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厚労省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を策定 個人差を考慮した酒量や飲み方を推奨

厚生労働省はこのほど、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を策定した。純アルコール量に基づき飲酒量を評価することや、年齢や性別、体質などに留意した飲酒量の上限、および飲み方をすることを推奨している。日本人対象研究のエビデンスに基づいて、各種疾患の発症リスクが上昇し得る飲酒量も示されており、それによると例えば高血圧は、性別にかかわらず週あたりの飲酒量が0gを上回った場合、つまり、わずかな飲酒であってもリスクが上昇し得るという。

厚労省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を策定 個人差を考慮した酒量や飲み方を推奨

「酒は百薬の長」はもう古い?

「酒は百薬の長」と言われ、公衆衛生対策において喫煙問題に比べると、これまでやや甘い対応がとられてきたかもしれない。しかし近年、精緻な疫学データが蓄積されてきて、少量の飲酒が必ずしも健康に良いとは言えず、むしろ酒量がわずかであっても有害な可能性があるとする立場が支持されるようになってきた。

このような変化の中で本ガイドラインは、アルコール健康障害対策基本法に基づき、「飲酒や飲酒後の行動の判断等に資することを目指す」という趣旨のもと策定された。その内容は、基礎疾患などのない20歳以上に対して、飲酒による身体等への影響について、年齢・性別・体質等による違いや飲酒による疾病・行動に関するリスクなどをわかりやすく伝えようとするもので、考慮すべき飲酒量(純アルコール量)や配慮のある飲酒の仕方、飲酒の際に留意すべき事項も示している。

本ガイドラインには、保健指導の現場ですぐに利用可能な情報も少なくない。以下に要旨を抜粋する。

飲酒の影響は個人差が大きい

飲酒による影響には個人差があり、例えば年齢、性別、体質によって異なり、また同じ人でも体調によって影響が異なる。

年齢

高齢者は体内の水分量の減少などのため、同じ量のアルコールでも若年期より酔いやすくなる。また、飲酒量が一定量を超えると認知症リスクが高まる。加えて、飲酒による転倒・骨折、サルコペニアのリスクが上昇する。

一方、若年者も飲酒の影響を受けやすい可能性があり、脳の発達の過程にある10代または20代でも、多量飲酒によって脳の機能の低下や高血圧等のリスク上昇が示唆されている。

性別

女性は一般に男性より体内の水分量が少なく、分解できるアルコール量も少ないことや、エストロゲン等の働きによりアルコールの影響を受けやすい。このため女性は少量・短期間の飲酒でアルコール関連肝硬変になるなど、健康被害が大きくなりやすい。

体質

アルコールを分解する酵素の働きの強弱には、大きな個人差がある。分解酵素の働きが弱い場合、飲酒により顔が赤くなったり、動悸や吐き気を催しやすい。そのような人が長年飲酒して、不快を伴わずに飲酒するようになった場合、アルコールを原因とする口腔がんや食道がん等のリスクが非常に高くなることが示唆されている。

飲酒量の把握の仕方と健康リスクとの関連

純アルコール量に換算して評価する

飲酒の健康リスクの評価には飲酒量を把握することが必要だが、その飲酒量は酒類に含まれる純アルコール量で判断する。純アルコール量は以下の計算により算出する。

純アルコール量(g)の計算式

摂取量(mL) × アルコール濃度(度数/100) × 0.8(アルコールの比重)

