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開腹手術後の筋肉低下は食事が原因? 摂取エネルギー量やタンパク質が全然足りていない 英国の調査報告

開腹手術に伴い生じることの多い筋肉量の低下を、術後の摂取エネルギー量とタンパク質摂取量との関連から検討した研究結果が、欧州栄養科学アカデミーの「European Journal of Clinical Nutrition」に掲載された。術後回復力強化(ERAS)プロトコルで推奨されている摂取量に対して、8分の1~4分の1程度しか摂取されていない実態が述べられている。英国からの報告。

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術後の筋肉量低下は転帰不良となりやすい

大規模な消化管手術後には、骨格筋の量と機能が大きく低下することが少なくない。これは、手術による生理的ダメージの関与、身体活動量の低下のほかに、不十分な栄養素摂取が関連していると考えられている。筋肉量の低下は一般的に術後第1週に発生し、回復遅延、QOL低下につながる。さらに、高齢者の場合はそれを契機としてサルコペニアやフレイルを発症し予後不良となりやすい。

筋肉量は、筋タンパク質の合成(muscle protein synthesis;MPS)と分解(muscle protein breakdown;MPB)のバランスによって増減し、筋肉量の維持のためにはそのバランスがマイナスとなる時間帯が少なく、プラスの時間帯が多いことがポイントとなる。また、筋肉に対する適度な負荷はMPSを刺激する。術後などの臥床時には筋肉への負荷がないため、MPSの刺激が生じにくい。

これに対して、術後回復力強化(enhanced recovery after surgery;ERAS)プロトコルに即した早期離床、早期経口摂取が推奨されている。ただ、栄養に関しては実臨床において、介入のばらつきが大きい。そこで本論文の著者らは、腹部手術を受けた患者の術直後の摂取エネルギー量と摂取タンパク量を調査し、欧州臨床栄養代謝学会(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism;ESPEN)のガイドラインとの乖離を検討した。

術後5日で筋断面積が9%以上減少

検討の対象は、大規模な腹部手術を受けた患者15人。年齢66±6歳、男性12人(80%)、BMI28±4で、大半(13人)は直腸癌切除術が施行された患者だった。超音波により測定した外側広筋断面積は、術後5日間で9.16±2.0%減少していた。

術後4日目までの摂取エネルギー量は536kcal/日で、推奨の4分の1

摂取エネルギー量は、術後4日目までの平均で536.6±527.8kcal/日だった。第1病日から順にみると、490.0±470.7、505.0±251.8、541.0±488.1、610.5±900.5kcalと、わずかずつ増加していた。ただし、有意差が認められるほどの変化ではなかった。

なお、ESPENガイドラインでは、外科手術後の摂取エネルギー量を25~30kcal/kg/日としている。この患者集団の平均体重は84.7kgであり、ESPEN推奨の下限値である25kcal/kg/日を基に計算した推奨摂取エネルギー量に対して、術後4日目までの平均値はわずか25.3±24.9%に相当した。また、イレウス患者では12.8±2.6%に過ぎなかった。

術後4日目までのタンパク質摂取量は15.6g/日で、推奨の8分の1

タンパク質摂取量は、術後4日目までの平均で15.6±16.4g/日だった。第1病日から順にみると、13.9±14.1、14.9±10.2、15.0±15.6、18.5±25.6gと、わずかずつ増加していた。ただし、有意差が認められるほどの変化ではなかった。

ESPENガイドラインでは、外科手術後のタンパク質摂取量を1.5g/kg/日としている。平均体重84.7kgのこの集団では、術後4日目までの平均値は推奨のわずか12.3±12.9%に相当した。また、イレウス患者では5.7±0.9%に過ぎなかった。

摂取エネルギー量が少ないのに、タンパク質エネルギー比は上昇していない

全体として、術後第4病日に推奨されるエネルギー量を摂取した患者は、1人だけであり、タンパク質についても第4病日に1人のみが推奨量を満たしていた。また、第1~3病日に、推奨タンパク質摂取量の50%以上を摂取した患者はいなかった。

摂取エネルギー量自体が推奨の4分の1程度と少ないにもかかわらず、第1~4病日にかけて、タンパク質エネルギー比は以下のように有意な変化がなく、低値で推移していた。第1病日から順に、11.65±2.0、12.26±4.9、11.12±4.9、11.9±3.9%。

また、患者は柔らかい食感の食品(スープ、ゼリー、アイスクリームなど)を好み、それらの食品が占める割合は、73、84、55、48%と推移していた。第4病日までの食事のうち、66%が柔らかい食感の食品で占められていた。

口当たりの良い高タンパク食品が求められる

著者らは、「筋肉量維持のための適切なタンパク質摂取の重要性は十分に確立されているが、術後の患者は自由選択が与えられると低タンパク質で柔らかい食感の食品を選択するようだ。この実態は、腹部手術を受ける患者の多くが高齢であり、加齢に伴う体タンパク同化抵抗が既に生じている可能性が高い状態を、より加速するものと考えられる。高カロリー高タンパク質の液体サプリメントは有用だが、そのような形態を好まない患者も存在する。より自然な形態の食品、例えばアイスクリームやゼリー、スープ、ヨーグルトなどで、口当たりの良い高タンパク食品の提供および開発が望まれる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Loss of muscle mass in the immediate post-operative period is associated with inadequate dietary protein and energy intake」。〔Eur J Clin Nutr. 2023 Apr;77(4):503-505〕
原文はこちら(Springer Nature)

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