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長時間睡眠は認知機能低下リスクが高く、3種のアミノ酸摂取量が少ないとさらに高い 日本人対象縦断研究

60歳以上の日本人を対象とする縦断研究から、睡眠時間が8時間以上の長時間睡眠者は認知機能低下リスクが高く、シスチンなどの3種類のアミノ酸の摂取量が少ないと、そのリスクはさらに高くなることが報告された。国立長寿医療研究センター 老年学・社会科学研究センターの木下かほり氏、大塚礼氏らと味の素株式会社との共同研究であり、「BMC Geriatrics」に論文が掲載された。

長時間睡眠は認知機能低下リスクが高く、3種のアミノ酸摂取量が少ないとさらに高い 日本人対象縦断研究

睡眠時間、アミノ酸、認知機能の関連を地域住民対象の縦断研究で探る

認知症の増加は世界中で主要な健康課題となっており、いまだ薬物治療の効果が限定的なため、修正可能なリスク因子の特定が喫緊の課題。これまでの疫学研究から、睡眠時間と認知機能との間にU字型の関連があることが明らかになっている。短時間睡眠による認知機能低下のメカニズムとしては、神経変性の原因とされる脳内アミロイドβが睡眠中に分解されることから、短時間睡眠ではその分解が滞りアミロイドβの蓄積が速まるためではないかと考えられている。長時間睡眠と認知機能低下との関連のメカニズムは不明だが、長時間睡眠者はタンパク質摂取量が少ないという報告や、タンパク質摂取量が多いと認知機能障害になりにくいことなどが報告されている。

タンパク質の構成要素であるアミノ酸のうち、トリプトファンは睡眠や覚醒に関与するセロトニンやメラトニンの合成に必要であり、グルタミンは睡眠を促すγ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid;GABA)の合成に使われるなど、摂取量の多寡が睡眠に影響を及ぼす可能性がある。また睡眠に関わる代謝経路とは別に、いくつかのアミノ酸には炎症や酸化ストレスの抑制作用、神経伝達物質の合成を促すため、認知機能に影響する可能性がある。

このように理論的な知見は少しずつ蓄積されてきているが、アミノ酸の摂取量と睡眠時間や認知機能との関連を、縦断的に調査した研究はほとんどない。木下氏らはこれらの関連について、国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(National Institute for Longevity Sciences-Longitudinal Study of Aging;NILS-LSA)のデータを縦断的に解析して検討した。

NILS-LSA参加者を睡眠時間で3群に分類して比較

NILS-LSAは、愛知県大府市と知多郡東浦町の40歳以上の地域住民を対象とする研究。本研究の解析では、2002年5月~2004年5月に研究参加登録された2,378人のうち、認知機能を評価した60歳以上(1,202人)のうち、ベースライン調査に参加し、かつ、追跡調査4回のうち1回以上に参加した参加者から、ベースライン時点における認知機能低下者(基準は後述)、および解析に必要な食事記録等のデータの欠落者を除外した623人(年齢範囲60~83歳、男性47.5%)を解析対象とした。

認知機能の評価には、ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination;MMSE)を用いた。MMSEは0~30点でスコア化され、スコアの高さは認知機能が良好であることを意味する。本研究では、軽度認知機能障害のスクリーニングの至適カットオフ値とされる27点以下の場合に「認知機能低下あり」と判定した。

睡眠時間は自記式調査票により、昼寝を除く時間を2カ月ごとに12ヶ月把握し、その平均値を算出。6時間以下を「短時間睡眠群」(全体の9.3%)、7~8時間を「中等度睡眠時間群」(62.3%)、8時間超を「長時間睡眠群」(28.4%)とした。

食事摂取量は連続する平日2日、週末1日、計3日間の食事秤量記録に基づき、19種類のアミノ酸を含む栄養素摂取量を推定した。

長時間睡眠群は認知機能低下リスクが高く、一部のアミノ酸の摂取量の少なさは、さらなるリスク増加に関連

追跡期間(平均±標準偏差)は6.9±2.1年(範囲1.9~8.9年)で計4回の追跡調査への平均参加回数は3.4±1.0回であり、各調査時点で認知機能低下と判定された人の割合は23.9~31.0%の範囲だった。また、前記の睡眠時間による3群で、ベースラインの摂取エネルギー量や主要栄養素の摂取量に有意差は認められなかった。

