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パフォーマンス低下の原因は口の中にあるかも アスリートの口腔内の健康を左右する3因子

アスリート、とくにパワー系競技のアスリートにとっては「歯」の健康が重要だが、アスリートは口腔疾患の有病率が高いという報告がある。今回は、アスリートと歯の関連を総括した、ドイツの研究者によるレビュー論文を紹介する。アスリートの口腔衛生には、主として三つの因子が関与しているとのことだ。

パフォーマンス低下の原因は口の中にあるかも アスリートの口腔内の健康を左右する3因子

アスリートの口腔疾患

アスリートは炭水化物摂取量の確保、エナジードリンクに含まれている糖質、脱水に傾いた時の歯の浸食などのため、口腔疾患のリスクが高いと考えられている。口腔疾患がパフォーマンスの低下につながることを示唆する複数の研究報告があり、例えば歯痛は最大18%、パフォーマンスを低下させるというデータがある。

う蝕(虫歯)

文献検索の結果、アスリートの口腔疾患の有病率に関する17報の論文が抽出された。欧州発のデータが多く(65%)、また88%はう蝕(虫歯)または補綴の状況を調査していた。アスリートの虫歯の有病率は、報告により15~89%という広い範囲に分布していたが、それらのシステマティックレビューとメタ解析からは、世界のアスリートの虫歯推定有病率は46%という数値が示されている。

国際歯科研究学会(National Institute of Dental and Craniofacial Research Health)の統計では、成人の29.3%に未治療の虫歯があり、治療済の歯(DMFT)は20~34歳で6.7本と報告されているが、先進国のエリートアスリート(21~27歳)のDMFT指数は2.7~5.7の範囲だった。なお、2012年ロンドン五輪での報告では、歯科を受診した外国人選手278人の55%に虫歯の存在が確認されたという。

歯周病

歯周病については9報の論文がみつかった。エリートアスリートにおける歯肉炎の有病率は58~77%と報告されていた。例えば2012年のロンドン五輪の開催期間中のデータでは、中等度から重度の歯周病の有病率は最大15%と報告されている。ただし、比較対象群のある研究は少なく、あるラグビー選手と非アスリート対象研究では、ラグビー選手のほうが歯肉の状態が有意に悪かったという。

アスリートの競技レベル別に比較した研究からは、競技アスリートと非競技アスリートでは前者のほうが歯周炎の有病率が高いことが示されている(40 vs 12%)

口腔内の状態がパフォーマンスやQOLに及ぼす影響

5件の研究で、自己申告のアンケートを用いて口腔内の状態とパフォーマンスやQOLとの関連を調査していた。それらの研究から、口腔内の状態がパフォーマンスに影響を及ぼしていると考えているアスリートが6~18%で、QOLについては20~28%が悪影響を受けているととらえていることが示された。

一般に、アスリートは一般人口よりも身体活動量が多いことから、身体的には健康な存在として理解されることが多い。しかし口腔内の状態に関しては、このような一般的な認識とは反対であることを示す報告が少なくない。

アスリートの口腔内の状態が悪化しやすい理由

アスリートの口腔内の状態が悪化しやすくなる理由は、おもに三つ挙げられる。酸化ストレス、食習慣、および口腔衛生だ。

酸化ストレスについては、高強度トレーニングがその一因であり、免疫能の低下や炎症反応の亢進などを伴い、歯周炎を惹起すると考えられる。また口腔衛生に関しては、トレーニング中の口腔内の乾燥が再石灰化と抗菌活性を低下させると考えられる。論文ではそれらのメカニズムを詳細に解説しているが、ここでは二つ目の項目である、食習慣の関与の記述を少し詳しく紹介する。

炭水化物とう蝕(虫歯)・歯周病

スポーツには大量のエネルギーを必要とするが、その基質として炭水化物が重要視されている。一方、口腔内の微生物の組成は、食物残渣と唾液のpHレベルと密接に関連しており、炭水化物食品は微生物の代謝にとっても重要な基質である。食事の摂取間隔が短いほど、歯のダメージは大きくなる。

以上は主にう蝕(虫歯)のリスクを増大させる要因だが、炭水化物が歯周病のリスクを押し上げるとする報告もみられる。中でもスクロースは歯垢の量の増加とバイオフィルムの形成に寄与し、歯肉炎や歯肉出血リスクを増やすと考えられている。反対に、炭水化物量が少ないことを特徴とするパレオ食(旧石器時代食)を4週間続けたところ、歯垢は増加するものの歯肉の状態は良好に保たれたという報告がある。

食品のほかに、スポーツドリンクもエネルギーを供給するという目的のため炭水化物が含まれていることが多く、口腔の状態に影響が及ぶ可能性が想定される。

保護的に働く栄養素

一方、アスリートの食事には、口腔環境を改善させる可能性のある栄養素を多く含んでいることがある。例えばビタミンA、C、Eやグルタチオン(グルタミン酸、システイン、グリシンから成るトリペプチド)は抗酸化作用があり、歯や歯周組織の健康にプラスに働く可能性がある。

論文ではこのほか、アスリートの口腔疾患を防ぐ研究の今後の方向性として、プロ/プレバイオフィクスの応用、歯周ポケットの深さ(periodontal pocket depth;PPD)だけでなく唾液検体を用いた酸化ストレスの評価などについて解説。結論は、「アスリートが口腔の健康を増進し、スポーツ食による口腔疾患や歯科疾患のリスクを軽減するには、適切な口腔衛生の実践、口腔の健康増進、6カ月ごとのルーチンの歯科健診、教育的介入、個別の歯科ケアの指導が必要」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Sports Diet and Oral Health in Athletes: A Comprehensive Review」。〔Medicina (Kaunas). 2024 Feb 13;60(2):319〕
原文はこちら(MDPI)

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