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尿検査を何回行えば、食塩や野菜・果物の摂取量のガイドラインからの逸脱を把握できる?

個人のナトリウム(Na)やカリウム(K)、およびその比(Na/K比)、野菜・果物の習慣的な摂取量を評価する際に、食事調査やバイオマーカーの測定が行われる。しかし、個人内変動(日ごとのばらつき)があるため、その量を推定するには単回の実施では評価の精度は十分でない。では、ガイドラインからの逸脱判定という目的において許容可能な程度の評価精度を得るには、調査や測定を何回行えばよいのだろうか?

尿検査を何回行えば、食塩や野菜・果物の摂取量のガイドラインからの逸脱を把握できる?

この臨床疑問の解答となり得る研究結果が報告された。奈良女子大学生活環境学部食物栄養学科の高地リベカ氏らが国立がん研究センターなどと行っている次世代多目的コホート研究(JPHC-NEXT)の食物摂取頻度調査票妥当性研究により得たデータを用いた解析により明らかにしたもので、「Nutrients」に論文が掲載された(筆頭は大学院生の鈴木碧氏)。単回の24時間蓄尿でも、果物以外の摂取量の逸脱を中等度以上の精度で判定可能だという。

精度と効率を兼ね備えた、ガイドライン遵守状況の評価法を探る研究

Naの摂取量が多いこと、Naの排泄を促進するKの摂取量が少ないこと及び両者の比が高いこと、さらにKを含む微量栄養素の豊富な野菜や果物の摂取量が少ないことは、いずれも健康リスクを高めるため、世界保健機関(World Health Organization;WHO)や各国で摂取推奨量を定めたガイドラインが策定されている。ただし、個人個人の習慣的な摂取量がガイドラインの推奨を満たしているか否かを判定することは、実際には高いハードルがある。

例えば、食事記録(飲食物のすべてを計量などしながら記録)や24時間思い出し法(調査員が面談を行い昨日の飲食物を思い出してもらう)は、習慣的な摂取量を算出する場合には長期に繰り返す必要があり、被験者にかなりの負担が生ずる。そのうえ、Naの摂取量算出では調味料の使用量や残量まで推計する必要があり、他の栄養素に比して精度が劣ることもある。24時間蓄尿中のNa、K排泄量を摂取量そのものとして評価する方法は比較的信頼性の高い評価方法とされているが(殆どが尿中に排泄されるため)、採尿直前の摂取量の多寡の影響が大きいために、単回での習慣的な摂取量の評価には限界があると指摘されてきた。

また、蓄尿の煩雑さのため、頻繁に繰り返し行うことは難しい。これらを背景として高地氏らは、NaやKに加えて野菜・果物の習慣的な摂取量のガイドライン遵守状況を許容可能な精度で評価するには、24時間蓄尿を最低何回実施すればよいかを検討した。

四季ごとに3日、計12日間の食事記録と、5回の24時間蓄尿のデータを用いて解析

この研究は、JPHC-NEXT妥当性研究参加者のうち、40~74歳でデータ欠落のない202人(男性39.6%)を解析対象として行われた。参加者は2012年11月~2013年12月に約3カ月間隔(四季それぞれ)で、連続3日間(平日2日、週末1日)計12日にわたり詳細な秤量食事記録を行い、各3日間の最終日には24時間蓄尿を行った。24時間蓄尿については、初回の採尿から1年後の時点にも行い、実施回数は計5回とした。

24時間蓄尿から、NaとKの濃度と排泄量の測定、Na/K比(モル比)の算出、および、クレアチニンや年齢等で補正する川崎法に基づくNa、K排泄量予測値の算出を行った。

遵守状況の評価の基となるガイドライン基準は、NaとKについては「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に準拠し、男性はNa(食塩相当量)7.5g未満、K3,000mg以上、女性はNa(食塩相当量)6.5g未満、K2,600mg以上とした。Na/K比については2.0未満が理想的と提案されているが、これを満たす参加者がわずかであったため、本研究の参加者の摂取量に基づく中央値(男性3.3、女性2.9)未満を解析に用いた。野菜や果物の摂取量については、「健康日本21」の目標である、野菜350g以上、果物100g以上とした。

