朝食欠食、運動不足などが2型糖尿病での急速な腎機能低下に関与 日本人約60万人の縦断研究
60万人近い日本人を2年にわたり追跡した研究から、2型糖尿病者で時にみられる腎機能の急速な低下に関連のある生活習慣因子が特定された。喫煙、朝食欠食、運動不足、睡眠不足などが独立して関与していることが示されている。とくに60歳以上では朝食欠食が、ベースラインの腎機能にかかわらず、独立した関連因子だという。大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻総合ヘルスプロモーション科学講座の李婭婭氏、樺山舞氏らの研究によるもので、論文が「PLOS ONE」に掲載された。
腎機能‘rapid decliner’のライフスタイル因子を探る
糖尿病対策は公衆衛生上の重要な課題であり、とくに腎機能低下による透析導入は患者のQOL低下をもたらすとともに医療経済上の負担が大きく、対策が急がれている。糖尿病に伴う腎機能低下は血糖や血圧・脂質等の管理不良のほかに加齢やライフスタイル要因など多因子が関与しているとされているが、それらのうち個々のライフスタイル要因が腎機能低下にどの程度影響を及ぼしているのかは明らかになっていない。また、糖尿病者のなかに、腎機能が急速に低下する「rapid decliner」と呼ぶべき一群が存在することが指摘されており、そのリスク因子の特定と介入法の確立が急務となっている。
これらを背景として樺山氏らは、レセプト情報・特定健診等情報データベース(national date base;NDB)の大規模サンプルを用いた縦断的な解析によって、年齢や性別、ベースラインの腎機能別に、腎機能の急速低下(rapid decline)のライフスタイル関連因子の特定を試みた。
成人2型糖尿病者57万人を約2年追跡
解析の対象は、2018年度と2020年度双方の特定健診の記録がある40~74歳の成人のうち、2018年度(ベースライン)時点で2型糖尿病に該当した人から、ベースライン以前に透析が行われていた者、および1型糖尿病と考えられる医療費請求の記録のある者、2018年度eGFR85mL/分/1.73m2超の者、データ欠損者を除外した57万3,860人。
主な特徴は、性別は男性が77.30%、年齢は40~59歳が48.63%、60~74歳51.37%で、HbA1cは7%未満が65.53%、7%以上34.47%だった。また、特定健診の問診票から、睡眠で休養が十分とれていない(以下、「睡眠不足」とする)割合が35.56%で、現喫煙者27.32%、朝食欠食者14.81%、運動不足71.65%、遅い時間帯の夕食摂取31.90%、多量飲酒17.23%と判定された。
朝食欠食や運動不足などが腎機能のrapid declineに独立して関連
2018年度から2020年度にかけて、eGFRが30%以上低下した者を「rapid decline」と定義すると、7,683人(1.34%)が該当した。
腎機能に影響を及ぼし得る因子(性別、BMI、HbA1c、収縮期血圧、LDL-C、貧血、血糖降下薬・降圧薬・脂質低下薬・球形吸着炭〈クレメジン〉、NSAID・腎性貧血治療薬の処方、心疾患・脳血管疾患・慢性腎不全の既往など)を調整後に、ロジスティック回帰モデルにて、年齢層およびベースラインのeGFRカテゴリー別にrapid declineの独立したライフスタイル関連因子を検討した結果、以下の結果が得られた。数値はオッズ比とその95%信頼区間。
年齢が40~59歳
この年齢層で、ベースラインeGFRが60~85mL/分/1.73m2と腎機能が軽度低下していた群では、現喫煙1.29(1.12~1.50)と、朝食欠食1.57(1.34~1.84)がrapid declineに対する有意な正の関連因子だった。
ベースラインeGFRが30~59mL/分/1.73m2の腎機能が中等度低下していた群では、睡眠不足1.19(1.00~1.42)と現喫煙1.45(1.21~1.73)が有意な正の関連因子であり、多量飲酒0.75(0.59~0.95)は有意な負の関連因子だった。
