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学校で発生したスポーツ中の非外傷性心停止には心肺蘇生とAED併用が最善 全国のデータ解析からの示唆

国内の小~高校で発生したスポーツ中の非外傷性院外心停止症例のデータ解析から、現場に居合わせた人がなすべきことを示唆する結果が報告された。心肺蘇生とAED使用の双方が行われていたケースで有意に良好な神経学的転帰が認められたが、いずれか一方のみが行われたケースでは、蘇生処置がなされなかったケースとの差が非有意だったという。大妻女子大学家政学部食物学科公衆衛生学研究室の清原康介氏らの研究によるもので、論文が「Resuscitation Plus」に掲載された。

学校で発生したスポーツ中の非外傷性心停止には心肺蘇生とAED併用が最善 全国のデータ解析からの示唆

稀ではあるがゼロではない、学校でのスポーツ中の心停止

スポーツが子どもたちの健康や成長に有益であることは言うまでもないことながら、スポーツ中には心イベントのリスクが上昇することも広く知られている。とは言え、学齢期の子どもがスポーツ中に、非外傷性の院外心停止(out-of-hospital cardiac arrest;OHCA)を来すことは多くない。しかし少数ではあるが発生はゼロでなく、発生した場合、学校や社会に大きな衝撃が及ぶ。

院外心停止発生時に、バイスタンダー(その場に居合わせた人)が迅速に一次救命処置(basic life support;BLS)を行うことが、救命率の上昇に寄与することは既に明らかにされている。ただし、学校という環境におけるスポーツ活動中のOHCAに対するBLSの有効性は、十分検討されていない。スポーツ中のOHCAによる死亡をゼロに近づける施策立案につなげるため、清原氏らはその実態把握を試みた。

研究の手法と解析対象について

研究は、日本スポーツ振興センター(Japan Sport Council;JSC)の災害共済給付制度と、消防庁のウツタイン(蘇生)データ登録制度という2件の大規模データが統合された、「SPIRITS(Stop and Prevent cardIac aRrest, Injury, and Trauma in Schools)」と呼ばれるデータベースを利用して行われた。SPIRITSを利用することで、日本全国のほぼすべての児童・生徒の間で発生するOHCAを把握することが可能となる。

今回の解析では、2008年4月1日~2020年12月31日に記録されていた、小学生、中学生、高校生、高等専門学校生の非外傷性OHCA症例を対象とした。外傷性によるOHCA(交通事故、転落事故、自傷行為)によるOHCA、および発見者が救急隊員であった場合は除外されている。この条件に該当するのは、上記期間のOHCA 642例中318例だった。

「1カ月後の良好な神経学的転帰」を評価

評価指標は、心肺蘇生後の神経学的転帰の評価に頻用されている「Glasgow-Pittsburgh. Cerebral Performance Category(CPC)」とし、OHCAから1カ月の時点での医師のCPC判定結果を用いた。CPCは5段階で評価され、カテゴリー1は良好なパフォーマンス、カテゴリー2は中程度の障害、3は重度の脳障害、4は昏睡/植物状態、5は死亡/脳死であり、本研究では1および2を「良好な転帰」と定義した。

解析対象症例318例のうち、良好な転帰に該当するのは187例(58.8%)だった。

一次救命処置の有無と方法で4群に分類

一次救命処置(BLS)として、心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation;CPR)が行われたか、自動体外式除細動器(automated external defibrillators;AED)が使われたかを確認したところ、253例(79.6%)は双方が使われ、CPRのみは27例(8.5%)、AEDのみは13例(4.1%)であり、25例(7.9%)は救急隊到着までCPRまたはAEDが施行されていなかった。

この4群の特徴を比較すると、年齢、学校の種別、OHCA発生場所、授業中か課外活動中か、行っていたスポーツなどには有意差はなかった。一方、症例が男性より女性(82.9 vs 65.6%)の場合は、CPRとAEDの双方が施行(CPR+AED)されていた割合が有意に低かった。また、目撃者なしの場合(82.2 vs 56.3%)や、通信司令員による口頭指導がなかった場合(85.3 vs 73.5%)などでも、CPR+AEDの割合が有意に低かった。

CPR+AEDの割合の経年推移をみると、2008~10年は65.8%、2011~13年は77.9%、2014~16年は83.8%、2017~20年は89.0%と、経時的な上昇傾向が認められた。これは、学校教師のBLSの関心が向上していることや、BLSトレーニングの普及などの成果ではないかと、著者らは考察を述べている。

なお、OHCAの発生数をスポーツの種類別にみた場合、長距離走、サッカー/フットサル、バスケットボール、水泳、野球で高値だった。

CPRとAEDの双方を行った場合のみ、良好な転帰が有意に多い

318例のうち、178例(56.0%)は病院到着前に心拍が再開し、210例(66.0%)は1カ月後に生存しており、神経学的に良好な転帰と判定されたのは前述のとおり187例(58.8%)だった。

BLSの施行状況別に、神経学的に良好な転帰と判定された症例数をみると、CPR+AEDでは253例中164例(64.8%)、CPRのみでは27例中11例(40.7%)、AEDのみでは13例中5例(38.5%)、CPRとAEDのいずれも行われていなかった25例では7例(28.0%)だった。

学校の種別、OHCA発生場所、授業中か課外活動中か、行っていたスポーツ、性別、目撃者の有無、通信司令員による口頭指導の有無、救急要請から病院到着に要した時間などの影響を統計学的に調整後、CPR+AED群はそれら双方とも施行されていなかった群に比較し、良好な転帰であるオッズ比が4倍近く、有意に高かった(OR3.97〈95%CI;1.32~11.90〉)。その一方、CPRのみ(OR1.35〈0.34~5.29〉)やAEDのみ(OR1.26〈0.25~6.38〉)の場合は、CPRとAEDがいずれも施行されていなかった群と有意差がなかった。

スポーツに伴う突然死をゼロにするために

CPR+AED群でのみ有意という結果について著者らは、CPRは除細動が成功するまでの循環の維持に有効だが、それのみでは十分ではないこと、および、AEDは除細動の成功に有用だが、それまで何もしなければその間に重要な臓器の機能が失われていくことを理由として挙げ、「CPRに続く迅速なAED施行によって、救命率の上昇と神経学的ダメージの抑制が達成される」と解説している。

なお、本研究で示された、1カ月後に神経学的に良好と判定された割合が58.8%という数値は、海外の既報研究に比べると良好であり、国内の学校へのAEDの普及が寄与している可能性があるという。ただし、目標はスポーツ中のOHCAによる死亡をゼロにすることであり、そのためには、BLSトレーニングをより充実させる必要があるとしている。また、OHCA発生から5分以内にAEDを施行可能な環境の整備が求められ、AEDを1校1台ではなく複数配置することも考慮すべきと述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Basic life support for non-traumatic out-of-hospital cardiac arrests during school-supervised sports activities in children: A nationwide observational study in Japan」。〔Resusc Plus. 2023 Dec 20:17:100531〕
原文はこちら(Elsevier)

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