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体重に対するスティグマに関連して、世界肥満連盟が9項目の推奨からなる立場表明

世界肥満連盟は先ごろ、体重に関連するスティグマを認識し、その排除を進めるための推奨事項も含む立場表面を、国際肥満学会発行のジャーナル「Obesity Reviews」に掲載した。世界的な肥満に関する‘narratives’(物語、表現)が、体重関連のスティグマにどのようにつながるのかを考察して、それに基づく推奨を掲げている。一部の要旨を紹介する。

体重に対するスティグマに関連して、世界肥満連盟が9項目の推奨からなる立場表明

体重関連のスティグマ

過体重や肥満者は、社会的なスティグマ(偏見)や差別を受けやすい。西洋諸国では、体重に対するスティグマを経験した割合が6割を超えているとする報告があり、そのようなスティグマは不利益や不公平、さらには数多くの健康への悪影響をもたらす。世界的に、とくに社会経済的地位が高いグループの人々の間で、痩せていることを好む傾向が高まっている。

世界肥満連盟(World Obesity Federation;WOF)では、肥満に焦点を当てた公衆衛生上のメッセージを調査し、肥満関連の‘narratives’がそのようなスティグマを助長している可能性を検討するワーキンググループを設置し、作業を継続してきた。ワーキンググループのメンバーには、米国、英国、カナダ、アイルランド、フランス、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランド、インド、ブラジル、シンガポール、マレーシア、メキシコ、バハマ、バングラデシュ、チリ、ケニア、ナイジェリア、クウェート、カリブ海諸国の医療従事者、研究者、および肥満の実体験を持つ個人が含まれていた。

肥満に関する‘narratives’の全体像

肥満者は、怠け者、大食漢、知性が低い、魅力的でない、規範を守らないなどのステレオタイプ化されることが多く、ニュースや広告、ソーシャルメディア、およびエンターテイメントにおいてそのように描かれることが少なくない。これらの固定観念は、体重は個人の責任の範疇とする支配的な考え方が定着していることを示す。また、肥満の“万能の”治療法は食事摂取量を減らすことであると一般に信じられていて、遺伝やエピジェネティクス、心理的要因、内分泌、および収入や教育、雇用状況などを含む複雑で相互に関連した一連の要因によって決定されるという重要なエビデンスを無視している。

さらに、肥満の定義または診断のためにBMIなどの身体測定尺度を使用することも、体重に対するスティグマに寄与する可能性がある。肥満(症)の診断には、肥満が人の健康を損なうかどうか、またどのように損なうかを判断するための医学的評価が欠かせない。身体測定のみに基づいて、保険料の引き上げや医療処置の拒否などを行うことは、社会の不平等につながる可能性を孕んでいる。

食事と身体活動に関する‘narratives’

個人の食物摂取と身体活動のみに焦点を当てた単純な肥満予防メッセージは、相互に関連する多くの生物学的、心理社会的、環境的健康決定因子を無視することによって、体重に対するスティグマを助長する。さらに、栄養と運動に焦点を当てた介入は、長期にわたる持続可能な肥満治療には有効ではないことが実証されつつある。

また、多くの医療提供者は肥満や体重に関するスティグマにどのように向き合うべきか、そのトレーニングを受けていない。そのことも、健康というアウトカムに着目するのではなく、単に体重の変化に焦点を当てた予防および治療アプローチの推進に寄与してしまっている可能性を否定できない。

用語等について

言語や画像は、研究、教育、政策、医療、メディアにおける社会規範やnarrativesを形成する上で重要な役割を果たしている。

肥満の定義

BMIに基づく肥満の定義は脂肪蓄積の位置、分布、機能を考慮していないとの批判があり、肥満診断の唯一の基準としてBMIを用いることの廃止を訴える声がある。BMIやその他の身体計測指標のみに依存する定義を捨て、過剰な脂肪や機能不全の脂肪が健康を損なうときに発生する慢性疾患として、肥満(症)を概念化することが重要。体重に対するスティグマを防ぐには、体格、体重、肥満を区別することが求められる。体重が重い人のすべてが肥満であるわけではない。臨床用語としての「肥満」(日本においては「肥満症」という用語を用いるべき状態を指すと解釈される)は、人の体の大きさを指すために使用されるべきではなく、個人が肥満(症)であると適切に医学的に診断された場合にのみ使用されるべき。