例えば、度数5%のビール500mLの場合、500×0.05×0.8で、純アルコール量は20gとなる。

純アルコール量と健康リスクの関連

日本人対象研究のエビデンスに基づき、さまざまな疾患の発症リスクの上昇と飲酒量(純アルコール量)との関連について、以下の表のようにまとめられている。

表 わが国における疾病別の発症リスクと飲酒量(純アルコール量)
疾病名飲酒量(純アルコール量)
男性女性
研究結果(参考)研究結果(参考)
脳卒中(出血性)150g/週(20g/日)0g<
脳卒中(脳梗塞)300g/週(40g/日)75g/週(11g/日)
虚血性心疾患・心筋梗塞
高血圧0g<0g<
胃がん0g<150g/週(20g/日)
肺がん(喫煙者)300g/週(40g/日)データなし
肺がん(非喫煙者)関連なしデータなし
大腸がん150g/週(20g/日)150g/週(20g/日)
食道がん0g<データなし
肝がん450g/週(60g/日)150g/週(20g/日)
前立腺がん(進行がん)150g/週(20g/日)データなし
乳がんデータなし100g/週(14g/日)
上記の飲酒量(純アルコール量)の数値のうち、「研究結果」の欄の数値は、これ以上の飲酒をすると発症等のリスクが上がると考えられる量。(参考)の欄の数値は、「研究結果」の数値を7で除した値の概数。「0g<」は少しでも飲酒をするとリスクが上がると考えられるもの。「関連なし」は飲酒量とは関連がないと考えられるもの。「データなし」は飲酒量(純アルコール量)と関連する研究データがないもの。「※」は現在研究中のもの。
(出典:厚生労働省)

前述のように飲酒の影響は個人差が大きいことに留意すべきであり、上記の量未満の飲酒であれば、飲酒が原因で当該疾患に罹患することはないとは言えないが、リスクを高めにくいであろうとは考えられるとのことだ。

健康に配慮した飲み方のアドバイス

たとえ飲酒をする場合にも、さまざまな危険を避けるための対策をとることが可能。ガイドラインでは、その対策のアドバイスをいくつか取り上げている。

対策の一つは、「自らの飲酒状況等を把握する」こと。その方法として例えば、飲酒関連問題のスクリーニングツールである「AUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)」を用いたりすることで、自らの飲酒の習慣を把握するという手法が紹介されている。なお、AUDITは世界保健機関(WHO)が作成したもので、10項目の簡易な質問でアルコール関連問題の重症度を評価する。

飲酒関連スクリーニングツール「AUDIT」とは

依存症スクリーニングテスト「AUDIT-C」(久里浜医療センター)

このほかにも、「あらかじめ量を決めて飲酒する」、「飲酒前または飲酒中に食事をとる」、「飲酒の合間に水や炭酸水を飲むなどして、アルコールをゆっくり分解・吸収できるようにする」、「1週間のうち飲酒をしない日を設ける」といった助言が示されている。

避けるべき五つの飲酒関連行動

最後にまとめられている避けるべき飲酒関連行動は以下の5項目。

多量飲酒

とくに短時間の多量飲酒では、さまざまな身体疾患の発症や急性アルコール中毒を引き起こす可能性がある。1機会に純アルコール摂取量60g以上の飲酒は、外傷の危険性も高める。

他人への飲酒の強要

飲酒を契機とした暴力や暴言・ハラスメントなどは避けなければならない。

不安や不眠解消目的での飲酒

不安の解消のための飲酒を続けることによって依存症のリスクが生じたり、飲酒によって眠りが浅くなり睡眠のリズムが乱れることがある。

療養中の飲酒や服薬後の飲酒

病気等の療養中は過度な飲酒で免疫力がより低下し、感染症にかかりやすくなったりし得る。また、服薬後に飲酒した場合は、薬の効果が弱まったり、副作用リスクが上昇したりし得る。

飲酒中や飲酒後の運動・入浴など

飲酒により血圧の変動が大きくなることなどによって、心筋梗塞や転倒などのリスクが上昇し得る。

以上、厚生労働省による「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の要旨を紹介した。同省では、科学的知見の蓄積状況等を踏まえ、必要に応じてこの見直しを行うとしている。

なお、令和6年度からスタート予定の「健康日本21(第三次)」では、「生活習慣病のリスクを高める量(1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上)を飲酒している者の減少」を目標とし、男女あわせた全体の目標値として10%という値が設定されている。

関連情報

「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表します(厚生労働省)
健康日本21(第三次)(厚生労働省)

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