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時間制限食で心血管死リスクが2倍に? 米国健康栄養調査データを解析したAHAでのポスター発表

2024年04月09日

カロリー計算のいらない手軽なダイエット法として人気が高まりつつある時間制限食について、新たなエビデンスが報告された。米国国民健康栄養調査のデータを用いた縦断的な解析の結果、交絡因子を調整後にも心血管死リスクが2倍前後に高くなる可能性があるという。中国の研究者らが、米国心臓協会(AHA)の疫学・予防/心血管代謝科学セッション(EPI2024)で発表し、AHAのサイトにニュースリリースが掲載された。

時間制限食で心血管死リスクが2倍に? 米国健康栄養調査データを解析したAHAでのポスター発表

人気の時間制限食だが、これまでのエビデンスは追跡期間が限られたものが大半

断続的断食の一種である時間制限食は、食事を摂取する時間枠を設け、その時間内であれば自由に摂取してよいとする食事スタイル。摂取可能とする時間枠は通常、4~12時間の範囲で、多くの人は8時間としている。これまでの研究では、時間制限食によって血圧、血糖値、コレステロール値などの、いくつかの心血管代謝マーカーが改善することが報告されている。

発表者である上海交通大学のVictor Wenze Zhong氏は、「毎日の食事時間を1日8時間などの短期間に制限することは、体重を減らして心臓の健康を改善する方法として近年人気が高まっている」としている。ただし、リスクマーカーというソフトエンドポイントではなく、「死亡」というハードエンドポイントでの検討は行われておらず、同氏は「時間制限食による健康への長期的な影響は不明だ」と、研究の背景を述べている。そして同氏らは、これまでの研究を基に、「時間制限食は死亡リスクの低下をもたらす」と仮説の下、以下の検討を行った。

米国国民健康栄養調査と死亡記録を用いて縦断的に解析

研究には、米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)の2003~18年のデータ(4万3,849人)と、2019年12月末までの死亡データを用いた。

NHANESでは、24時間思い出し法による食事調査が行われている。2回実施された食事調査のいずれかで食事摂取量が極端な人(男性は800kcal/日未満または8,000kcal/日超、女性は600kcal/日未満または6,000kcal/日超)、および追跡データが欠落している人、20歳未満の人を除外し、2万78人を解析対象とした。

解析対象者のおもな特徴は、年齢が加重平均48.5±0.3歳、男性50.0%、BMI28.7±0.1、現喫煙者17.9%、習慣的飲酒者73.3%、心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)の既往8.2%、癌の既往11.1%。

また、1日の中で食事を摂取する時間枠は、最も一般的な12~16時間が58.9%、次いで10~12時間が24.1%、16時間以上が7.5%、8~10時間が7.4%で、8時間未満は2.1%だった。

食事摂取の時間枠が8時間未満で心血管死リスクが有意に高い

中央値8.0年(四分位範囲4.2~11.8)の追跡で、心血管死840人、がん死643人を含む、全死亡2,797人が記録されていた。

死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、人種、喫煙・飲酒・運動習慣、摂取エネルギー量、食事の質スコア、フードセキュリティー、教育歴、収入、主観的健康観など)の影響を調整後に、食事を摂る時間枠が一般的な12~16時間の群を基準として、他群の全死亡、心血管死、癌死のリスクを比較した。

その結果、全死亡とがん死に関しては有意なリスク上昇のみられた群はなかった。しかし心血管死に関しては、食事を摂取する時間枠が短い群で、有意なリスク上昇が認められた。詳細は以下のとおり。

CVD既往者では8~10時間の群も有意にハイリスク

全体的な解析では、食事摂取時間枠が8時間未満の群はHR1.91(95%CI;1.20~3.03)と、91%のリスク上昇が認められた。その他の群は食事摂取時間枠12~16時間の群と有意差がなかった。

CVD既往のあるサブグループで解析した結果は、食事摂取時間枠が8時間未満の群ではHR2.07(1.14~3.78)とリスクが2倍を超える可能性が示された。さらに8~10時間の群もHR1.66(1.03~2.67)と、有意なリスク上昇が認められた。

なお、癌既往のあるサブグループでの解析では、ハザード比が有意に高い群はなかった一方で、食事摂取時間枠が16時間の群で、有意な癌死リスクの低下が認められた(HR0.47〈0.23~0.95〉)。

米国以外の集団での検証やメカニズムの解明が必要

以上の結果から、研究者らの仮説は否定された。

Zhong氏はAHA発のニュースリリースの中で、「この結果に我々は驚いた。時間制限食は、短期的には効果を期待できるため人気があるが、我々の研究では、長期的な有用性は認められなかった。さらに、8時間という時間枠は、心血管死のリスク増大と関連していた。この点を認識することが極めて重要である」と述べている。

一方で同氏は、「この研究によって、8時間という食事摂取の時間枠と心血管死との関連性が確認されたが、これは時間制限食が心血管死を引き起こしたという意味ではない」と、解釈上の注意を付け加えている。またこの研究は、食事関連の情報を自己申告によって把握しており、参加者の記憶や想起の影響を排除できていないこと、および、未調整の交絡因子の存在が想定されることなどの限界点もある。

研究グループでは、「将来の研究では、時間制限食と有害な心血管転帰との関連性の根底にある生物学的メカニズムの解明、および、このような関連が米国以外でも同様に認められるのかといった検討が求められる」としている。

文献情報

演題のタイトルは、「Association of 8-Hour Time-Restricted Eating with All-Cause and Cause-Specific Mortality」。〔AHA Epidemiology and Prevention|Lifestyle and Cardiometabolic Health Scientific Sessions 2024, Abstract P192〕
原文はこちら(AHA EPI 2024)

関連情報

American Heart Association(AHA)

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