グルタミンジペプチド添加ホエイプロテインが、骨格筋ダメージを抑制しパフォーマンスを向上
グルタミンとアラニンという2種類のアミノ酸をペプチド結合させたグルタミンジペフチドを豊富に含むホエイプロテインが、トライアスリートの筋損傷を抑制し、パフォーマンスを向上させるとする研究論文を紹介する。
グルタミンは条件付き必須アミノ酸
グルタミンは骨格筋のアミノ酸プールの約6割を占める「非必須アミノ酸」の一つ。ただし、重篤な疾患やオーバートレーニングでは欠乏する可能性があり、「条件付き必須アミノ酸」として位置付けられることもある。
これまでに、グルタミンが豊富な加水分解プロテインが、サッカー選手などのパフォーマンスを高める可能性が示されてきている。それ以外にも動物実験レベルで骨格筋の損傷を抑制する作用が示され、ヒト対象研究でも持続的に摂取した場合に、その効果を期待できる可能性が報告されている。ただし、単回投与での筋損傷に対する保護的作用はまだ十分に検討されていない。
今回紹介する論文は、グルタミンが豊富な加水分解プロテイン単回摂取による、骨格筋損傷抑制作用、およびパフォーマンスへの影響を、トライアスロン選手を対象に検討した研究の報告。
ブラジルのエリートレベルアスリート対象の無作為化クロスオーバー試験
研究参加者は、ブラジルに居住する白人男性トライアスリート9人で、同国内の年齢カテゴリー別トライアスロン大会で優勝経験のある選手も含まれる、エリートレベルのアスリート。年齢は24.9±4.0歳、体重69.3±4.7kg、身長1.78±0.06m、体脂肪率8.6±1.2%で、VO2maxは63.52±3.85mL/kg/分であり、トレーニング量は18時間/週で、過去5年間、同程度以上のトレーニングを継続していることが適格条件とされていた。
試験デザインは、プラセボ対照の無作為化二重盲検クロスオーバー法。試験サプリ条件では、175mgのグルタミンジペプチドを添加した加水分解ホエイプロテインを4錠(グルタミンの総量は700mg)にマルトデキストリン50gを加え、250mLの水で希釈して摂取。プラセボ条件は700mgのマルトデキストリン4錠を、マルトデキストリン50gに加え(マルトデキストリンの総量は52.8g)、同じく250mLの水で希釈して摂取してもらった。なお、両条件にマルトデキストリン50gを加えた理由は、摂取エネルギー量の不一致を避けるため。
摂取タイミングは、トレッドミルによる心肺運動負荷試験(cardiopulmonary exercise test;CPET)開始30分前とした。運動負荷は、1%の勾配で初期速度を9.4km/時としてスタートし、3分ごとに1.4km/時ずつ増速して、疲労困憊に至るまで続けられた。
なお、両条件の試行には1週間のウォッシュアウト期間を設け、試行前日から一晩絶食とし、研究期間中は食習慣やトレーニング量を変更しないように指示した。また研究開始の数週間前からは、サプリの摂取を禁止した。
試験サプリ条件で%VO2maxが1割高値
では結果をみると、最大酸素摂取量(VO2max)はプラセボ条件と試験サプリ条件で有意差はなかったが(62.0±6.3 vs 62.7±3.7mL/kg/分、p=0.7179)、相対的運動強度(%VO2max)は試験サプリ条件のほうが10%高く有意差が認められた(79.3±4.3 vs 87.2±4.5%、p=0.0003)。また、第2換気値(second ventilatory threshold;VT2〈呼吸動態に基づく換気性作業閾値〉)は試験サプリ条件で8.3%高値だった(14.4±1.0 vs 15.6±1.19km/時)。
乳酸値に関しては、運動負荷終了8分後、15分後の値に有意差があり、試験サプリ条件のほうが高値だった。ただし10分後の値は有意差がなかった。
運動負荷後のLDHやCKに有意差
CPET施行中の心拍数や主観的運動強度(ボルグスケール)は、両条件ともに時間の経過とともに上昇し、条件間の差はみられなかった。
それにもかかわらず、骨格筋のダメージのマーカーとして測定した乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase;LDH)は、運動負荷前が437.9±74.2U/Lであり、運動負荷直後にプラセボ条件では715.8±125.8U/Lと有意に上昇していたのに対して(p=0.0001)、試験サプリ条件では497.9±146.4U/Lであり有意な上昇が観察されない(p=0.3932)という違いが認められた。また、負荷後LDH値は試験サプリ条件のほうが30.4%低値であり、条件間に有意差が認められた(p=0.0012)。
もう一つの骨格筋ダメージのマーカーであるクレアチンキナーゼ(creatine kinase;CK)は、運動負荷前が66.1±34.2U/Lであるのに対して、運動負荷直後にプラセボ条件では123.4±35.1U/L(p=0.0031)、試験サプリ条件では91.0±36.2U/Lであって(p=0.0099)、両条件ともに付加後は有意に上昇していた。ただし、負荷後のCK値同士の比較では試験サプリ条件のほうが有意に低値であり、26.2%の差が認められた(p=0.0180)。
トレッドミル走行時間と走行距離にも有意差
パフォーマンスへの影響は、疲労困憊に至るまでのトレッドミル走行時間と走行距離で評価した。その結果、走行時間は試験サプリ条件のほうが3.3%長く(21.4±2.2 vs 22.1±2.5分、p=0.0396)、走行距離は2.8%長い(5,201.9±744.6 vs 5,601.5±995.7m、p=0.0156)という有意差が観察された。
著者らはこれらの結果を、「トライアスリートにおけるグルタミンの経口摂取の有用性を裏付けるもの」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Hydrolyzed whey protein enriched with glutamine dipeptide attenuates skeletal muscle damage and improves physical exhaustion test performance in triathletes」。〔Front Sports Act Living. 2023 Jan 6:4:1011240〕
原文はこちら(Frontiers Media)