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日本人男性の高血圧リスクが低い食習慣とは? 機械学習を応用した検討による知見

日本人男性の高血圧発症リスクと、摂取頻度の高い食品や食行動および調理方法で定義づけられる「食習慣」との関連が明らかになった。食事と高血圧リスクとの関連に関するこれまでの研究は、主として摂取栄養素や食品、または欠食や就寝前の摂食などの食行動をそれぞれ個別に評価しているが、本研究では教師なし機械学習という手法を用いることで、それらを組み合わせた食習慣として評価し解析が行われている。その結果、魚介類とアルコールをベースとする食習慣に比べて、肉類ベースの食習慣、または乳製品・野菜ベースの食習慣は、高血圧発症リスクが有意に低い可能性が示されたという。

日本人男性の高血圧リスクが低い食習慣とは? 機械学習を応用した検討による知見

東北大学大学院医工学研究科健康維持増進医工学分野の稲田仁氏(現:国立精神・神経医療研究センター病態生化学研究部)、永富良一氏(兼担:同大学大学院医学系研究科運動学分野)らの研究によるもので、「European Journal of Nutrition」に論文が掲載された。

摂取栄養素・食品・食行動を含めた「食習慣」と高血圧リスクとの関連を検討

高血圧リスクに食習慣が関与していることは広く認識されている。ただし、食事は特定の栄養素や食品のみではなく、他の食品や栄養素との組み合わせとして摂取される。また、摂取速度や摂取時刻、欠食頻度などの食行動、あるいは調理法など、食習慣を規定する因子は多数存在している。このため、食習慣の把握は簡単でない。

とは言え、これまでにも主成分分析などの統計学的手法を用いた研究によって、高血圧リスクを高める可能性のある食習慣が報告されてきている。ただし、従来の解析手法は、検討可能な因子の数が限られていたり、非線形の関連性は把握が困難などといった限界点があった。

一方、近年、膨大なデータの中から前提条件を設定することなく、何らかの関連性のある情報を抽出する「教師なし学習(unsupervised learning)」という機械学習が研究に用いられるようになってきている。稲田氏、永富氏らは、この教師なし学習によって食習慣をクラスター化し、そのうえで多変量ロジスティック回帰分析により、その食習慣と高血圧リスクとの関連を検討した。

教師なし機械学習で、食習慣を4パターンに分類

この研究は、宮城県の仙台卸商センターの勤務者を対象として、2008~11年に行われた非感染性疾患に関する縦断研究のデータを用いて実施された。2008年の健診受診者のうち、高血圧や心疾患の既往がある人、データ欠落者、およびサンプル数がわずかであることから女性も除外して、447人の男性を解析対象とした。高血圧の新規発症は、2009年または2010年の健診時データにより判定した。なお、健診は2011年も実施されたが、同年3月に発生した東日本大震災によって研究参加者の食習慣が影響を受けた可能性があるため、2011年のデータは解析に用いなかった。

食習慣は簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)を用いて、58種の食品の摂取頻度、12項目の食行動、9項目の調理法、計79項目を評価した。その他に共変量として、年齢、喫煙・運動習慣、教育歴、睡眠習慣、居住環境(独居/同居)、抑うつレベルなどを把握した。

教師なし機械学習の結果、食習慣によって対象全体が以下の4パターンに分類された。

高炭水化物で低タンパク質のパターン(クラスターA)

クラスターAは、高炭水化物、低タンパク質を特徴とする集団で、食品としてはパスタや洋菓子、コーヒーなどの摂取頻度が高く、食行動では朝食の欠食者が比較的多く(58.7%)、また独居者が多かった(36.0%)。

このクラスターAには75人(16.8%)が該当し、平均年齢は40.25歳、BMIは22.90であり、高血圧の新規発症者は6人(8.00%)だった。

乳製品や野菜をベースとするパターン(クラスターB)

クラスターBは、乳製品や野菜を中心とする食生活の集団で、食品としては豆腐・油揚げ、じゃがいも、米、アイスクリームなどの摂取頻度が高く、食行動では朝食を欠かさず、そのほかに教育歴が長い人が多いという特徴があった。

このクラスターBには130人(29.1%)が該当し、平均年齢は44.88歳、BMIは23.73であり、高血圧の新規発症者は17人(13.08%)だった。

肉をベースとするパターン(クラスターC)

クラスターCは、肉類の摂取量が多いことで特徴づけられる集団で、食品としてはパンなどの摂取頻度が高く、食行動では就寝前の摂食(67.0%)、朝食欠食(64.0%)が多く、また睡眠の質が良くない人(54.0%)が多かった。

このクラスターCには100人(22.4%)が該当し、平均年齢は43.74歳、BMIは22.75であり、高血圧の新規発症者は9人(9.00%)だった。

魚介類を多く摂取し飲酒量の多いパターン(クラスターD)

クラスターDは、魚介類の摂取量が多く、またアルコール摂取量も多いことが特徴の集団で、食品としては魚のほかに納豆や卵、漬物の摂取頻度が高かった。また、調理法に関連することとして、外食を基準として家庭の食事の味付けを比較した場合に、‘濃い‘とする回答が多かった。

このクラスターDには142人(31.8%)が該当し、平均年齢は47.58歳、BMIは23.08であり、高血圧の新規発症者は32人(22.53%)だった。

食塩摂取量を調整しても、クラスターBとCはDより高血圧発症オッズ比が低い

次に、高血圧発症リスクが最も高いと考えられたクラスターDを基準として、多変量ロジスティック回帰分析を施行した。年齢、BMI、喫煙・運動習慣、教育歴、糖尿病、脂質異常症、および塩分摂取量を調整後、クラスターAはOR0.35(95%CI;0.13~0.92)、クラスターBはOR0.43(95%CI;0.21~0.86)、クラスターCはOR0.38(95%CI;0.16~0.86)であり、いずれも発症オッズ比が有意に低かった。感度分析として年齢を一致させたサンプルでの解析でも、クラスターBやCに関しては有意性が確認された。

以上より著者らは、「日本人男性において、魚介類とアルコールの摂取量が多い食習慣に比べ、乳製品や野菜が多い食習慣、または肉類をベースとした食習慣は、高血圧発症リスクが低いことと関連していた」と結論づけている。

なお、本研究では上記の解析のほかに、主成分分析によるクラスター化も試みられたが、明確なクラスターを生成できなかったという。またDASHスコアを用いた解析が行われたが、高血圧発症リスクとの有意な関連が認められず、その理由として、スコアが比較的低い範囲に分布していたことの影響が考えられるとのことだ。

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary patterns associated with the incidence of hypertension among adult Japanese males: application of machine learning to a cohort study」。〔Eur J Nutr. 2024 Feb 25〕
原文はこちら(Springer Nature)

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