仕事や通勤での運動量が多い人、座りっぱなしの人は喫煙率が高い傾向
身体活動の有無および身体活動の種類によって、喫煙習慣との関連性が異なることが、米国の国民健康栄養調査のデータを解析した結果、明らかになった。職場や通勤での身体活動や座位行動は喫煙習慣と正の関連がある一方、余暇時間の身体活動は負の関連があるという。
身体活動は喫煙を抑制するが、職業上の身体活動はどうか?
タバコが体に有害であることはいうまでもないながら、世界人口の21%は現在もなお習慣的に喫煙しているという。その一方、身体活動は総じて有益であり、身体的健康だけでなく、不安やうつの抑制、ストレス軽減にもつながる。不安やうつ、ストレスは身体的健康にも悪影響を及ぼすことから、身体活動はそれらの抑制を介した経路でも身体的健康に良い影響を与える。
また、身体活動が喫煙欲求を抑制するように働くことも知られている。喫煙者は非喫煙者よりも身体活動量が少ない傾向のあることが報告されており、喫煙者に身体活動を推奨することは身体的・精神的健康の改善に対して、直接的な影響と、喫煙習慣の是正を介した影響という二つの経路で好影響を与えると考えられる。
とは言え、身体活動が一律に健康に良いとは言い切れず、職業上の過剰な身体活動は、健康に対してマイナスに働くことを示唆する疫学データもある。ただし、その関連には、職業上の身体活動が喫煙率の高さと相関する傾向のあることの影響も考えられる。
これらを背景として、この論文の著者らは、身体活動の有無および種類と喫煙率との関連を検討した。
余暇時間の身体活動は、共変量を調整後にも喫煙率と有意な負の関連
この研究は、米国の国民健康栄養調査(National Nutrition Examination Survey;NHANES)の2017-18年調査のデータを用いて行われた(NHANESは2年周期で実施)。NHANESの調査対象は米国の人口の年齢と性別の分布にあわせて設定されている。NHANESの回答者のうち20歳以上であり、身体活動と喫煙に関する質問に回答していた2,015人が解析対象となった。
身体活動は、質問票(Global Physical Activity Questionnaire;GPAQ)の回答に基づき、職業上の身体活動、通勤での身体活動、余暇時間の身体活動、および座位行動という4種類に分けて評価した。喫煙習慣については、質問票(Smoking-Cigarette Use Questionnaire;SMQ)の回答に基づき、吸い始めた年齢や過去30日間の喫煙本数などを評価した。このほかに共変量として、年齢、性別、人種、教育歴、婚姻状況、収入などを把握した。
解析対象2,015人のうち41.9%に喫煙歴があり、職業上の身体活動(中強度以上。以下同)ありが48.1%、通勤時の身体活動ありが23.1%、余暇時間の身体活動ありが47.7%であって、15.1%は座位行動が1日10時間以上だった。
職業上の身体活動量が多いと喫煙率が高い傾向
まず、職業に伴い中等度以上の身体活動を行うことと喫煙歴との関連をみると、共変量未調整(粗モデル)ではOR1.396(95%CI;1.245~1.566)であり、有意な正の関連が認められた。共変量のうち、性別、人種、婚姻状況、収入を調整したモデル(モデル2)でもOR1.143(1.009~1.296)と引き続き有意だった。しかし、調整因子に通勤や余暇時間の身体活動および座位行動を加えた場合はOR1.135(0.999~1.289)と、関連はわずかに非有意となった。
通勤での身体活動量が多いと喫煙率が高い
次に、通勤で中等度以上の身体活動を行うことと喫煙歴との関連をみると、粗モデルではOR1.550(1.355~1.773)であり、有意な正の関連が認められた。モデル2でもOR1.214(1.048~1.405)と引き続き有意であり、さらに調整因子に職業上および余暇時間の身体活動、座位行動を加えたモデルでもOR1.278(1.101~1.484)と、有意性が維持されていた。
余暇時間の身体活動量が多いと喫煙率が低い
続いて、余暇時間に中等度以上の身体活動を行うことと喫煙歴との関連をみると、粗モデルではOR0.828(0.737~0.931)であり、有意な正の関連が認められた。モデル2でもOR0.729(0.639~0.832)と引き続き有意であり、さらに調整因子に職業上および通勤での身体活動、座位行動を加えたモデルでもOR0.695(0.608~0.795)と、有意性が維持されていた。
座位行動が長いと喫煙率が高い
最後に、座位行動が1日10時間以上であることと喫煙歴との関連をみると、粗モデルではOR1.479(1.265~1.729)であり、有意な正の関連が認められた。モデル2でもOR1.363(1.154~1.611)と引き続き有意であり、さらに調整因子に従前の3種類の身体活動を加えたモデルでもOR1.319(1.113~1.564)と、有意性が維持されていた。
禁煙指導のための身体活動を推奨する際には、身体活動のパターンにも留意を
これらの結果に基づき論文の結論は以下のようにまとめられている。
「すべての共変量の調整後に、通勤時の身体活動や座位行動は、喫煙行動の危険因子であり、反対に余暇時間の身体活動は喫煙行動に対する保護因子として特定された。また職業上の身体活動は喫煙行動の潜在的な危険因子の可能性が示された。身体活動と喫煙行動の間には強い関連があるが、身体活動の種類によってその関連性が異なる。したがって、禁煙指導に身体活動を推奨する場合はそれらを混同してはならず、身体活動の種類や環境に注意を払う必要がある。介入効果の拡大には、余暇での身体活動を増やすとともに座位行動を減らし、喫煙禁止とする環境を可能な限り拡大する必要がある」。
なお、職業上の身体活動と余暇時間の身体活動が喫煙に対して正反対の関連があることのメカニズムとして、余暇時間の身体活動にはその目的として健康増進が含まれていることが多いのに対して、職業上の身体活動は健康上の動機付けに基づく行動ではないという違いが関与していることなどが、論文の考察として述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「The association between different types of physical activity and smoking behavior」。〔BMC Psychiatry. 2023 Dec 11;23(1):927〕
原文はこちら(Springer Nature)