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各都道府県の生活保護の被保護者割合と野菜・食塩摂取量に有意な関連 さらにBMIや死亡率にも関連性

都道府県ごとの性別の生活保護被保護者割合(以下、被保護者割合)と、生活習慣関連指標や死亡リスクとの間に有意な関係があることが報告された。聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科の西信雄氏らの研究によるもので、「Preventive Medicine Reports」に論文が掲載された。

各都道府県の生活保護の被保護者割合と野菜・食塩摂取量に有意な関連 さらにBMIや死亡率にも関連性

「生活習慣病は自己責任」ではない

生活習慣病と総称される疾患のリスクが、個人の生活習慣と強い関連のあることはよく知られている。しかし近年は、疾患リスクを高めてしまう生活習慣そのものが社会経済的要因によって左右されることへの理解が深まってきた。現在は「生活習慣病は個人の問題」とする単純な解釈ではなく、社会構造に問題の一因が存在していると考えられるようになり、そのような視点で行われた研究報告が増えている。

西氏らも既に、社会経済的因子と健康関連指標との関係を明らかにする目的で研究を行い、都道府県別1人当たり県民所得が死亡リスクや生活習慣と有意な関連のあることを明らかにしている。

関連情報
都道府県ごとの1人当たり県民所得と生活習慣や死因別死亡リスクに有意な関連 1995年以降の縦断的解析

ただし、国内の就労者率は男性が70~80%であるのに対して女性は50%程度であるため、1人当たり県民所得は男性の収入によって規定されやすい。西氏らの前回の研究では、収入については性差を考慮せずに、アウトカムとの関連は性別に検討するという、解析手法上の限界点があった。

性差を考慮可能な被保護者割合との関連を検討

一方、疾患リスクと社会経済的因子との関連を考える時、日本の社会構造の時代的な変化を無視することはできない。日本はかつて「1億総中流社会」などと言われるほど経済的格差が少ないとされる国だったが、相対的貧困率(可処分所得が中央値の半分未満の人口割合)は1985年の12.0%から2015年の時点で15.7%に上昇し、現在では先進国の中でも格差が大きな国として位置づけられている。

このような格差の拡大は、生活保護受給世帯が上記と同期間に1,000世帯当たり21.0世帯から32.4世帯に増加したことにも表れている。そして、生活保護の受給は世帯単位であるものの、被保護者の性別の情報を把握することが可能だ。西氏らはこの点に着目し、今回、都道府県ごとの被保護者割合を性別に把握して、その値と県民の生活習慣や死亡リスクとの関連を検討するという研究を行った。

都道府県ごとの性別の被保護者割合で4群に分類して比較

解析に用いたデータは、生活習慣については厚生労働省「国民健康・栄養調査」、死亡リスクについては同「人口動態統計特殊報告」、被保護者割合については同「被保護者調査」を用いた。

死因は、全死亡(あらゆる原因による死亡)、がん死亡、心疾患死亡、脳卒中死亡について検討。生活習慣関連では、40~69歳のBMI、摂取エネルギー量、野菜摂取量、食塩摂取量、歩数、現喫煙者率、習慣的飲酒者率を検討した。

被保護者割合は男性・女性ともに経時的に上昇

千人当たりの被保護者割合(‰)は以下のように、性別にかかわらず経時的に上昇していた。男性は2000年が4.61で、2005年は6.02、2010年7.72、2015年8.61、女性は同順に5.53、6.80、7.74、8.32。

生活習慣や死亡リスクとの関連の検討に際しては、被保護者割合の都道府県別四分位数に基づき、全体を4群に分類して解析した。

生活習慣と被保護者割合の関係

では結果について、まず生活習慣関連指標の男性での経時的変化、被保護者割合との関係、女性での経時的変化、被保護者割合との関係の順にみていこう。なお、経時的変化は、1999~2001年、2003~05年、2007~09年、2012年、2016年という五つのピリオドで評価されている。

男性

男性のBMIは経時的に有意に上昇し、摂取エネルギー量、野菜摂取量、食塩摂取量、歩数、現喫煙者率、習慣的飲酒者率は有意に低下していた(すべてp<0.001)。

被保護者割合との関係については、BMIは被保護者割合の高四分位群(被保護者割合が高い都道府県)ほど高値だった(p=0.03)。一方で、摂取エネルギー量(p=0.03)や野菜摂取量(p=0.005)、食塩摂取量(p=0.03)は、低四分位群(被保護者割合が低い都道府県)ほど高値だった。

現喫煙者率や習慣的飲酒者率は、被保護者割合との関係が有意ではなかった。歩数については低四分位群で高い傾向にあったが評価ピリオドによって異なり、全体としての有意性は境界値だった(p=0.05)。

女性

女性では、男性とは反対にBMIが経時的に有意に低下していた(p<0.001)。摂取エネルギー量、野菜摂取量、食塩摂取量、歩数は男性同様、有意に低下していた(すべてp<0.001)。現喫煙者率と習慣的飲酒者率の経時的変化は有意ではなかった。

被保護者割合との関係については、BMIは被保護者割合の高四分位群ほど高値であり(p=0.046)、現喫煙者率も同様の関係にあった(p=0.001)。一方で野菜摂取量(p=0.02)と食塩摂取量(p=0.004)は、低四分位群ほど高値だった。

摂取エネルギー量や歩数、習慣的飲酒者率は、被保護者割合との関係が有意ではなかった。

死亡リスクと被保護者割合の関係

次に死亡リスクについて、男性、女性の順に被保護者割合との関係をみていく。なお、死亡リスクの経時的な変化は、性別や死因にかかわらず、すべて有意に低下していた(すべてp<0.001)。

男性

男性の全死亡、がん死亡、心疾患死亡のリスクは被保護者割合と有意な関係があり、いずれも高四分位群ほど高値だった(すべてp<0.001)。脳卒中死亡のリスクについては被保護者割合との関係が有意ではなかった。

女性

女性も同様に、全死亡(p<0.001)、がん死亡(p=0.001)、心疾患死亡(p<0.001)のリスクは被保護者割合と有意な関係があり、いずれも高四分位群ほど高値だった。脳卒中死亡のリスクについては被保護者割合との関係が有意ではなかった。

格差社会における健康リスクを被保護者割合から理解する

以上の結果の主要なポイントをまとめると、BMIは男性で経時的に上昇し、女性では低下して、性別にかかわらず被保護者割合の高い都道府県ほどBMIが高かった。野菜・食塩摂取量は性別にかかわらず経時的に減少し、被保護者割合の高い都道府県ほど野菜・食塩摂取量が少なかった。全死亡および、がん、心疾患による死亡のリスクは被保護者割合の高い都道府県ほど高かった。

著者らは、「被保護者割合を用いて死亡率と生活習慣の傾向をモニタリングするという研究手法は、社会経済的因子の健康への影響の理解を深め、公衆衛生政策を推進するうえで貴重なアプローチと言える」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Mortality from major causes and lifestyles by proportions of public assistance recipients among 47 prefectures in Japan: Ecological panel data analysis from 1999 to 2016」。〔Prev Med Rep. 2024 Feb 1:39:102635〕
原文はこちら(Elsevier)

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