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筋トレで口の中の健康も向上する? 韓国の国民健康栄養調査の横断的解析

2023年12月14日

筋力トレーニングを行っている人は、口の中の健康状態も良好であり、さらに交絡因子調整後の生活の質(quality of life;QOL)も高いというデータが、韓国国民健康栄養調査の横断的解析の結果として報告された。著者らは、簡単に筋力トレーニングにアクセスできる環境づくりの必要性を提言している。

筋トレで口の中の健康も向上する? 韓国の国民健康栄養調査の横断的解析

韓国国民健康栄養調査の大規模データを用いて検討

筋力トレーニングは筋タンパク質の合成を強力に刺激し、筋肉量と筋力を増加させて基礎代謝量を高め、また体脂肪増加を抑制して種々の代謝性疾患および関節疾患のリスクを押し下げる。筋力トレーニングを継続的に行っていない場合、筋肉量や筋力が低下し、とくに60歳以降では10年で3割低下すると報告されている。口腔筋力も同様と考えられ、近年はオーラルフレイルとして啓発がなされるようになった。口腔筋力が低下した場合、柔らかい食べ物が選択的に摂取され、それによって口腔筋力がより低下するという悪循環が生じる。

一方、全身の筋肉量が多く筋力が高いことが、口腔筋力の高さと関係している可能性があるが、大規模研究からのエビデンスは少ない。今回紹介する論文の研究はこのトピックについて、韓国の国民健康栄養調査(Korean National Health and Nutrition Examination Survey;KNHANES)の大規模データを用いて検討したもの。

筋トレを行っている群(MSG)/行っていない群(NMSG)の特徴の比較

2019年と2021年の韓国国民健康栄養調査(KNHANES)では、「先週に、腕立て伏せ、腹筋運動、ダンベルやウェイト・バーベルなどを用いたトレーニングを何日行ったか?」との質問項目があり、「まったくない」、「1~5日以上」のいずれかで回答を得ていた。その回答が「まったくない」の場合を筋トレを行っていない群(non-muscular strength training group;NMSG)、「1~5日以上」の場合を筋トレを行っている群(muscular strength training group;MSG)とすると、19~65歳のうち前者が5,841人(72.0%)、後者が2,267人(28.0%)だった。

筋トレを行っている群には若年男性が多い

この両群を比較すると、年齢層や性別の分布、婚姻状況、所得水準、教育歴、就労状況、飲酒・喫煙習慣に有意差が認められた。例えば筋トレを行っている群(MSG)は行っていない群(NMSG)よりも、若年者、男性、独身者、喫煙者が多いといった差が認められた。

医師の診断に基づく慢性疾患の該当者率は、高血圧(10.9 vs 14.3%)および脂質異常症(11.0 vs 14.8%)についてはMSGのほうが有意に低かったが(ともにp<0.001)、糖尿病、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、うつ病については有意差がなかった。

口腔ケアの実施状況の比較

次に、口腔ケアの実施状況を比較すると、以下の項目で有意差が認められた。

前日にフロスを使った割合(35.2 vs 31.9%、p=0.011)、過去1年間に歯科医を受診した割合(61.8 vs 58.1%、p=0.007)はMSGのほうが高かった。反対に、過去1年間に歯科医で治療を受けた割合(15.7 vs 18.9%、p=0.010)、過去1年間に根幹治療を受けた割合(17.4 vs 21.4%、p=0.009)はNMSGのほうが高かった。前日に歯を磨いた割合、うがいをした割合、電動歯ブラシを用いた割合などには有意差がなかった。

交絡因子調整後も筋トレとQOLに有意な関連

口の中の健康状態の評価には、咀嚼の際の不快感、咀嚼の支障、会話の支障、および口腔の健康状態に対する自己認識について質問し、回答されたスコアが高い場合に口の中の健康状態が不良と判定した。

また健康関連の生活の質(health related quality of life;HRQOL)は、韓国疾病管理庁(Korea Disease Control and Prevention Agency;KDCA)が開発した評価指標「Health-related Quality of Life Instrument with 8 Items(HINT-8)」で評価した。その評価指標では、階段の昇降、疼痛、抑うつ、睡眠、幸福感などの8項目について、各4点のスコアで回答を得て、スコアが高いほど健康関連の生活の質(HRQOL)が低いと判定する。

筋トレを行っているほど口腔の状態が良好

解析の結果、筋トレを行っていることは、以下に示すように、口腔状態を評価した4項目の指標のすべてと、有意に関連していた。

咀嚼の際の不快感はβ=-0.047、咀嚼の支障がないことはβ=0.105、口腔の健康状態に対する自己認識(上述のように高スコアほど不良を意味する)β=-0.123(以上の3項目はすべてp<0.001)、会話に支障がないことはβ=0.028(p=0.013)。

口腔の健康状態を調整後にも、筋トレを行っているほどHRQOLが高い

続いて、健康関連の生活の質(HRQOL)との関連を、交絡因子(人口統計学的因子、および上記の口腔の健康状態)を調整したうえで解析。その結果、抑うつと睡眠に関しては筋トレを行っていることとの有意な関連が認められなかったが、他の6項目(階段昇降、疼痛、活力〈energy〉、労働〈to work〉、記憶力、幸福感)はいずれも、筋力トレーニングを行っていることと有意な関連が認められた。

簡単に筋トレできる環境づくりを

著者らは本研究の限界点として、横断的解析であるため因果関係の推定は制限されること、筋力トレーニングの量を把握していないことなどを挙げている。そのうえで、「これまでこのトピックに関する研究は、高齢者や疾患有病者を対象とするものに限られていたが、一般成人を対象とする研究からエビデンスが得られた。一般人口のQOLを高めるためにも、筋力トレーニングが有用であることが示された意義は大きい」と述べている。

また、「アクセスが容易な筋力トレーニングプログラムの必要性を認識し、成人のQOL向上に役立つ政策を策定することが求められる」と提言している。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Muscular Strength Training on Oral Health and Quality of Life: Using Korean Panel Survey Data, a Cross-Sectional Study」。〔Healthcare (Basel). 2023 Aug 10;11(16):2250〕
原文はこちら(MDPI)

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