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サッカー選手の水分補給、持久系アスリート推奨の食事、炭水化物洗口の効果ほか研究発表 スポーツや栄養に関する国際会議より

今回は、2023年9月にコロンビアにおいて、「スポーツと身体活動に関する第5回イベロ・アメリカン・シンポジウム(the 5th Ibero-American Symposium on Sport and Physical Activity)」にあわせて開催された、「トレーニング・身体活動・スポーツに適用される栄養に関する第1回国際会議(Nutrition & Training and 1st International Conference on Nutrition Applied to Physical Activity and Sport)」の抄録集から、いくつかの研究発表をピックアップして紹介する。

サッカー選手の水分補給、持久系アスリート推奨の食事、炭水化物洗口の効果ほか研究発表 スポーツや栄養に関する国際会議より

なお、「イベロ・アメリカン」は、かつてスペインやポルトガルの植民地だった地域のことで、2023年の同会議には、コロンビア、メキシコ、米国、イタリア、チェコ、コスタリカ、スペイン、アルゼンチンなどの研究者の発表が行われた。

エリート男子サッカー選手の水分補給状態に対するグリセロールとナトリウムの影響

原題:Effects of glycerol plus sodium on the hydration status in Colombian elite male soccer players

エリートアスリートを対象とするこれまでの研究から、グリセロールは体液喪失による悪影響を抑制する可能性が示されている。またオーストラリア国立スポーツ研究所(Australian Institute of Sport;AIS)は暑熱対策としてグリセロールの摂取を推奨しており、グリセロールとナトリウムの併用がより効果的である可能性も述べているが、そのエビデンスは限られている。これを背景として、標高2,600mの高地トレーニングにおけるグリセロールとナトリウムの併用の効果を検討した。

コロンビアのエリート男子サッカー選手21人(24.4±3.9歳)を対象とする無作為化二重盲検試験として実施。AISガイドラインに即してグリセロールの用量は1.2g/kgとし600mg/Lの溶液を作成。試験群(n=10)は25mL/kgのナトリウムを加えた。それらの水溶液を、朝食後、練習試合の60分前に15分間隔で4回に分けて摂取させた。

対照群では練習試合の終了後に尿比重の有意な低下を観察したが(p=0.004)、試験群では有意な変化がなかった(p=0.677)。また体重低下幅は対照群の1.7%に対して試験群では1.3%であり有意に少なかった(p=0.043)。水分摂取量は試験群のほうが有意に多かった(p=0.017)。発汗量、尿量については有意差がなかった。

結論として、サッカー選手がナトリウムを添加したグリセロールを摂取すると、発汗量に変化を与えることなく水分補給状態が維持される可能性が示された。

持久系アスリートの植物性食品ベースの食事の推奨に関するスコーピングレビュー

原題:Plant-based diets in endurance athletes: a scoping review with dietary and nutritional recommendations

主として持久系競技において、一部のアスリートは植物性食品ベースの食事スタイル(plant-based diets;PBD)を遵守している。本研究の発表者らは、持久力アスリートのPBDに関する新たなエビデンスを整理する目的でスコーピングレビューを行った。

スコーピングレビューのためのガイドライン(PRISMA-ScR)に準拠し、PubMed/MEDLINE、Science Direct、Google Scholarを用いて文献検索を実施。1,075報がヒットし、重複削除、タイトルと要約に基づくスクリーニング、全文精査を経て、包括基準を満たす報告12件を抽出した。

PBDでは食物繊維摂取量の増加を伴いながら、総炭水化物摂取量が高く、タンパク質、飽和脂肪酸、コレステロールの摂取量が少ないことが示された。また、ビタミンB12、ω3脂肪酸、鉄、カルシウム、クレアチン、ビタミンD、亜鉛については、潜在的な欠乏リスクが存在することが示された。

総合的には、持久系アスリートにおいてPBDは特定の食事スタイルをもたない一般の雑食に匹敵するパフォーマンスを提供する可能性を示唆しているが、特定の栄養素要件に対処する必要性も明らかになった。スポーツ栄養士や栄養士がアスリート個人の特性を考慮したうえで、定期的に栄養評価を行うことが奨励される。また、PBDの長期的な影響を深めるために、今後のさらなる研究が必要。

運動パフォーマンスに対する炭水化物洗口の効果:系統的レビュー

原題:Effects of carbohydrate mouth rinse on athletic performance: a systematic review

炭水化物溶液を摂取せず、洗口(マウスリンス)にとどめた場合もエルゴジェニック効果を期待できる可能性が報告されている。ただし、性別やスポーツの種類、タイミングなどによって効果は異なるとも考えられ、明確な推奨の提示に至っていない。これを背景として発表者らはPRISMAガイドラインに即して、Pubmed/MEDLINE、Science Direct、Ovid、Google Scholarなどを用いたシステマティックレビューを実施した。

2008~23年に公開された無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の報告を抽出。合計参加者418人(男性77.5%)からなる28件の報告を解析対象とした。

