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スポーツファーマシストへのアンケート調査の報告 活動の実態と課題が明らかに

日本以外には類をみない、わが国オリジナルの専門資格である「スポーツファーマシスト」の活動の実態が報告された。法政大学大学院スポーツ健康学研究科の後藤亜由美氏らがアンケート調査を行い、回答を解析した結果であり、日本薬学会発行の「薬学雑誌」に論文が掲載された。回答者の8割以上がスポーツファーマシスト間のつながりを有益であると感じ、9割以上が資格認定の更新を考えていることなどが明らかにされている。

スポーツファーマシストへのアンケート調査の報告 活動の実態と課題が明らかに

世界から高く評価されている「スポーツファーマシスト」の活動の実態を調査

公認スポーツファーマシスト(スポーツ薬剤師)認定制度は、日本アンチ・ドーピング機構(Japan Anti-Doping Agency;JADA)が2009年に、日本薬剤師会の協力を得て開始した制度であり、他国にない日本特有の認定制度。世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)からも、先進的かつ他国のモデルになり得る制度として高く評価されている。

スポーツファーマシストの認定者数は2022年4月1日時点で累計1万2,345名であり、アスリートのドーピングリスク低減に寄与している。2020年 東京オリンピック・パラリンピック競技大会でも、選手村内の診療所に勤務した薬剤師は全員、スポーツファーマシストの有資格者だった。

しかし、スポーツファーマシストとしての活動の実態や、資格を有することが薬剤師業務にどのように生かされているか否かなどは、これまで調査されていない。後藤氏らは、スポーツファーマシスト対象にアンケート調査を行い、現状の把握と課題の抽出を試みた。

関連情報
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薬剤師会の協力を得てアンケートを実施

アンケートは2022年7~12月に、4県(千葉、広島、岡山、和歌山)の県薬剤師会の協力を得て行われた。事前に6人のスポーツファーマシストに対してインタビューを行い、アンケート項目を検討。調査すべき事項として、スポーツファーマシストに対するアスリートの認識不足、スポーツファーマシストのスキルの不均一性、経験の浅いスポーツファーマシストのサポート、専門知識を無償で提供することの懸念などが浮かび上がった。ふだんの活動内容とともに、これらの事項についても把握可能なアンケートが作成された。

有効回答数は218件だった。回答者のおもな特徴は、年齢は30代(29.8%)、40代(28.0%)、50代(26.1%)が中心で、60歳以上(11.0%)や30歳未満(5.0%)の割合は低かった。性別は男性が52.8%とほぼ半数であり、勤務先は調剤薬局が71.6%と多くを占め、病院は19.7%で、薬局以外が8.7%だった。

スポーツファーマシストとしての経験年数は、10年以上が27.1%を占め、その他は1年が12.8%、2年も12.8%であり、残り47.2%は3~9年の範囲に分布していた。

明らかになった現状と課題

スポーツファーマシストとしての活動の実態

ドーピングリスクに関する相談に対応する頻度は、年に1回以下が46.8%、経験なしが36.2%、年に1回超が17.0%であった。

そのほかに、治療使用特例(therapeutic use exemption;TUE)についての相談に応じた経験(年1回以下と年1回超の合計の割合)は14.3%、アスリートの競技会参加への帯同が6.9%、アンチ・ドーピング啓発活動は18.8%などという結果が得られた。また、5.1%はアスリートとコンサルティング契約を締結した経験を有していた。

これらの活動に際して、報酬(交通費を含む)を受け取った割合は、ドーピングリスクに関する相談の対応では6.5%とわずかであり、治療使用特例(TUE)に関する相談の対応でも7.1%と低率だった。競技会参加の帯同では33.3%、啓発活動では61.0%、コンサルティング契約では36.4%だった。

報酬なしの理由としては、「日常業務の範囲内だから」(38.5%)、「報酬を得るほどの業務ではないから」(27.5%)、「ボランティア活動だから」(21.1%)、「報酬を請求しづらい」(19.3%)などが挙げられた(複数選択可による回答)。一方、報酬があったほうが良いと考える理由として、「責任のある業務だから」(42.2%)、「プロフェッショナルの仕事と認められるには報酬が必要」(37.6%)、「モチベーションのため」(14.7%)などが挙げられた。

「情報交換が可能なスポーツファーマシストはいるか?」との質問には、「はい」が41.3%であり、「情報交換は有益と思うか?」には83.9%が「そう思う」と回答した。

スポーツファーマシストという存在に対する捉え方

「アスリートやスポーツにかかわる人にとって、スポーツファーマシストは必要とされていると思うか?」という質問には、22.5%が「そう思う」、48.6%が「ややそう思う」、21.6%が「あまりそう思わない」、7.3%が「そう思わない」と回答した。

また、「スポーツファーマシストの資格は自分の仕事に有益だと思うか?」には、34.0%が肯定的な回答(「そう思う」と「ややそう思う」の合計)、「スポーツファーマシストの活動を通じてスポーツを支援する充実感を感じるか?」には39.5%が肯定的な回答をした。

資格認定の更新については(スポーツファーマシストの資格は4年ごとの更新が必要)、93.6%と大半の有資格者が更新の意向を示した。

関連団体との連携のプラットフォームが必要ではないか

これらのほかに、自由記述の回答からは、スポーツファーマシストとしての実務経験の不足、どのようにスキルアップするか、スポーツファーマシスト同士の連携またはスポーツ関連の他団体との連携強化、スポーツファーマシストという存在の認識率の向上などの課題の存在が浮かび上がった。

これらを基に著者らは、「スポーツファーマシスト間のネットワーク推進の機会やスポーツ団体との協力のためのプラットフォーム構築を検討する必要があることが示唆される」と結論づけている。なお、今回の調査では、スポーツファーマシストが最も多く存在している東京都が対象に含まれていなかったことは解釈上の留意点であり、将来的にはより広範な対象での調査が求められると付け加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Activities and Challenges of Sports Pharmacist: A Questionnaire Survey」。〔Yakugaku Zasshi. 2024 Jan 1;144(1):129-136〕
原文はこちら(J-STAGE)

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