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小児期の食糧不安は成人後の肥満や不健康な食習慣と関連する カナダで4歳〜22歳を縦断調査

子どものころに食糧不安のある環境で育つと、成人後の食習慣が非健康的なものになったり、肥満のリスクが上昇したりすることが、縦断研究の結果として明らかになった。従来、この関連は横断研究からの知見に限られていたが、縦断研究で確認されたことで、両者の間に因果関係の存在する可能性が高くなった。

小児期の食糧不安は成人後の肥満や不健康な食習慣と関連する カナダで4歳〜22歳を縦断調査

先進諸国でも食糧不安が少なくない

国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations;FAO)は、「すべての人々が、常に活動的で健康的な生活のための食事のニーズや食の好みを満たす、十分かつ安全で栄養価の高い食糧に物理的、社会的、経済的にアクセスできる状況」を「食糧安全保障」の要件と定義し、これに該当しない状況は食糧不安のある状況と解される。食糧不安に該当する状況は発展途上国で多いと考えられやすいが、先進諸国でも決してまれでないことが報告されている。例えば、米国では10.2%、今回紹介する論文の研究が行われたカナダでは9~15%が該当し、18歳未満では19.6%に達するという報告がある。近年の日本も社会経済的格差の拡大に伴い、十分な食事を摂取できていない子どもが増加し、各地で「子ども食堂」などの取り組みがなされるようになった。

小児期に食糧不安のある環境で育つことが、将来の疾患リスクにつながることは、既に多くのデータとして示されている。例えば、そのような環境で育った成人は栄養価が低くエネルギー密度の高い食品の摂取量が多い、野菜摂取量が少ない、朝食を食べない、肥満者が多いといったことが報告されている。ただし、これらの研究の大半は横断研究であり、両者の関連性は認められたとしても、それが因果関係に基づくものと判断することは制限される。これに対して今回紹介する論文の研究は、カナダで行われている縦断研究からのエビデンスとして注目される。

4歳時点から22歳の追跡調査時のデータを用いた解析

この研究は、カナダの「ケベック州児童発達縦断研究(Québec Longitudinal Study of Child Development;QLSCD)のデータを用いて行われた。QLSCDは、子どもの養育環境が認知的および心理社会的発達と幸福に及ぼす影響を調査する目的でスタートした出生コホート研究。1997年10月~1998年7月にケベック州で生まれた子どもから、無作為に抽出された2,120人を登録。研究参加者は、生後5カ月時点で初回調査が行われ、8歳までは毎年、その後は2年ごとに追跡調査が行われている。20年後の2019年時点において、1,245人(58.7%)が引き続き研究に協力している。

家庭の食糧不安の有無については、4、5、8、10、12、13歳の時点で調査されていた。調査項目は、各時点から過去1年間の食事について、保護者に対し「食費がないために空腹を経験したことがある」、「食費の都合により、同じものを数日続けて食べることがある」、「食べる量を減らして食費を抑えている」、「経済的な理由で子どもたちにバランスのとれた食事を提供することができない」という4項目の質問を行い、これらのいずれかに対して肯定する回答が含まれていた場合に、食糧不安「高リスク」状態と判定した。

成人後の食習慣などは、2020年3~6月時点(平均年齢22.20±0.25歳)に、食事や間食のタイミング、摂取量、および体重などに関するオンライン調査を行い把握した。また、同年の7~8月という新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの初期にあたる時期に、食糧不安に関するアンケートも行った。

交絡因子調整後にも、小児期の食糧不安が成人後の食生活などに有意な影響

小児期において、食糧不安の有無を判定し得る調査に1回以上回答し、かつ22歳時点の調査にも回答していた698人(33%)を解析対象とした。この対象は、解析に含まれなかった群(1,422人)に比較し女性が多く、世帯収入が高く、移民の割合が低いといった有意差があった。ただし、小児期に食糧不安の高リスク状態にあった割合は、解析対象群では9.9%、対象に含まれなかった群は11.5%であり、有意差はなかった(p=0.313)。