ベースラインeGFRが30mL/分/1.73m2未満の腎機能低下が高度な群では、睡眠不足1.36(1.00~1.85)のみが有意な正の関連因子だった。
年齢が60歳以上
この年齢層で、ベースラインeGFRが60~85mL/分/1.73m2の群では、現喫煙1.40(1.20~1.63)と、朝食欠食1.32(1.07~1.63)、および運動不足1.21(1.06~1.39)が有意な正の関連因子だった。
ベースラインeGFRが30~59mL/分/1.73m2の群では、現喫煙1.84(1.55~2.17)と、朝食欠食1.35(1.06~1.70)、運動不足1.48(1.26~1.74)、および遅い時間の夕食1.22(1.03~1.45)が有意な正の関連因子だった。
ベースラインeGFRが30mL/分/1.73m2の群では、朝食欠食1.88(1.15~3.09)のみが有意な正の関連因子だった。
性別の解析
性別に解析した場合、40~59歳において、eGFRが60~85mL/分/1.73m2の群、および30~59mL/分/1.73m2の群の女性は、現喫煙のみが有意な成果の関連因子だった。eGFR30mL/分/1.73m2未満の群の女性は遅い時間の夕食摂取のみが有意な正の関連因子だった。また、このカテゴリーの男性では、現喫煙のみが有意な正の関連因子となった。
60~74歳においても、関連のある因子に性別による違いが認められた。
ライフスタイル介入で腎機能低下を抑制し得るのではないか
これらの結果に基づき著者らは、「2型糖尿病者における急速な腎機能の低下と関連する因子は、年齢、ベースラインのeGFR、性別によって異なっていた。ライフスタイル因子は修正可能であり、それらへの介入によって糖尿病に伴う急速な腎機能低下を抑制できるのではないか」と結論づけている。
なお、論文中には、各ライフスタイル因子と腎機能低下との関連の機序について、既報研究を基に考察が述べられている。食事や栄養に関連する項目を取り上げて紹介する。
朝食欠食と腎機能低下
まず、朝食欠食については、欠食後の血糖変動への影響が1日の前半だけでなく終日続く可能性があり、脱水や低栄養を介した腎機能への影響を示唆する研究もあるという。また本研究の60歳以上の集団において、ベースラインのeGFRにかかわらず朝食欠食は独立した関連因子であり、かつeGFRが30mL/分/1.73m2未満と高度に低下している群では朝食欠食のみが有意であってオッズ比も1.88と高いことから、腎機能低下がより進行した状態ではより強く影響が現れるのではないかとしている。
遅い時間帯の夕食と腎機能低下
次に、遅い時間帯の夕食摂取については、そのような食事パターンによってアテローム性動脈硬化が加速することの影響を指摘。また、遅い時間帯に夕食を食べる人は、ヘルスリテラシーが低い傾向があり、全般的に非健康的なライフスタイルだとする研究もあるという。
多量飲酒と腎機能
本研究では前述のように、60歳未満でeGFR30~59mL/分/1.73m2の場合、多量飲酒は急速な腎機能低下に対する保護因子である可能性が示された。しかし性別に解析した場合、60歳以上の女性でeGFR60~85mL/分/1.73m2の群では、有意な正の関連が認められている(OR1.75〈1.21~2.53〉)。飲酒後の血流増加によって一時的に糸球体過剰濾過が生じることが知られているが、そのことによる長期予後への影響は不明であり、アルコール摂取と腎機能との関連は依然として議論の余地が残されているとしている。文献情報
原題のタイトルは、「Lifestyle factors associated with a rapid decline in the estimated glomerular filtration rate over two years in older adults with type 2 diabetes-Evidence from a large national database in Japan」。〔PLoS One. 2023 Dec 13;18(12):e0295235〕
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