この研究では、12日間秤量食事記録による(習慣的)摂取量に基づく逸脱判定を「正しい」として、尿中マーカー(24時間蓄尿による各項目)をスクリーニング検査値として用いた場合の検査精度をROC解析(感度:検査正解率が高く偽陽性率が低いとき精度が高い検査法とされる)によって検討した。摂取量の基準からの逸脱の有無を尿中マーカーにより判定できるとするか否かの判断については、AUC(ROC曲線下面積)が0.7を上回り、かつ、その95%信頼区間の下限が0.5を上回っている場合に、中等度以上の精度であって「判定に有用」と定義した。そのうえで、1回分の24時間蓄尿のデータを用いた場合、2回分のデータを用いた場合、3回分、4回分、5回分と、ROC解析に使用する尿のデータ数を増やすことでAUCがどのように変化するかを検討した。なお、いつ測定されたデータを解析に用いるかには、個人別に測定回をランダムに割り当てた1~5(回分)の数字を採用した。

1回分の24時間蓄尿でも、NaやK摂取量の推奨からの逸脱を把握できる

研究参加者の年齢は、男性が中央値59歳、女性58歳、BMIは同順に23.8 kg/m2、22.4 kg/m2だった。食事記録に基づくNa摂取量は同順に4,424mg、3,694mg、K摂取量は3,236mg、2,934mg、Na/K比は3.3、2.9であり、いずれも男性のほうが高値だった。野菜摂取量は336g、332gで性差はなく、果物摂取量は78g、131gで女性のほうが多かった。

では、ROC解析の結果をみていこう。

NaやKの24時間蓄尿中排泄量または川崎法予測値による判定なら、1回分で習慣的摂取量の逸脱を判定可能

NaおよびKの習慣的な摂取量の判定について、排泄量および川崎法予測値は、1回分の24時間蓄尿のデータであっても、男性・女性いずれも前述の「判定に有用」の定義を満たしていた。また、解析に使用する24時間蓄尿のデータ数を増やしても、判定精度(AUC)はほとんど上昇しなかった。一方、濃度を用いた場合は、利用する尿のデータ数にかかわらず、「判定に有用」の定義を満たさなかった。

Na/K比についても1回分の24時間蓄尿のデータの使用で、男性・女性ともに「判定に有用」の定義を満たし、解析に使用する尿のデータ数を増やした場合、AUCがより上昇する傾向があった。

果物摂取量は24時間蓄尿では逸脱を判定できない可能性

次に、K排泄量に基づく野菜摂取量の逸脱の判定に関しては、男性では24時間蓄尿のデータ数が1~5回分のいずれであっても、「判定に有用」の定義を満たすことがわかった。女性も、2回分の24時間蓄尿のデータを用いた場合にAUCが0.68とやや0.7を下回った以外、おおむね「判定に有用」の定義を満たしていた。

一方、K排泄量に基づく果物摂取量の逸脱の判定に関しては、男性は解析に使用する尿のデータ数にかわらず、「判定に有用」の定義を満たさなかった。女性も3回分の尿のデータを用いた場合のみ定義を満たしたが、全体として有用性は認められなかった。

個人の日常的なNa、K、野菜、果物の摂取量を推定するのに必要な評価回数

以上のように、ガイドライン基準からの逸脱を見い出すのみであれば、Na、K摂取量、Na/K比、野菜摂取量については、24時間蓄尿を1回行うだけで中等度以上の精度で判定可能であることが示唆された。

研究ではこれに続き、個人の習慣的なNa、K摂取量及びNa/K比を正確に(例えば誤差±10%以内)推定するのに必要な食事記録の施行回数を、24時間蓄尿によるものと比較している。その結果、食事記録に基づくNa、K摂取量及びNa/K比のいずれも、より信頼性が高いとされる24時間蓄尿に基づいて算出された必要回数とほぼ同様であること(1週間~10日間)、野菜や果物の摂取量を同食事記録によって推定するには、かなりの回数の調査回数(野菜:18日間、果物:72日間)を行う必要があることなどがわかった。

一連の結果を基に著者らは、「12日間の食事記録から推定したNaとKの摂取量およびNa/K比のガイドライン基準からの逸脱が、24時間蓄尿を1回行うことで判定できることが示された。また、野菜摂取量の逸脱も1回の24時間蓄尿で判定可能である。それに対して果物の摂取量は、24時間蓄尿を複数回反復しても、逸脱を検出することは困難と考えられた」と結論づけている。

なお、本研究の限界点としては、スポット尿を基にした推算式である川崎法を用いているが、スポット尿を使用できていないこと、対象が40歳以上であって、栄養素摂取量の個人内変動がより大きいとされている若年者が含まれていないことなどが挙げられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Urinary Biomarkers in Screening for the Usual Intake of Fruit and Vegetables, and Sodium, Potassium, and the Sodium-to-Potassium Ratio: Required Number and Accuracy of Measurements」。〔Nutrients. 2024 Feb 1;16(3):442〕
原文はこちら(MDPI)

関連情報

国立がん研究センター 予防研究グループ

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