小児期の食糧不安のあった約1割の成人は、肥満有病率が高いなどの特徴

22歳時点の調査結果を、小児期の食糧不安の高リスク群(9.9%)と低リスク群(90.1%)とで比較すると、性別の分布には有意差がなかった。有意な違いが認められた項目は以下の通り。

高リスク群は独居者が多く(20.3 vs 6.4%、p<0.001)、教育歴が短く(中等教育以下が40.6 vs 16.6%、p<0.001)、BMIが高く(27.7±6.5 vs 25.6±5.9、p=0.004)、肥満者(BMI30以上)の割合が高かった(31.9 vs 15.5%、p=0.001)。また、高リスク群はCOVID-19パンデミック下での食糧不安が高く、例えば食事をスキップした経験を有する割合が高かった(35.0 vs 12.2%、p<0.001)。

日常の食習慣に関しては、朝食欠食(30.4 vs 18.9%、p=0.035)、夜間の間食(68.1 vs 54.75 %、p<0.045)、外食頻度が週1回以上(91.3 vs 73.9%、p=0.002)、ファストフードの摂取頻度が週1回以上(63.8 vs 50.4%、p=0.047)の有意差がみられた。また、1日あたりの食品の摂取頻度についても、以下のような有意差があった。加糖飲料は中央値0.86 vs 0.46(p<0.001)、加工肉は0.46 vs 0.28(p=0.002)、全粒穀物は0.43 vs 0.71(p=0.030)、豆類0.29 vs 0.56(p=0.029)。なお、アルコール飲料の1日の摂取頻度は0.00 vs 0.14であり、高リスク群のほうが有意に低値だった(p=0.001)。

交絡因子調整後にも、小児期の食糧不安の食生活との関連が示される

次に、性別、母親の教育歴、世帯収入、世帯人員、移民か否かを調節した多変量回帰分析を施行。その結果、小児期の食糧不安の高リスク群は、成人後の加糖飲料摂取量の多さと独立した関連が認められた(β=0.64〈95%CI;0.27~1.00〉)。同様に、非全粒穀物の摂取量(β=0.32〈0.07~0.56〉)、加工肉(β=0.14〈0.02~0.25〉)、朝食欠食(OR1.97〈1.08~3.53〉)、外食頻度が週1回以上(OR3.38〈1.52~9.02〉)との独立した関連も認められた。

さらに、成人後にも継続的な食糧不安の状態であることとも有意な関連があった(OR3.03〈1.91~4.76〉)。

交絡因子調整後、小児期の食糧不安は成人後の肥満と有意に関連

続いて、小児期の食糧不安の高リスク状態と成人後のBMIや肥満との関連を、上記と同様の交絡因子調整後に検討。すると、BMIに関しては、β=1.30(95%CI;-0.23~2.90)であり、関連性は統計的有意水準未満だった。

一方、肥満(BMI30以上)との関連については、OR2.01(1.12~3.64)であり、小児期の食糧不安の高リスク群では成人後の肥満有病率が2倍に上る可能性が示された。ただしこれを性別に解析すると、女性ではOR2.93(1.40~5.98)と、約3倍のリスク上昇の可能性が示された一方で、男性はOR0.96(0.28~2.78)であり非有意だった。男性の場合は小児期の食糧不安以外の要因によっても肥満リスクが上昇することが多いことを示唆するものと考えられる。

著者らは、「我々の研究結果は、幼い子どものいる家庭の貧困と食糧不安に取り組む、公衆衛生政策の重要性を浮き彫りにしている」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Experiencing food insecurity in childhood: influences on eating habits and body weight in young adulthood」。〔Public Health Nutr. 2023 Nov;26(11):2396-2406〕
原文はこちら(Cambridge University Press)

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