月経周期に伴う食欲や栄養素摂取量の変化はハイレベルの女性アスリートでは生じない 新潟医療福祉大
一般女性では月経周期が食欲に影響を及ぼすことが知られているが、ハイレベルの女性アスリートではそのような影響は認められないとする研究結果が報告された。新潟医療福祉大学健康栄養学科の宮本真菜氏らの研究によるもので、「PeerJ」に論文が掲載された。
女性の食欲は月経周期の影響を受けやすい
女性ホルモンのうちエストロゲンは食欲を抑制し、プロゲステロンは食欲を亢進させるとされており、それにより卵胞期では食欲が低下して黄体期に増進する。ただし黄体後期には女性ホルモン分泌が低下することに加えて、月経痛などの症状が生じやすいため、その影響もあって食欲が低下しやすい。
このように、月経周期に伴い食欲が変動することは、比較的よく知られている。ただし、女性アスリートにもそのような食欲の変化や食事摂取量の変化が生じているのかは十分研究されていない。アスリートのパフォーマンス維持・向上にとって食事・栄養が重要であることは論を俟たず、摂取エネルギー量が相対的に不足した場合、パフォーマンスの低下だけでなく健康への悪影響のリスクも高まる。一方で、ハイレベルのアスリートはトレーニングによるエネルギー需要が一般女性より高いため、月経周期に伴う食欲の変化にかかわらず一定のエネルギー量の食事を摂取している可能性もある。
宮本氏らは、ハイレベル女性アスリートの食事摂取量に対する月経周期の影響を確認する目的で、以下の研究を行った。
122人のアスリートを卵胞期、黄体前期、黄体後期に分類し、栄養素摂取量を比較
研究の対象は、15~24歳の女性アスリート122人。大学競技会レベルの陸上選手、および、国際大会レベルのボート選手で構成されていて、BMIは21.9±0.1%、体脂肪率21.7±0.5%だった。
栄養素摂取量は、トレーニング日2日、休息日1日、計3日にわたり、摂取するもののすべての写真を選手個人に撮影してもらい、栄養士が分析した。月経周期については、月経日記をつけてもらい、その記録から卵胞期、黄体前期、黄体後期に分類した。
栄養素摂取量に有意差なし
月経日記に基づき、122人中61人(50.0%)が卵胞期、40人(32.8%)が黄体前期、21人(17.2%)が黄体後期と判定された。各群の栄養素摂取量を比較するとエネルギー量、主要栄養素、微量栄養素のいずれも、有意差は観察されなかった。詳細は以下のとおり。
月経周期の食事への影響の研究では、対象集団の身体活動量に留意が求められる
以上より著者らは、「ハイレベルの女性アスリートでは、一般集団を対象とした多くの既報研究と異なり、月経周期を通じて摂取栄養素量に有意な変化が生じないことが明らかになった」と総括するとともに、その理由を「日々の高強度トレーニングに伴いエネルギー需要が高まることが、女性ホルモンによる食欲への影響を凌駕するのではないか」との考察を付け加えている。したがって、「女性の月経周期と栄養素摂取量との関連を調査する今後の研究では、対象集団の身体活動量に留意が必要と考えられる」と述べている。
なお、本研究の限界点として、月経周期を日記に基づき判定しており、女性ホルモンレベルを評価していないことを挙げている。また、ハイレベルの女性アスリートの栄養素摂取量が月経周期の影響を受けない真のメカニズムは依然として不明であり、今後の研究の必要性を付記している。
文献情報
原題のタイトルは、「Exploring the relationship between nutritional intake and menstrual cycle in elite female athletes」。〔PeerJ. 2023 Sep 25:11:e16108〕
原文はこちら(PeerJ)