スペインの思春期アスリートの約8割に摂食障害リスク、学業成績を悪化させている可能性も
思春期アスリートの摂食障害のリスクの高さや、摂食障害と関連する因子を検討した結果が、スペインから報告された。この年齢層のアスリートの77.7%に摂食障害のリスクが認められ、そのことが学業成績に影響を及ぼしている可能性も示唆されるという。
未成年アスリートの摂食障害と関連する因子を調査
多くの国で摂食障害は主要な公衆衛生上の問題の一つとなっている。一般的に女性に生じることの多い健康問題として捉えられる傾向があるが、近年では男性でも有病率が上昇していると報告されるようになった。さらに古くから、アスリートでは摂食障害が一般人口よりも好発しやすいことが知られている。
年齢層については、若年層に多いとみなされてきており、InstagramやTikTokなどの映像ソーシャルメディアの普及とともに、未成年のボディイメージへの悪影響、具体的には、より痩せていることを理想と考える傾向に拍車がかかっていることも指摘されている。
このような傾向を背景として今回紹介する論文の研究では、思春期アスリートの摂食障害のリスクの程度を横断調査により把握し、同時に思春期アスリートの摂食障害に関連のある因子の特定を試みた。
SCOFFというツールを用いて摂食障害リスクを評価
この研究はスペインのアンダルシア州アルメリア県にあるスポーツクラブに所属している12~16歳の思春期アスリート395人を対象に行われた。平均年齢は14.07±1.35歳で35.9%が女子であり、行っているスポーツはサッカー47.1%、バスケットボール19.2%、ハンドボール19%、バレーボール6.3%、ラグビー4.1%、水泳1.8%。
摂食障害のリスクは、「Sick Control One Fat Food(SCOFF)」というスクリーニングのためのアンケートで評価した。SCOFFは、摂食障害の兆候に関する五つの項目に対して0~5点のリッカートスコアで回答してもらうというもので、回答の容易さから若年者に適用されることの多いツール。合計25点満点で、10点以上の場合は摂食障害のリスクの存在が示唆され、15点以上の場合はそのリスクが高いと判定される。
アンケートではこのSCOFFのほかに、勉強をするときの疲労感、集中力、睡眠時間、友人や家族との交流、趣味などについて質問した。
BMIカテゴリーについては、回答者が14歳未満の場合、15~21を普通体重、15未満を低体重、21~25を過体重、25以上を肥満とした。14歳以上の場合は、16~24を普通体重、16未満を低体重、24~27を過体重、27以上を肥満とした。
アンケート実施期間は、2022年9~11月であり、本人と保護者の承諾を得たうえで、個別インタビューとして行われた。
77.7%が摂食障害のリスクがあり、22.3%はハイリスク
アンケートの結果、対象の77.7%に何らかのタイプのEDリスクの存在が示唆され、かつ22.3%はハイリスクと判定された。性別にみると、女子ではリスクありが54.2%、ハイリスクが22.5%、男子では同順に50.5%、27.6%であって、顕著な差はなかった。
年齢別にみると、リスクありの割合が12歳から順に15歳までは、35.4%、50.0%、59.0%、70.5%と、高学年になるほど該当者率が上昇していた。ただし16歳は38.8%であり、12~13歳程度の有病率だった。一方、ハイリスク者の割合は、12歳から順に7.7%、19.2%、22.9%、24.4%、56.7%と、高学年になるほど有病率が上昇し、16歳の該当者率が最も高かった。
BMIが15~16未満でも「自分は太っている」と思う思春期アスリートが存在
全体のBMIは平均21.3±2.1であり普通体重が84.3%で、11.0%が低体重、4.1%が過体重、0.3%が肥満に該当した。それに対して、「自分は太っていると思う」という問いで把握したボディイメージは以下のとおりであり、太り過ぎを懸念している思春期アスリートが少なくないことが明らかになった。「常にそう思う(always)」が3.3%、「しばしばそう思う(almost always)」17.0%、「そう思うことがある(sometimes)」30.4%、「そう思うことはあまりない(almost never)」36.2%、「そう思うことは全くない(never)」12.9%。
この回答を実際のBMIカテゴリー別にみた場合、低体重に該当する思春期アスリート(43人)であっても、「常にそう思う」が1人、「しばしばそう思う」が10人、「そう思うことがある」が16人含まれていた。
摂食障害は学業とスポーツに悪影響を及ぼす可能性がある
次に、SCOFFのスコアと、アンケートのほかの項目の回答との関連を検討した。その結果、SCOFFスコアが高い(摂食障害リスクが高いと考えられる)ほど、睡眠時間が短いことや(r=-0.251)、勉強をする際に疲れを感じやすく(r=-0.193)、集中が困難であるという(r=-0.122)、有意な相関が認められた。さらに、トレーニングセッション中にも疲労感を感じやすいという有意な関連が存在した(r=-0.376)。
この結果を基に著者らは、「摂食障害は疲労の増大に寄与する可能性がある。とくに若年アスリートではエネルギー基質の枯渇が生じやすく、疲労感を感じやすいのではないか」と述べている。また論文の結論では、思春期アスリートの摂食障害のリスクは高く、年齢とともにそのリスクが上昇するとして、誤ったボディイメージの払拭に取り組む必要のあることなどが提言されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Social and Individual Factors Associated with Eating Disorders in Young Athletes: Effects on Concentration and Fatigue」。〔Sports (Basel). 2023 Jun 21;11(7):122〕
原文はこちら(MDPI)