睡眠時間と認知機能低下リスクとの関連

標準的な睡眠時間群を基準として認知機能低下の新規発症リスクを比較すると、交絡因子未調整モデルでは、短時間睡眠群のオッズ比 [95%信頼区間] は0.82 [0.50~1.35] で有意な関連がみられなかったのに対して、長時間睡眠群では 1.58 [1.22~2.06] と、オッズ比の有意な上昇が観察された。

次に、認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、BMI、MMSE、教育歴、身体活動量、就業状況、脳卒中・高血圧・虚血性心疾患・脂質異常症・糖尿病の既往、うつレベル〈CES-D〉、睡眠薬・抗不安薬の使用、追跡期間など)を調整して検討。すると、引き続き短時間睡眠群は非有意、長時間睡眠群は有意(1.41 [1.05~1.87] )であり、長時間睡眠の人は関連因子を調整した場合においても、認知機能低下リスクが高い可能性が示唆された。

アミノ酸摂取量と認知機能低下リスクとの関連

続いて、アミノ酸摂取量と認知機能低下リスクとの関連を検討した。長時間睡眠群と短時間~中等度睡眠群の2群において、それぞれでアミノ酸摂取量と認知機能低下リスクとの関連を解析した(この検討では、短時間睡眠群の該当者が9.3%と少ないため、短時間睡眠群と中等度睡眠時間群は合わせて1群として解析した)。解析では、各アミノ酸の摂取量の四分位で4群に分け、第1四分位群(各アミノ酸の摂取量が少ない下位25%)の認知機能低下リスクを、第2~4四分位群を基準として比較した。

その結果、短時間~中等度睡眠時間の群では、交絡因子未調整モデルと調整モデルともに、評価した19種類のアミノ酸すべて、摂取量が少ないことは認知機能低下リスクと有意な関連がなかった。

その一方、長時間睡眠群では、交絡因子未調整モデルで、シスチン、フェニルアラニン、バリン、アルギニン、アスパラギン酸、プロリン、セリンの摂取量が少ないことが、認知機能低下リスクと関連していた。交絡因子(前述の年齢、BMI等に加え、摂取エネルギー量とタンパク質摂取量)で調整すると、セリン(2.21 [1.14~4.29])、シスチン(2.17 [1.15~4.11] )、プロリン(1.86 [1.07~3.23] )という3種類のアミノ酸の摂取量が少ないことが、認知機能低下リスクと関連のあることが明らかになった。

睡眠時間が長い人は、3種類のアミノ酸の不足に注意したほうがよいかも

これらを基に著者らは、「地域に在住する60歳以上の日本人成人を対象とした本研究では、長時間睡眠は認知機能低下のリスクを高めた。さらに、長時間睡眠者では一部のアミノ酸摂取量の少なさが認知機能低下の発生と関連していた。高齢期は睡眠時間が長くなる傾向にあるが、本研究結果は、高齢者の脳機能と生活の質の維持を目標とした栄養学的アプローチに新たな視座を提供するかもしれない。」とまとめている。

また認知機能低下リスクとの関連が認められた3種類のアミノ酸について、以下のような考察が述べられている。

シスチンについては、腸内細菌がシスチンから抗酸化物質を生成することが知られており、シスチン摂取が炎症抑制や酸化ストレス軽減につながることを示した報告があるという。 炎症と酸化ストレスは認知機能障害を引き起こす神経疾患の原因として知られている。

プロリンについては、その含有ペプチドの摂取により認知機能が改善した報告があり、そのメカニズムは炎症性サイトカインや酸化ストレスを抑制することが考えられているとのことだ。さらにセリンは神経細胞の成長に必須であり、アルツハイマー病モデルマウスにセリンを摂取させるとシナプス障害と行動障害が抑制されたといった報告が見られるとしている。

そして本研究の長時間睡眠群において、シスチン、プロリン、セリンの摂取量が少なかった群は、摂取量が中等度以上だった群(摂取量の四分位に基づき分類された、第2~4四分位の群)に比べて豆類、野菜、魚介類、肉、卵、牛乳・乳製品の摂取量が有意に少なく、穀物の摂取量が有意に多かったという。このことから、長時間の睡眠をとる人はそれらの食品の摂取量に留意して、シスチン、プロリン、セリンが不足しないようにすることが重要であるとしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Dietary amino acid intake and sleep duration are additively involved in future cognitive decline in Japanese adults aged 60 years or over: a community-based longitudinal study」。〔BMC Geriatr. 2023 Oct 11;23(1):653〕
原文はこちら(Springer Nature)

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