健康的な食生活で余命を最大10年拡大できる! 英国での推計結果
英国の国民全体が健康的な食生活をしたとしたら、平均余命を最大10年伸ばせるとする予測結果が報告された。そのメリットの多くは、全粒穀物やナッツ、果物の割合を増やし、加工肉や加糖飲料の割合を減らすことで得られるという。住民ベースの大規模な疫学研究である「UKバイオバンク」のデータを用いた研究。
仮に人々が全員、理想的な食生活を送ったとしたら…
英国では、非健康的な食生活が原因で毎年7万5,000人以上が早期死亡していると推計されている。一方、英国の食事摂取ガイドラインである「Eatwell Guide」の推奨事項を満たした食生活を送っている人は、人口の0.1%にも満たないというデータも報告されている。よって、仮に英国の人々がガイドラインの推奨を遵守した場合、人々の健康に対して極めて大きなインパクトが期待できる。
この論文の研究は、英国の一般住民が登録されている大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを駆使して行われた。
13種類の食品の摂取量と死亡リスクの関連を検討
まず、UKバイオバンクの食事調査で把握されている食品を13のカテゴリー(全粒穀物、野菜、果物、ナッツ類、豆類、魚介類、卵、牛乳・乳製品、精製穀物、赤身肉、加工肉、白身肉、加糖飲料)に分類し、それぞれの摂取量の五分位で5群に分けたうえで、死亡率との関連を検討した。具体的は、死亡リスクが最も高い群を基準として、他の群の死亡ハザード比(HR)を算出するというもの。
例えば、全粒穀物であれば、最も死亡リスクが高い群は第1五分位群(全粒穀物摂取量が最も少ない下位20%)であり、死亡リスクが最も低いのは第3五分位群(全粒穀物摂取量の中央値前後の20%)であって、ガイドラインの推奨は第5五分位群(全粒穀物摂取量が最も多い上位20%)に相当した。つまり、必ずしもガイドラインの推奨を満たす場合に死亡リスクが最も低いというわけではなかった。ただし、第1五分位群の死亡リスクを1とした場合、第3五分位群はHR0.77(同0.73~0.80)、第5五分位群はHR0.82(95%CI;0.79~0.86)であって、ともに有意に低リスクだった。
これと同様に、野菜、果物など他の12種類の食品群についても五分位で群分けして死亡リスクを算出。次に、死亡リスクの中央値に該当する食品摂取量(median UK diet;MUK)から最も死亡リスクの低い摂取量(longevity-associated diet patterns;LUK)になった場合、最も非健康的な摂取量(unhealthy UK diet;UUK)から最も死亡リスクの低い摂取量(LUK)になった場合、死亡リスク中央値相当の食品摂取量(MUK)からガイドラインの推奨摂取量(Eatwell Guide dietary pattern;EUK)になった場合、最も非健康的な摂取量(UUK)からガイドラインの推奨摂取量(EUK)になった場合という、4通りの条件で、平均余命がどのように変わるかを推算した。
なお、この推算に際しては、年齢や性別、飲酒・喫煙・運動習慣、貧困の影響は統計学的に調整した。
40歳と70歳の女性と男性ごとの平均余命拡大効果
食事スタイルと死亡リスクとの関連の解析からは、長寿に関連した食事パターンとは、全粒穀物、果物、魚、白身肉を適度に摂取し、牛乳、乳製品、野菜、ナッツ、豆類を多く摂取して、卵、赤身肉、加糖飲料の摂取量は少ないというものであることが確認された。
そして、平均余命に及ぼす影響は以下のように推計された。なお、論文中には、摂取エネルギー量とBMIの影響を調整したモデルの結果と、未調整モデルの結果が示されているが、ここではそれらも調整したモデルの結果を紹介する。
40歳の女性
40歳の女性で、13種類の食品カテゴリーの摂取量が死亡リスクの中央値に該当する食事パターン(MUK)の場合の余命は44.7年、最も非健康的な食事パターン(UUK)では39.7年、ガイドラインの推奨を遵守した場合(EUK)では46.1年、最も理想的な食事パターン(LUK)では47.7年だった。
MUKからLUKへの変更によって余命は3.1年拡大し、UUKからLUKへの変更では8.0年拡大、MUKからEUKへの変更で1.5年、UUKからEUKへの変更で6.4年、余命が拡大すると見積られた。
40歳の男性
40歳の男性で、13種類の食品カテゴリーの摂取量が死亡リスクの中央値に該当する食事パターン(MUK)の場合の余命は41.5年、最も非健康的な食事パターン(UUK)では36.3年、ガイドラインの推奨を遵守した場合(EUK)では43.0年、最も理想的な食事パターン(LUK)では44.8年だった。
MUKからLUKへの変更によって余命は3.3年拡大し、UUKからLUKへの変更では8.4年拡大、MUKからEUKへの変更で1.6年、UUKからEUKへの変更で6.7年、余命が拡大すると見積られた。
70歳の女性
70歳の女性で、13種類の食品カテゴリーの摂取量が死亡リスクの中央値に該当する食事パターン(MUK)の場合の余命は17.6年、最も非健康的な食事パターン(UUK)では15.1年、ガイドラインの推奨を遵守した場合(EUK)では18.4年、最も理想的な食事パターン(LUK)では19.3年だった。
MUKからLUKへの変更によって余命は1.7年拡大し、UUKからLUKへの変更では4.3年拡大、MUKからEUKへの変更で0.8年、UUKからEUKへの変更で3.4年、余命が拡大すると見積られた。
70歳の男性
70歳の男性で、13種類の食品カテゴリーの摂取量が死亡リスクの中央値に該当する食事パターン(MUK)の場合の余命は15.4年、最も非健康的な食事パターン(UUK)では13.1年、ガイドラインの推奨を遵守した場合(EUK)では16.2年、最も理想的な食事パターン(LUK)では17.1年だった。
MUKからLUKへの変更によって余命は1.6年拡大し、UUKからLUKへの変更では3.9年拡大、MUKからEUKへの変更で0.8年、UUKからEUKへの変更で3.1年、余命が拡大すると見積られた。
男性では平均で最大10.8年、女性では10.4年の余命拡大が見込まれる
前記の平均余命の延長の予測データのうち、MUKからEUKへの変更による余命拡大は、40歳と70歳の女性と男性のすべてで、統計学的に非有意であった(95%不確定区間が1をまたぐ)。一方、その他の3パターンの変更による寿命延伸は、すべて有意だった。
男性と女性とに二分して最大の寿命延伸効果を検討すると、男性では平均10.8年の余命拡大、女性では平均10.4年の余命拡大が見込まれた。著者らは、「食生活の変化が寿命に与える影響を理解することは、健康政策の策定に指針となり得る」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Life expectancy can increase by up to 10 years following sustained shifts towards healthier diets in the United Kingdom」。〔Nat Food. 2023 Nov;4(11):961-965〕
原文はこちら(Springer Nature)