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パラアスリートのエネルギー消費量は「除脂肪体重」「トレーニング時間」「脊髄損傷の有無」で説明できる可能性

東京2020、北京2022のパラリンピック出場選手を含むパラアスリートのエネルギー出納を、二重標識水法も用いて詳細に計測した結果が報告された。消費エネルギー量は、除脂肪体重、トレーニング時間、および脊髄損傷の有無という3項目で、最大73%を説明可能であることなどが明らかにされている。オランダとノルウェーのパラリンピアン対象の研究。

パラアスリート特有の栄養課題が明らかに 懸念や葛藤を理解した栄養士のサポートが必要

パラアスリートのエネルギー要件に関するデータは依然として少ない

健常者アスリートのエネルギー要件については豊富な情報が入手可能であるにもかかわらず、パラアスリートのエネルギー要件については依然としてわずかな情報しかない。とくに、消費エネルギー測定のゴールドスタンダードである二重標識水(doubly-labeled water;DLW)を用いた検討は、ほとんど行われていない。現状では、健常者アスリートのエネルギー要件を参照しながら、個別にアレンジした栄養指導が行われている。

パラアスリートは、神経支配の喪失(例えば脊髄損傷や二分脊椎など)によって除脂肪体重(fat free mass;FFM)が低下する可能性があり、それを裏付けるように、脊髄損傷患者は安静時代謝率(resting metabolic rate;RMR)が低いことが報告されている。その一方で、脳性麻痺などに伴うけいれんのあるアスリートは、不随意な筋収縮を介してRMRが増加している可能性がある。そのほかにも、装具を使っての歩行は消費エネルギー量を増大させ、反対に車椅子の使用は消費エネルギー量を低下させると考えられる。

また健常者アスリートと比較してパラアスリートの運動による消費エネルギー量は少なく、VO2peakや最大心拍数も低い傾向のあることが報告されている。しかし、いずれにしてもパラアスリートのエネルギー要件に関する正確なデータは得られていない。

これを背景としてこの論文の著者らは、オランダおよびノルウェーのパラリンピアン48人を対象に、14日間にわたる二重標識水(DLW)法による消費エネルギー量の評価を含め、エネルギー要件関連のデータを詳細に収集するとともに、その結果に関連する因子を検討する横断研究を実施した。

東京2020、北京2022のパラリンピアンを対象に研究

研究参加者は、2020年東京夏季パラリンピックまたは2022年北京冬季パラリンピックに向けて準備をしていた国家代表クラスのエリートパラアスリート。年齢は範囲16~50歳、中央値27歳で、男性が19人、女性が29人、BMIは平均23.2±8.5、体重の中央値63.2kg(四分位範囲55.4~72.1)、除脂肪体重(FFM)は平均49.2±10.0kg。参加競技は、自転車13人、テニス10人、バスケットボール13人、ノルディックスキー7人、アルペンスキー5人など。

障害の種類は、脊髄損傷17人、四肢欠損16人、視覚障害4人、神経系の障害4人、その他7人であり、全体の54.2%が車椅子ユーザー。なお、これらの研究参加者全員で、東京2020と北京2022において、20個のメダル(金11個、銀4個、銅7個)を獲得している。

14日間にわたって二重標識水(DLW)法で測定

1日あたりの総消費エネルギー量(total daily energy expenditure;TDEE)は、二重標識水(DLW)法により14日間にわたって計測した。また、この14日間に参加者には、すべてのトレーニングセッションの種類や時間、および競技会への参加などの情報の記録を求めた。

摂取エネルギー量については、この間に3回、抜き打ちで24時間思い出し法による食事調査を行い推計した。このほかに、二重エネルギーX線吸収(dual-energy X-ray absorptiometry;DXA)法による体組成の評価、呼気ガス分析による安静時代謝率(resting metabolic rate;RMR)の計測を行った。

パラリンピアンの消費エネルギー量は平均2,908±797kcal

DLW法で計測された1日あたりの総消費エネルギー量(TDEE)は、平均すると2,908±797kcalだった。ただし、競技によって有意に異なり、最小はバスケットボールの2,322±340kcal、最大は自転車の3,607±1,001kcalであった。体重換算でみても、平均は59.2±10.0kcal/kgで、バスケは50.9±4.8kcal/kg、自転車65.8±9.4kcal/kgであって、有意差が観察された。

基礎代謝率(RMR)は、平均1,484±277kcalで、最小はノルディックスキーの1,258±283kcal、最大は自転車の1,683±276kcalで有意差が認められた。ただしこのRMRに関しては、体重換算後に有意差が消失した。

身体活動による消費エネルギー量(physical activity energy expenditure;PAEE)は、平均1,127±555kcal、最小はバスケの715±210kcal、最大は自転車の1,564±736kcalで有意差があり、体重換算後も有意差が存在した。

総消費エネルギー量(TDEE)の多寡の73%は、三つの因子で説明可能

次に、回帰分析により、総消費エネルギー量(TDEE)と独立した有意な関連因子を検討。その結果、FFMとトレーニング時間はTDEEと正相関し、脊髄損傷は逆相関しており、これら三つの因子でTDEEの分散(多寡)の72.8%を説明できることがわかった。

身体活動による消費エネルギー量(PAEE)についても同様の手法で検討したところ、これら3因子で分散の61.7%を説明可能であることがわかった。

パラアスリートの食事ガイドライン策定に向けてベンチマークとなる研究

一方、24時間思い出し法により推計した摂取エネルギー量は平均2,363±905kcal/日であり、TDEEを下回っていた。ただし、研究期間中に有意な体重減少は観察されず、摂取量の過少報告によるものと考えられた。

主要栄養素の摂取量は、炭水化物が4.1±1.9g/kg、タンパク質1.8±0.6g/kg、脂質32±6%エネルギーだった。

著者らは、「パラリンピアンは総じて中程度から高いエネルギー需要があることがわかった。ただし、行っている競技や個人により差異が観察され、その分散の多くは除脂肪量とトレーニング時間、障害の種類に起因すると考えられる。本研究は、パラリンピアンのエネルギー要件のベンチマークとなり得るものであり、将来の食事ガイドライン策定の基盤として活用できるであろう」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Energy Requirements of Paralympic Athletes: Insights from the Doubly Labeled Water Approach」。〔Med Sci Sports Exerc. 2024 Jan 10〕
原文はこちら(American College of Sports Medicine)

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