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たくさん食べて体をたくさん動かすことが重要 日本人高齢者に最適なエネルギー摂取量を解明

高齢者の歩数に応じた死亡リスクが最も低くなる1日当たりの最適なエネルギー摂取量が報告された。国内の65歳以上の地域在住高齢者4,159名を対象として、三軸加速度計から評価した歩数と二重標識水法による補正エネルギー摂取量を組み合わせて、死亡リスクに対する影響を検討した結果、明らかになった。早稲田大学スポーツ科学学術院、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所、びわこ成蹊スポーツ大学、京都先端科学大学の共同研究グループの研究によるもので、「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に論文が掲載されるとともに、関係機関のサイトにプレスリリースが掲載された。

日本人高齢者の歩数に応じた死亡リスクの低下に最適なエネルギー摂取量が明らかに 国内4,159名のデータを解析

発表のポイント

  • 1日あたりの歩数が4,000歩未満の高齢者が歩数を増やすことで、エネルギー摂取量が増加する。しかし4,000歩以上の高齢者がより歩数を増やしても、エネルギー摂取量の増加効果はみられなかった。
  • 歩数が多く(5,000歩/日以上)とエネルギー摂取量も多い(男性は2,400kcal/日以上、女性は1,900kcal/日以上)の高齢者が、最も死亡リスクが低かった。ただし、歩数とエネルギー摂取量の相互作用効果はみられなかった。
  • 高齢者の死亡リスクが最も低くなる最適なエネルギー摂取量は、歩数100歩あたり35~42kcal/日だった。

これまでの研究でわかっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)

エネルギー摂取量は、食品に含まれるタンパク質、脂質、炭水化物およびアルコールが、身体の中で代謝されることで得られる利用可能なエネルギー量の合計値。エネルギー摂取量は、エネルギー出納(エネルギー摂取量と消費量のバランス)を維持することで体重管理に貢献する。エネルギー摂取量は、単に体格の維持のために利用されるわけではない。例えば、タンパク質による筋量の増加効果は、エネルギー消費量よりも多くのエネルギーを摂取することで高くなる。このように、エネルギー摂取量はエネルギー出納の動的平衡を維持することで、栄養素による生体機能調節を効率よく発揮するために重要。

身体活動不足は健康に悪影響を及ぼし、寿命を縮める。1日あたりの歩数は誰でも簡単に理解することができる身体活動量の客観的な尺度であり、身体活動量の目標設定を容易にし、自身の歩数を知ることで身体活動量を増やす動機付けを高めるために効果的。身体活動によるエネルギー消費量はエネルギー出納を調整するためにも重要で、体格は死亡リスクと密接に関係している。

従って、高齢者の体格に影響を及ぼすエネルギー摂取量と身体活動量を同時に評価し分析することが重要。しかし、高齢者の死亡リスクに対するエネルギー摂取量と身体活動量の組み合わせ効果は不明だった。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

研究グループでは、2011年から京都府亀岡市で行われている介護予防の推進と検証を目的とした前向きコホート研究※1である京都亀岡スタディに参加した4,159名のデータを使用した。三軸加速度計※2で歩数を評価し、エネルギー摂取量は妥当性を確認した食物摂取頻度調査法※3を用いて評価した。自己申告による食事調査法はエネルギー摂取量を過小評価するため、研究グループが以前に開発した、二重標識水法※4で測定したエネルギー消費量を基にエネルギー摂取量を補正する式を用いて、補正エネルギー摂取量を算出した。

