ビーガンのビタミンB12不足はサプリメントでも補えない可能性 18~44歳の女性1,530人を調査
ビーガンの人はビタミンB12が不足しやすいため、サプリメントを摂取して補っている人が少なくないが、そうであっても十分に補充されていない可能性を示唆する論文が、オーストラリアから報告されている。サプリメント単独で摂取した場合の吸収率の低下を考慮すると、不足の程度はより高まるという。
ビーガン食ではビタミンB12不足を避けがたい
ビタミンB12は「抗貧血ビタミン」や「神経のビタミン」などと呼ばれる。動物はビタミンB12を栄養素として利用しているため、動物性食品にはビタミンB12が含まれているが、植物はB12を利用しないため植物性食品にはこれが含まれていない。よって肉類の摂取量が少ない人はB12不足になりやすく、貧血などを来しやすい。とくに完全菜食主義であるビーガンの食事を遵守している人はそのリスクが極めて高いため、サプリメントを利用して不足分を補っているケースが少なくない。
ビタミンB12の推定必要量や推奨量は国や機関によって異なり、日本では健康な成人の推定平均必要量(対象の半数が必要量を満たすと考えられる量)が2.0μg/日、推奨量(対象の大半〈97~98%〉が満たす量)は2.4μg/日とされている。ビタミンB12の過剰摂取のリスクに関する報告はないことから、耐容上限量は定められていない。なお、本論文によるとこの研究が行われたオーストラリアでの推奨量も日本と同じく2.4μg/日とのことだ。
食品中のビタミンB12の吸収率については、米国、オーストラリア、そして日本は50%としており、欧州食品安全機関(European Food Safety Authority;EFSA)は40%としている。ビタミンB12強化食品を摂取した場合の吸収率は、一般食品からの吸収率よりも高いことが知られている。その一方、サプリメントとして単独で摂取した場合、胃で産生されるビタミンB12の吸収過程に必要な内因子が分泌されないため、能動的な吸収が低下することも知られている。反対に、空腹時の摂取では食品に存在する物質の干渉を受けないために、受動的な吸収が高まることが報告されている。
このように、ビタミンB12をサプリメントから摂取する場合、サプリメントに含まれている量がどの程度吸収されるかが条件によって異なり、ビーガンの人の食習慣では総じて食品からの吸収率よりも低い値になると考えられる。ところが、ビーガンの人のビタミンB12充足度を検討したこれまでの研究は、食品とサプリメントの吸収率の違いを考慮せずに検討しているという、方法論的な瑕疵を本論文の著者らは指摘。
そこで著者らは、ビーガンの人のサプリメント利用状況を把握したうえで、B12の吸収率に関する既報研究のデータを参照して生体吸収量を算出し、それが不足を補うのに十分な量に到達しているのか否かを検討した。
18~44歳の女性1,530人をFacebook経由で募集しネット調査
この調査の対象は、オーストラリアに拠点を置きビーガン食実践者向けの活動をしているグループのFacebookを利用して募集された。回答参加の適格条件は、年齢が18~44歳でオーストラリアに居住していて、過去6カ月以上にわたってビーガン食を実践しており、今後もビーガン食を続ける意思をもっている人。食習慣や健康関連行動、ビタミンB12摂取量などに関する150項目の質問にオンライン上で回答してもらった。回答の所要時間は約20分であり、回答のインセンティブとして250ドル相当の商品券が支給された。
食品からのビタミンB12の摂取量については、B12摂取量推定のために開発され、精度検証済みの食物摂取頻度調査票(food frequency questionnaire;FFQ)を用いて把握した。また、サプリメントからの摂取については、各サプリメントに表示されている含有量、摂取量、摂取頻度から把握した。そのほかに注射剤によるビタミンB12の補充についても質問した。
経口摂取したビタミンB12サプリメントの吸収率に関しては、さまざまな文献を参照して決定した。例えば、シアノコバラミンとして0.5μgを単回接種した場合の吸収率は71.0~90.5%、2.50μgでは50.4%、10μgは16.0%、20μgは6.0%、50μgは3.0%、500μgは2.0%、または空腹時に1.6%、食事と同時で1.0%、1mg(1,000μg)では1.2%といったデータがみつかった。なお、筋肉注射については吸収率を80%とした。
ビーガンの27%はビタミンB12サプリメントを利用していない
2,520人がアンケートへの回答を開始し、終了したのは1,530人(61%)だった。回答を終了した群としなかった群とで、特徴に有意な違いは認められなかった。回答を終了した1,530人のうち1,131人は過去3カ月以内にビタミンB12を含むサプリメントを利用していたが、27%は摂取していなかった。
食品以外からのビタミンB12の摂取方法として、70%(1,530人に対する割合)がサプリメントを利用し、4%が注射による投与を受けていた。サプリメントの種類としては、ビタミンB12のみのサプリメント利用が57%、マルチビタミンが10%、ビタミンB12とそれ以外の成分のサプリメントの組み合わせが7%だった。
サプリメントからのビタミンB12摂取量は、B12単独サプリメントの場合は1μg~10mg(10,000μg)の範囲であり、84%が100μg以上だった。マルチビタミンとして摂取している場合のB12摂取量は1μg~7.5mg(7,500μg)の範囲であり、46%が100μg以上だった。
吸収率を考慮すると、サプリメントを利用していてもビーガンの4人中1人はB12不足
解析の結果、サプリメントの吸収率を勘案しない場合は、この集団における推奨量を満たしている割合は73.9%であり、ビーガンの人の26.1%がビタミンB12不足に該当することがわかった。一方、サプリメントのタイプや摂取量などを考慮した吸収率を勘案した場合は、この集団における推奨量を満たしている割合は61.4%に低下し、38.6%がビタミンB12不足に該当すると計算された。
また、この集団のうち、ビタミンB12をサプリメントからも摂取している人に限って解析すると、吸収率を勘案しない場合に推奨量を下回る割合は4.5%と少数だが、吸収率を勘案した場合はその値が23.7%に上り、ビーガンの人ではサプリメントを利用していても4人に1人近くがビタミンB12不足である可能性が浮かび上がった。
著者は本研究が、「ビタミンB12の推定吸収量に基づいてB12摂取量の適切性を検討した初の研究」だとしている。結論として、「ビーガンの女性ではたとえサプリメントを摂っていたとしても、吸収率を勘案すると、依然として推奨量を充足していないことが少なくないことが明らかになった」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Vitamin B12 Supplementation Adequacy in Australian Vegan Study Participants」。〔Nutrients. 2022 Nov 11;14(22):4781〕
原文はこちら(MDPI)