言葉遣い

「肥満の負担」、「肥満との戦い」、「肥満の撲滅」などの言葉は、体重に対する偏見を不用意に増大させる可能性があり、公の場でのコミュニケーションでは使用すべきでない。また、公衆衛生キャンペーン、とくにメディアにおけるスティグマを与えるような言葉、画像(体重が重い人の絵やビデオの描写を含む)、メッセージは非常に問題となることがある。過度に単純化された肥満の予防および治療メッセージ(例えば「食べる量を減らし、もっと運動すべき」)は、体重に基づく固定観念を広めてしまう。

体重関連のスティグマを取り払うための世界的な取り組みに関する推奨事項

論文では上記のほかに、ライフステージごとに生じ得るスティグマなどの考察がまとめられており、末尾には9項目からなる推奨事項が掲げられている。以下はその推奨事項を要約(意訳)したもの。

1. 体格と肥満を混同しない(Distinguish between body size and obesity.)
BMIは臨床スクリーニングツールとして用いられるが、肥満(症)の診断ツールとして使用されるべきではない。体重に重点を置くのではなく、健康的な行動の促進によって、スティグマを伴わずに良好な結果が得られる可能性がある。
2. 人を重視した言葉を用いる(Use person-first language)
対象者の呼称として、肥満という特徴を表す言葉を用いるのではなく、そのような特徴を有する人として表現する。
3. 個人の用語の好みを考慮する(Consider individual language preferences)
体重が重いことを表現する用語として、普遍的に好まれる用語は存在しない。体重が重い人は、そのことに関する用語に独自の信念を持っていて、それは個人個人異なる可能性がある(例えば「体が大きい」など)。個人の好みを尊重することは、患者中心のケアの提供に重要。
4. 非難とならない言葉や画像を用いる(Use non-stigmatizing language and imagery)
用いる言語やイメージが固定観念を強化したり、個人を責めたり恥をかかせたりするものであってはならない。コミュニケーションでは、不安を与える言葉、否定的な言葉、挑発的な言葉も避けるべき。この推奨は、メディアや公衆衛生の現場で、とくに強化される必要がある。
5. 体重に依存しない健康増進(Engage in weight-neutral health promotion)
健康増進戦略は体重ではなく、健康への成果に焦点を当てるべきである。BMIに基づく「健康的な体重」という既成の概念から離れ、体重や体格に関係なく、個人の健康と福祉に総合的に焦点を当てる方向への転換が必要。
6. スティグマ抑制のための政策(Engage in legislative and policy efforts to reduce weight stigma)
政府、政策立案者は、あらゆる健康増進の取り組みにおいて、体重に関するスティグマを考慮する必要がある。教育、医療、雇用、メディア、広告、エンターテインメント業界における体重に基づく差別を取りのぞく取り組みも必要。
7. 人権に基づくアプローチの推進(Promote human rights-based approaches to tackle weight stigma and discrimination)
体重や肥満という特徴を強調することは、法によって必ずしも明示的に禁止されるものではないが、健康状態に基づく差別を禁じている国もある。職場での体重に基づく差別については、雇用関連法の違反となる可能性がある。人権保護を求めるキャンペーンは、体重に関するスティグマの軽減につながり、すべての人は平等であるという概念を促進する可能性がある。
8. 体重関連のスティグマに対する意識を高める(Raise awareness of weight stigma)
専門的なトレーニングプログラムや教育の機会において、体重関連のスティグマに関する知識を伝えることは、教育、医療、職場における公平性の向上にとって重要。
9. エビデンスを世界的規模で増やす(Increase the global evidence base)
高所得国においては体重関連のスティグマに関するエビデンスが豊富だが、低所得国でのエビデンスの拡充が望まれる。今後の研究では、体重に関するスティグマが国や文化を超えてどのようにかたち作られ、経験されているかを調査する必要がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Changing the global obesity narrative to recognize and reduce weight stigma: A position statement from the World Obesity Federation」。〔Obes Rev. 2024 Jan;25(1):e13642〕
原文はこちら(MDPI)

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