※1 前向きコホート研究:疫学研究手法の一つ。疫学とは集団を対象として疾病の発生原因や流行状態、予防法などを研究する学問。この手法は調査時点で仮説として考えられる要因を評価し、その対象者が保持する要因によってその後の疾病や死亡イベントの発症を比較することで、どのような要因を持つ人が予後不良なのかを評価する方法。
※2 三軸加速度計:3軸方向(上下・前後・左右)の立体的な動きを検出するセンサーを搭載した活動量計であり、1方向(1軸)のみを検出する加速度計よりも身体活動量を正確に評価することが可能。
※3 食物摂取頻度調査法(Food Frequency Questionnaire):ある一定期間のうちに、習慣的に摂取した食品や飲料の摂取頻度やおおよその1回量を評価することで、その個人の食事摂取状況を評価する方法。調査コストが安く、データ処理が容易なため、対象者の多い疫学調査に適している。
※4 二重標識水法:二重標識水(Doubly-Labelled water)法は、2H(重水素)と18O(重酸素)の二種類の安定同位体で標識された水(2H218O)を摂取した後に、尿中の安定同位体比の変化を測定することで、生体が消費するエネルギー量と水の代謝回転量を算出する方法。

歩数とエネルギー摂取量の関係は、男女とも1日約4,000歩で頭打ち

データ解析対象の高齢者4,159名の平均年齢、補正エネルギー摂取量および歩数は、それぞれ72.3歳、2,172kcal/日、4,194歩/日だった。男性および女性のどちらにおいても、1日あたり約4,000歩までは歩数の増加とともにエネルギー摂取量が増加するが、歩数が4,000歩を超えると、それ以上歩数が多くてもエネルギー摂取量が増加していなかった(図1)。

図1 補正エネルギー摂取量と歩数間の制限付き3次スプライン回帰モデル※5

補正エネルギー摂取量と歩数間の制限付き3次スプライン回帰モデル

実線は平均補正エネルギー摂取量を表し、破線は95%信頼区間を表している。非線形性p値※6が5%未満であることから、補正エネルギー摂取量と歩数は曲線関係にあることを示している。
※5 スプラインモデル:ある決められた値で算出した結果を曲線によって滑らかに繋ぎ合わせ、値全体の量反応関係を分かりやすく表したモデル。
※6 非線形性のp値:変数とアウトカムの関係が直線的な線形関係ではなく、曲線関係にあるかを評価する方法。この値が5%未満の場合、変数とアウトカムの関係が曲線関係であることを示す。
(出典:早稲田大学)

因果関係を証明するためにはさらなる研究が必要だが、これらのことから歩数が約4,000歩未満の高齢者では、食欲不振による必要なエネルギーおよび栄養素の不足を回避するために、歩数を含む身体活動量の改善が有効である可能性が示唆された。

高齢者は、たくさん食べて体をたくさん動かすことが重要

研究グループは以前の報告で、総死亡リスクが最も低い補正エネルギー摂取量は男性で2,400~2,600kcal/日、女性で1,900~2,000kcal/日であり、歩数は5,000~7,000歩/日で死亡リスクへの有益な効果が頭打ちになることを示していた。これらの先行研究を基に今回の研究では、参加者を以下の4群に分けた。

低エネルギー摂取量で歩数が少ない群…1,352人

エネルギー摂取量は男性の場合2,400kcal/日未満、女性は1,900kcal/日未満で、歩数は5,000歩/日未満

高エネルギー摂取量で歩数が少ない群…1,586人

エネルギー摂取量は男性の場合2,400kcal/日以上、女性は1,900kcal/日以上で、歩数は5,000歩/日未満

低エネルギー摂取量で歩数が多い群…471人

エネルギー摂取量は男性の場合2,400kcal/日未満、女性は1,900kcal/日未満で、歩数は5,000歩/日以上

高エネルギー摂取量で歩数が多い群…750人

エネルギー摂取量は男性の場合2,400kcal/日以上、女性は1,900kcal/日以上で、歩数は5,000歩/日以上

補正エネルギー摂取量と歩数を評価してから中央値で3.38年間追跡調査を行った。追跡期間中に111名が死亡していた。

低エネルギー摂取量で歩数が少ない群と比較して、高エネルギー摂取量で歩数が多い群では、生存率が有意に高い(死亡率が低い)ことが示された(図2)。しかし、死亡リスクに対する補正エネルギー摂取量と歩数の相互作用※7関係はみられなかった。