25~60分間続く中強度の反復テストの前および最中に、炭水化物含有洗口液25mLを口腔内に5~10秒含嗽すると、運動パフォーマンスが向上する可能性が示された。ただし、条件による差異も認められた。洗口液の濃度は効果の決定要因ではない可能性も認められた。全般的に、被験者が絶食状態にある場合にその効果は増大していた。運動強度や持続時間などと効果の関連性についてのエビデンスは限定的だった。

プロサイクリストパフォーマンスに対するトレーニング前の乳糖摂取の効果

原題:Effects of lactose before training on sports performance of professional Colombian young cyclists

牛乳はさまざまな栄養素が豊富に含まれており、浸透圧が等張で安価であり、スポーツパフォーマンスを向上させる可能性がある。この研究は、中程度から高強度のトレーニングを積んでいる8人の男性サイクリストのパフォーマンスに対する、乳糖を含む牛乳の摂取の影響を、無作為化二重盲検クロスオーバー法で検討した。試行条件は、何も摂取しない条件、全乳、乳糖除去乳、植物ベース飲料を摂取する条件とし、運動負荷試験の1時間前にそれら600mL、および30g/hの炭水化物(酸化速度0.5g/分)を摂取させた。

全乳摂取条件では他の条件よりも運動時換気量が高く(156.7±14.4L/分)、VO2maxが高値だった(60.14±4.92mL/kg/分)だった。血糖値と乳酸塩には有意な変化は観察されなかった。乳糖除去乳条件では消化器症状が(38.6%)にみられ、この発現頻度は全乳条件(22.7%)や植物ベース飲料条件(14.8%)より高く、その多くは腹部膨満だった(58.3%)。

乳糖を含む牛乳は、高強度中のトレーニング関連変数を0.6~8.3%向上すると考えられた。いかなる飲料摂取条件でも消化器症状が惹起されたことから、胃腸を鍛えるトレーニングに十分な時間を設定する必要性も示唆された。

サッカー選手の水分補給と発汗率:先発メンバーと控え選手の比較

原題:Fluid replenishment and sweating rate in soccer players: a comparison between starters and substitutes

炭水化物と電解質を含む「アイソトニックドリンク」と呼ばれる飲料は、水分とエネルギーの損失による疲労を防ぐことが報告されている。ただし、それらの飲料に含まれるブドウ糖が水分補給状態に影響を与える可能性がある。この研究では、サッカーの試合でスタート時点から市販のアイソトニック飲料を摂取する先発選手と、通常の水を摂取する補欠選手で水分補給状態が異なるか否かを検討した。

解析対象は、メキシコの15のサッカーアカデミーに所属している選手、計30人。先発メンバー用のアイソトニック飲料(ゲータレード®)と控え選手用の天然水の2種類を用意し、20分ごとに250mLずつ摂取してもらった。解析の結果、先発メンバーと控え選手とで、水分補給状態(体重変化幅)や発汗率に有意差がないことが明らかになった。

これに基づき発表者らは、サッカーの控え選手は、出場までの時間帯に通常水を適切に摂取している限り、市販のアイソトニック飲料を摂取する必要はないと思われると結論づけている。

ボディービルダーの腎機能と栄養状態・体組成と、薬物使用との関連

原題:Associations of serum cystatin C and creatinine levels with body composition, nutrition, and pharmacological practices in Mexican competitive bodybuilders: a cross-sectional study

筋タンパク質の同化促進のためにボディービルダーの間で、アナボリックアンドロゲンステロイド(anabolic-androgenic steroids;AAS)やその類似薬を含む、パフォーマンス・体格イメージ向上薬(performance- and image-enhancing drugs;PIED)が使用されることがあり、それらの使用によって腎機能障害が起こり得る。この研究では、メキシコのボディービルダーにおける腎機能バイオマーカーと栄養学・薬理学的指標との関連が横断的に検討された。

検討対象は、メキシコのボディービル国内大会への出場を予定している15人のPIED使用するボディービルダー(18~50歳)。参加者全体を、オフシーズン(n=7.76.98±11.0kg)と大会シーズン(n=8.82.02±13.4kg)に分類して比較。シスタチンC(CysC)またはクレアチニン(Cr)に基づく腎機能(推算糸球体濾過量〈eGFR〉)を測定し、24時間思い出し法により栄養素摂取量を推定した。

対象の20~60%にeGFR低下傾向が認められ、eGFR-Cysは統計的に有意でないものの、オフに比べて大会シーズンでより低下していた。タンパク質や脂質の摂取量、およびAASの使用率はシーズン中でより高かった。なお、そのほかに、AASの使用と脂肪厚との間に有意な負の相関などが認められた。

文献情報

原題のタイトルは、「Proceedings of the 5th Ibero-American Symposium on Sport and Physical Activity: Nutrition & Training (SIDANE) and 1st International Conference on Nutrition Applied to Physical Activity and Sport」。〔BMC Proc. 2024 Feb 6;18(Suppl 4):5〕
原文はこちら(Springer Nature)

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