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登山家が登山遠征に持っていく食料は、エネルギー不足で脂質に偏り過ぎの傾向 ポーランドの研究

登山家の登山遠征中の栄養素摂取量の調査結果が報告された。標高5,000~6,000m級の高山の登頂を含む3週間以上の登山遠征中、エネルギー出納は1日あたり1,800kcal近くマイナスになっていたという。ポーランドの登山家対象に行われた研究。

登山家が登山遠征に持っていく食料は、エネルギー不足で脂質に偏り過ぎの傾向 ポーランドの研究

登山家の登山中の食事を調査

高地では食欲が低下しやすい

登山はそれ自体、極めて多くのエネルギー量を消費する。それに対してエネルギーの補給が十分でない場合、疲労が生じやすくなったり、免疫能が低下したりして、遠征失敗の原因ともなる。さらに、高地であるほど酸素が薄く、過換気、心拍出量の増加、交感神経の亢進などの負荷が増大する一方、「山岳食欲不振(mountain anorexia)」と呼ばれる状態も生じやすい。また当然ながら、食料や水を十分に携行しようとするほど重量が増え、身体の負荷はより増大し、加えて携行可能な食料は日持ちのするものに限られる。

このような相反する悪条件をどのように折り合いをつけ、どのような食料を携行するのがベストなのかは、現在のところガイドラインのようなものはなく、登山家の経験によって判断されている。今回紹介する論文の著者らは、恐らく登山遠征中の食事摂取量は不足しているであろうとの仮説のもと、以下の研究を行った。

3週間にわたる6,000m級の山々を踏破中の食事記録を解析

研究参加者は、ポーランド出身の23~42歳の男性で、毎年、夏季に少なくとも1回の山岳遠征を行っている登山家28人。登山歴10年以上が42.9%を占め、82.1%は週に2回以上スポーツクライミングのトレーニングを行っていて、さらに92.8%はランニング、サイクリング、水泳、重量挙げ、スカイダイビング、​​スキーなどの補完的なトレーニングを行っていた。

参加者全員が遠征登山中の食事に関するアンケートに回答。さらに15人は、実際に遠征登山中の消費エネルギー量を心拍数等から推測するデバイスを身に着けてもらい、かつ食事記録を付けてもらった。

年齢は、28人の全体では33.12±5.96歳、遠征登山調査にも参加した15人は29.6±5.25歳。BMIは同順に22.31±1.37、22.06±1.61。遠征登山調査は、ペルーまたはパキスタンの3,000m以上の高地に3週間以上滞在し、その間、ペルーでは最高6,025m、パキスタンでは6,150mの山を含むルートを踏破した。食事記録は4,000~6,000mの高さを踏破中の3日間にわたって記録された。

アンケート調査でわかった遠征登山中の食事

山での食事:4人中3人は「山では甘い物を過剰に摂取している」と回答

まず、アンケート調査の結果からみていこう。

28人のうち、遠征前の体調確認のために血液検査を受けると回答したのは14.3%であり、85.7%は受けないと回答した。これに関連して、鉄レベルやフェリチンレベルを把握するという回答もわずかだった(「確認しない」が同順に92.9%、96.5%)。また、出発前に遠征中の食事について、栄養士に相談している人はわずか7.1%だった。

山での食事については、85.7%が「通常の食事とは大きく異なる」と回答。標高3,000mでの食欲については、「良い」が67.9%、「普通」および「非常に良い」がともに14.3%で、「低下する」は3.6%だった。

山で摂取する食品として最も一般的なものは、チョコレートバー、フリーズドライ、エナジージェル、グミ、スナック、乾燥肉、フルーツムース、缶詰の肉や魚、インスタント食品(ゼリー、プリン、スープ)などであり、反対に最も摂取されない食品は、野菜、果物、卵、牛乳および乳製品などだった。とくに野菜については、92.9%、果物は82.1%が「不足する」と回答した。なお、回答者の78.6%は甘いスナックを第一選択として好んで摂取し、75%は山では甘いものを過剰に摂取していると回答した。

山での水分:大半の登山家が高山病の一因として水分不足を指摘

水分摂取量は1日あたり2~3Lが46.4%、1~2Lが39.3%、3~4Lが7.1%、1L未満と4L以上がそれぞれ3.6%。水分のタイプとしては、アイソトニック飲料(78.6%)、茶(60.7%)、水(53.6%)、コーヒー(14.3%)、ジュース(10.7%)であり、ビール(3.6%)という回答もあった。

回答者の57.1%は、山中で飲む水分の量は十分ではないと考えていた。なお、氷河の水を飲むときに浄水タブレットを使用しているのはわずか14.3%だった。また、20%が高山病を経験したことがあると回答し、全体の94.4%が「高山病の原因の一因は体の水分不足の可能性がある」と主張した。下山後に体重が減少したことを確認したとの回答は73.3%だった。

サプリの利用:4割がカフェインを使用

サプリメントとして、39.3%がカフェインを登山中に摂取すると回答した。次いで多いのはプロテインサプリで28.6%、その他、ビタミン/ミネラル、ω3脂肪酸、プロバイオティクスなどが挙げられた。

食事調査でわかった山での食事の問題点

エネルギー出納:1日あたり1,800kcal近くマイナス

次に、実際に登山中の消費エネルギー量と摂取エネルギー量・栄養素量が調査された15人の調査結果をみてみよう。

この15人の1日あたりの消費エネルギー量は4,559.5±425kcalだった。それに対して摂取エネルギー量は2,776.8±878kcalであり、大半の登山家のエネルギー出納がマイナスで、平均すると-1,782.66±264kcalだった。15人中、エネルギーバランスがほぼ満たされていたのは2人(13.33%)に過ぎなかった。

栄養素バランス:タンパク質が少なく脂質に偏り過ぎ

主要栄養素のバランスをみると、炭水化物は52.7%とほぼ適切であるのに対して、タンパク質は12.1%と少なく、反対に脂質は36.8%と過剰であった。、

これらの結果に基づき、論文の結論にはいくつかの推奨事項が掲げられている。一部を抜粋する。

  • 登山者のエネルギー需要を満たすうえで、炭水化物の補給に最適なスナック(バー、エナジージェル、グミ)を摂取するようにする。ベースキャンプ以外では十分な食物繊維を摂取することは困難なため、ベースキャンプにいる間に食物繊維を摂取することに意味があると考えられる。
  • 高地でのプロテインサプリメントの使用は、除脂肪体重の減少を抑制する実用的な戦略であると思われる。スポーツにおける効果のエビデンスのあるサプリメントの摂取を検討する価値がある。
  • 登山のための栄養とサプリメントの推奨事項を開発する必要がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Diet, Supplementation and Nutritional Habits of Climbers in High Mountain Conditions」。〔Nutrients. 2023 Sep 29;15(19):4219〕
原文はこちら(MDPI)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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