極を用いて、広範囲に筋活動を計測する手法。筋肉が動く際には、脳からの電気信号が運動神経を介して筋肉に伝わる。この時、電気信号は筋線維の上を伝播していく。高密度表面筋電図法では、広範囲の筋活動を計測することができるため、電気信号の伝播パターンを解析することで、神経と筋肉のつなぎ目(神経筋接合部)を見つけることができる。また、電気信号の波形解析をすることで、運動神経が活動するタイミングを同定することができる。

その結果、女性は男性と比較して運動神経活動が過剰であることを確認した。さらに男性は、利き手と比較して非利き手において運動神経活動が過剰である一方で、女性は利き手と非利き手の運動神経活動には差がないことを明らかにした。

これらの知見は将来、性別に応じた運動方法への応用、病気やケガの発症頻度などの解明へ応用されることが期待される。

研究の背景:高密度表面筋電図法で運動神経活動を計測する

運動生理学領域において、性差を対象にした研究は全体の15%に満たないことが報告されている。これは、女性特有の性ホルモンの影響を統制することが難しいことや、皮下組織厚や筋肉量といった組織量の違いなど、さまざまな要因に起因している。そのため、これまでの研究では男性を対象とすることが多いのが現状だった。

一方で、男性と比較して女性は靭帯損傷のリスクが高いことや、脳卒中という脳の血管の病気では、男性よりも女性がより症状が重度になる傾向があるなど、さまざまな性差が報告されている。このような性差の根底には運動神経活動のような神経系の活動自体にも性差があるのではないかと考えられていた。しかしながら、運動神経活動を定量的に測定するためには、針筋電図法という針を筋肉に刺して活動を計測する侵襲的な方法を用いる必要がある。そのため、誰でも簡単に計測することはできず、研究の実施が困難だった。

一方、近年、高密度表面筋電図法を用いることで、皮膚の上から筋肉が動いた際に生じる電気信号から運動神経の活動を数値として捉えることができるようになった。これにより、針筋電図と比較すると簡便かつ痛みなく運動神経活動を計測することが可能となった。研究グループでは、この高密度表面筋電図法を用いて運動神経活動の性差や、その非対称性の有無について明らかにすることを目的に研究を実施した。

研究成果の概要:女性は負荷により過剰な神経活動が生じ、男性では左右差が生じる

本研究では、健常若年者27名(男性13名〈22.4±1.0歳〉、女性14名〈22.2±0.9歳〉)を対象とした。対象者の手の第一背側骨間筋に表面電極を貼布し、まず人差し指を外転(外に開く)させる最大の筋力を測定した。その後、最大筋力の10%、30%、60%の筋力を発揮させ、その間の筋活動を計測した(図1)。

図1 電極の貼布位置(A)、運動課題(B)

電極の貼布位置(A)、運動課題(B)

MVC:Maximal voluntary contraction(最大随意筋力)
(出典:金沢大学)

測定は利き手と非利き手の両方を行い、測定順はランダムとした。計測された筋活動は、Decomposition techniqueという手法を用いて解析を行い、運動神経活動の定量解析を行った(図2)。

図2 Decomposition technique

Decomposition technique

EMG:electromyography(筋電図)、MUAP:Motor unit action potential(運動単位活動電位)
(出典:金沢大学)

女性は男性と比較して同程度の筋力を発揮しているにもかかわらず、過剰な神経活動が生じていることが明らかになった(図3B、C)。

図3 運動神経活動の性差

運動神経活動の性差

最大筋力の10~60%のすべての運動課題において女性が有意に高い活動を呈していた。*p<0.05
(出典:金沢大学)

また、女性は運動神経活動に非対称性がないのに対して男性は非対称性があり、利き手と比較して非利き手の運動神経活動が過剰であることが明らかになった(図4)。

図4 運動神経活動の非対称性の性差

運動神経活動の非対称性の性差

男性のみ運動神経活動の非対称性を認め、利き手と比較して非利き手は有意に高い活動を呈していた。**p<0.01
(出典:金沢大学)

今後の展開:性別に応じた運動方法の提案などにつながる可能性

本研究結果より、男性と女性では運動神経活動の特性が異なることが明らかになった。本結果は、男性は女性よりも非対称性が大きい(非利き手の方が過活動)ことがわかった。また、女性は低強度~高強度の運動課題において、男性よりも過剰な活動を呈しており、同じ運動強度であっても神経活動の負担には違いがあることがわかった。このような性差は、性別に応じた運動方法の考案、病気の進行や怪我の発症リスクの解明に繋がる可能性がある。

プレスリリース

運動神経の活動特性に性差があることを発見!(金沢大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Sex differences in laterality of motor unit firing behavior of the first dorsal interosseous muscle in strength-matched healthy young males and females」。〔Eur J Appl Physiol. 2024 Feb 16〕
原文はこちら(Springer Nature)

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