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高齢者の口腔機能低下は低栄養だけでなく過栄養のリスク

残存歯数が少ないことや硬い物を噛めないなど、口腔機能が低下した状態は、一般に低栄養のリスク因子と考えられているが、過栄養のリスク因子でもある可能性を示唆する研究結果が報告された。東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の塩田千尋氏らが、日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study;JAGES)のデータを解析して明らかにしたもので、「Nutrients」に論文が掲載された。

高齢者の口腔機能低下は低栄養だけでなく過栄養のリスク

口腔機能低下と体重減および体重増という双方への影響を同一対象で評価

歯の喪失や咀嚼力の低下などで把握される口腔機能の低下は加齢とともに進行し、口腔機能の低下は体重の変化、とくに低栄養を表す体重の減少につながると考えられ、実際にその関連を示した報告も存在する。ただし、それらの研究の大半は体重減少のみに焦点を当てていて、過栄養を表す体重増加との関連が存在する可能性についてはほとんど考慮されていない。

これを背景として塩田氏らは、65歳以上の高齢者約20万人を対象に行われている大規模疫学研究である日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを用いて、口腔機能と体重の減少または増加との関連を、縦断的に解析した。

3年間での体重変化で3群に分類して関連因子を検討

JAGES参加者19万6,851人のうち、全国28市区町に居住し2016年のベースライン調査時に要介護認定を受けておらずADLが自立していて、データ欠落のない6万3,602人(年齢73.0±5.5歳、男性48.0%、BMI22.8±3.0)を対象とし、2019年に追跡調査を行った。調査は郵送による自記式アンケートによった。

解析の目的変数は体重の変化であり、説明変数は口腔機能の低下とした。体重変化は、3年間の追跡期間中の増減幅が5%以下だった群、体重が5%超減少していた群、5%超増加していた群の3群に分類した。また、交絡因子として、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、併存疾患、教育歴、婚姻状況、所得などを把握した。

口腔機能の評価について

口腔機能は、残存歯数、咀嚼困難、嚥下障害、口腔乾燥という4項目で評価した。

これらのうち残存歯数以外の3項目は、フレイル健診で用いられている基本チェックリストに含まれている、「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」、「お茶や汁物等でむせることがありますか」、「口の渇きが気になりますか」に、「はい」と回答していた場合に、その機能が低下していると判定した。

残存歯数についてはアンケートにより把握し、20本以上、10~19本、0~9本の3群に分類した。

嚥下困難以外の3項目の口腔機能指標が、体重減少だけでなく体重増加とも有意に関連

全体の74.4%は3年間の体重変化が5%以内であり、体重が5%超減少していたのは15.2%、5%超増加していたのは10.4%だった。また、残存歯数は20本以上が60.1%、10~19本が20.4%、0~9本が19.6%で、咀嚼困難は23.9%、嚥下障害は16.9%、口腔乾燥は18.6%が該当した。なお、解析対象者全体の62.6%が義歯を利用していた。

体重減少と口腔機能の関連

まず、3年間で5%超の体重減少と関連する因子を検討すると、交絡因子未調整モデルでは、評価した4項目の口腔機能の低下はすべて、有意な関連が認められた。年齢や性別、および前記の交絡因子を調整すると、嚥下障害のみ非有意となったが、その他の3項目は引き続き有意な関連が示された。リスク比(risk ratio;RR)は以下のとおり。

残存歯数は20本以上の群を基準として10~19本ではRR1.16(95%CI;1.10~1.21)、0~9本ではRR1.17(同1.11~1.23)、咀嚼困難ありでRR1.12(1.07~1.16)、口腔乾燥ありでRR1.11(1.06~1.16)。

体重増加と口腔機能の関連

次に、3年間で5%超の体重増と関連する因子を検討すると、交絡因子未調整モデルでは、評価した4項目のうち嚥下障害を除く3項目で有意な関連が認められ、それらは交絡因子調整モデルでも引き続き以下のような有意な関連が示された。

残存歯数10~19本ではRR1.13(1.06~1.20)、0~9本ではRR1.23(1.14~1.31)、咀嚼困難ありでRR1.09(1.04~1.15)、口腔乾燥ありでRR1.09(1.03~1.15)。

口腔機能と体重変化の関連のメカニズムは?

日本人高齢者を対象とする縦断的研究により示された以上の結果に基づき著者らは、「ADLの自立した高齢者において、口腔機能の低下は年齢や性別にかかわらず、体重の減少だけでなく増加も含む体重の変化と関連のあることが明らかになった」と総括している。解析に用いた情報の多くが自記式アンケートに基づくものであることや、残余交絡の存在の可能性などが研究の限界点ではあるが、大規模なサンプル数に基づく結果であり選択バイアスも比較的低いことを研究の強みとして挙げている。

なお、示された口腔機能と体重変化の関連のメカニズムについて、既報研究を参照し以下のような考察がまとめられている。

まず、口腔機能低下と体重減少の関連のメカニズムについては、比較的想定しやすい。すなわち、歯の喪失、咀嚼機能の低下、口腔乾燥などは食事摂取量の低下につながりやすく、とくにタンパク質食品の摂取不足は筋力低下を介して咀嚼機能をより低下させる可能性がある。一方、口腔機能低下と体重増加の関連のメカニズムについては、咀嚼しやすい柔らかい食品を好むような変化に伴い、脂質や炭水化物が主体の加工食品の摂取量が増加しやすくなるためではないかとのことだ。

ただし、口腔機能低下が体重減少、もしくはその正反対の体重増加のどちらに向かうのかを決定づける因子は不明であることから、その根底にあるメカニズムの解明の必要性を指摘している。

文献情報

原題のタイトルは、「Oral Hypofunction and Risk of Weight Change among Independent Older Adults」。〔Nutrients. 2023 Oct 15;15(20):4370〕
原文はこちら(MDPI)

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