※7 相互作用:二つ以上の因子が互いに影響を及ぼし合うこと。本研究では、エネルギー摂取量と歩数の組み合わせで生じるアウトカム(死亡リスク)の違いを評価している。

図2 死亡リスクに対する補正エネルギー摂取量と歩数の関係

死亡リスクに対する補正エネルギー摂取量と歩数の関係

カプラン・マイヤー法:あるイベントが発生するまでの時間(生存時間)を分析する生存時間分析。
Cox比例ハザードモデル:あるイベントが発生するまでの時間(生存時間)を分析する生存時間分析。このモデルの仮定として、単位時間あたりのイベント発生率が一定(比例ハザード性)の場合にのみ使用できる。
(出典:早稲田大学)

高エネルギー摂取量で歩数が多い群で最も死亡リスクが低いことから、高齢者の「たくさん食べて・身体をたくさん動かす」ことの重要性を示唆している。

歩数6,000歩の高齢者は2,100~2,520kcal/日摂取で死亡リスクが最小

本研究ではさらに、歩数に応じた補正エネルギー摂取量と死亡イベントの量反応関係を評価した。

総死亡リスクが最も低くなる歩数100歩あたりの補正エネルギー摂取量は35~42kcal/日だった。これは、歩数が6,000歩の人の場合、最適な補正エネルギー摂取量は2,100~2,520kcal/日ということ。一方で、歩数100歩あたりの補正エネルギー摂取量が28kcal/日未満または56kcal/日以上の人は、死亡リスクと関連していなかった(図3)。

図3 歩数100歩あたりの補正エネルギー摂取量と死亡リスク間の制限付き3次スプライン回帰モデル

歩数100歩あたりの補正エネルギー摂取量と死亡リスク間の制限付き3次スプライン回帰モデル

実線はハザード比を表し、破線は95%信頼区間を表す。ハザード比は歩数100歩あたりの補正エネルギー摂取量128kcal/日を基準として算出した。破線の95%信頼区間が1.00をまたがない場合、有意な差とみなした。
(出典:早稲田大学)

これらのことから、高齢者においては身体を動かさないで食べることや身体を動かして食べないことは死亡リスクに有益な効果を示さないため、身体活動量に応じたエネルギー摂取量が高齢者の寿命を延長させるために重要な可能性が示唆された。

研究の波及効果や社会的影響

近年のスマートフォンやウェアラブルデバイスの普及により、多くの人が歩数を評価することができるようになった。厚生労働省の食事ガイドラインである「日本人の食事摂取基準※8」では身体活動レベルに応じた必要なエネルギー摂取量を定めているが、この計算は容易でない。自身で測定した歩数から最適なエネルギー摂取量を算出して、1日に食べる量の参考にすることが現実的。

※8 日本人の食事摂取基準:日本人の1日に必要なエネルギーおよび栄養素摂取量を示した基準。2005年に初版が作成され、5年に一度改訂されている。

ただし、歩数が極端に多いまたは少ない高齢者は本研究の結果を適用することができない。また、今回の研究は高齢者を対象にしており、若年・中年者にこの結果を外挿することができない。若年・中年者における身体活動量に応じた最適なエネルギー摂取量を明らかにするためには、さらなる研究が必要。

今後の課題

本研究では総死亡リスクに対する補正エネルギー摂取量と歩数の相互作用関係は確認できなかった。これらの相互作用関係がみられないのは、生物学的メカニズムとは独立して、対象者の人数と追跡期間が少ないことも理由の一つとして考えられる。従って、死亡リスクに対するエネルギー摂取量と身体活動量の相互作用関係をより正確に評価するためには、対象住民をより長期間追跡する必要がある。

プレスリリース

高齢者に最適なエネルギー摂取量は? 身体を動かさないで食べる・動かして食べないどちらも良くない? 高齢者の歩数に応じた最適なエネルギー摂取量を解明(早稲田大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Association between doubly labelled water-calibrated energy intake and objectively measured physical activity with mortality risk in older adults」。〔Int J Behav Nutr Phys Act. 2023 Dec 25;20(1):150〕
原文はこちら(Springer Nature)

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