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EPA+中鎖脂肪酸の構造脂質(STG)摂取は、単純な同時摂取よりも持久力を向上する可能性

EPAや中鎖脂肪酸を構造脂質のかたちで摂取すると、それらの単なる組み合わせとして摂取するよりも、持久力向上のメリットがより大きくなる可能性のあることを示唆するデータが報告された。法政大学大学院スポーツ健康学研究科の越智英輔氏らの研究であり、「Nutrients」に論文が掲載された。

エイコサペンタエン酸(EPA)+中鎖脂肪酸(MCT)の構造脂質と混合物の違い

エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;EPA)は、血管や認知機能に対して保護的に働くという健康上のメリットをもつことが知られていて、また運動中の心拍数低下や血液循環改善を介した酸素供給能改善により、持久力パフォーマンスを向上させたり、運動後の筋損傷を抑制したりする可能性が指摘されている。一方、中鎖脂肪酸(medium-chain triglycerides;MCT)も、長鎖脂肪酸(long-chain triglycerides;LCTs)に比べて容易に加水分解されるためエネルギーとして利用されやすく、また摂取による体重や体脂肪の増加が少なく、スポーツパフォーマンスの向上にもつながる可能性が報告されている。

他方、脂肪酸がグリセロールの特定な場所に結びついた「構造脂質」は、その構造によって消化・吸収されやすくなり、生理機能も向上することが知られている。ただし、構造脂質のスポーツパフォーマンス上のメリットは明らかでない。越智氏らの今回の研究は、エイコサペンタエン酸(EPA)と中鎖脂肪酸(MCT)を、単に組み合わせた物理的混合物(physical mixture;PM)として摂取するよりも、それらの構造脂質である「構造化トリグリセライド(structured triglycerides;STG)」として摂取したほうが、持久力がより向上するのではないかとの仮説のもとで行われた。

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研究対象とデザイン

研究対象は、日常的にトレーニングを行っていない若年男性19人。肥満者や魚油に対するアレルギーのある人を除外した。

試験デザインは二重盲検比較試験。全体を二分し、一方を構造化トリグリセライド(STG)群(9人)、他方をEPAとMCTの物理的混合物(PM)群(10人)とした。両群に、年齢、身長、体重の有意差はなかった。

介入に用いたSTGとPMは、いずれもソフトカプセルとして水とともに摂取するように指示。1日あたりの用量は4,380g(うちEPA600mg、DHA260mg)だった。介入期間は8週+2日間で、研究期間中のサプリメントや医薬品の服用、飲酒、激しい運動、マッサージなどは禁止した。

介入前と介入終了時に、自転車エルゴメーターによる漸増負荷テストを施行し、最高酸素摂取量(peak oxygen uptake: VO2peak)や無酸素性代謝閾値(anaerobic threshold;AT)を測定。60Wで開始して、疲労困憊に至るまで2分ごとに30Wずつ負荷を上げていき、50rpm未満が3回記録された時点で終了した。このテストから48時間以上おいて、50%VO2peakで40分に続き80%VO2peakに負荷を上げ、疲労困憊に至るまでの時間(time to exhaustion;TTE)を測定するという、持久力テストを行った。

また、食品群別摂取量アンケート(Frequency Questionnaire Based on Food Groups;FFQg)を用いて食事・栄養素摂取状況を把握した。

介入前後での複数の持久力パフォーマンス指標の変化量に有意差

既に記したように、介入前の両群の参加者の年齢やBMIに有意差はなく、またFFQgで把握した栄養素摂取量は、介入前・後ともに有意差がなかった。一方、漸増負荷テストで評価したパフォーマンス指標の一部に、介入前・後の変化量の有意差が認められた。詳細は以下のとおり。

最高酸素摂取量(peak oxygen uptake;VO2peak)

VO2peakは、物理的混合物(PM)群では介入前が44.3±2.3mL/kg/分、介入後が39.5±2.4mL/kg/分で変化量は-4.8±1.1mL/kg/分、構造化トリグリセライド(STG)群では同順に42.4±1.6mL/kg/分、39.6±1.0mL/kg/分、-2.8±1.1mL/kg/分であり、変化量の群間差は非有意だった。

なお、両群ともVO2peakが介入後に低下している理由について、研究期間が2021年夏という新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最中であり、屋外での活動自粛が呼びかけられていた期間であったため、身体活動量が減少していたことの影響と考えられると述べられている。

無酸素性代謝閾値(AT)の変化

無酸素性代謝閾値(AT)は、PM群では介入前が25.4±2.2mL/kg/分、介入後が22.5±1.7mL/kg/分、変化量は-2.9±0.8mL/kg/分であるのに対して、STG群では同順に25.0±1.5mL/kg/分、25.7±1.0mL/kg/分、変化量0.6±0.8mL/kg/分であって、変化量に有意な群間差が認められた(p<0.01)。

疲労困憊に至るまでの時間(TTE)、ATに至るまでの時間

VO2peakレベルの負荷で疲労困憊に至るまでの時間(TTE)の変化は、PM群では-10±20秒であるのに対して、STG群では53±18秒と延長しており、有意な群間差が認められた(p<0.05)。また、VO2peakレベルの負荷でATに至るまでの時間の変化も同様に、PM群が-26±16秒であるのに対して、STG群は82±18秒と延長していて、有意な群間差が認められた(p<0.001)。

なお、80%VO2peakの負荷でのTTEの実測値や変化には有意差がみられなかった。持久力パフォーマンスの重要な指標であるTTEの実測値に有意差が生じなかったことについて、運動負荷レベルが強すぎた可能性があるとの考察が加えられている。

構造化トリグリセライド(STG)で脂質酸化が亢進して持久力が向上した可能性

前述のように本研究では、VO2peakは両群ともに介入前より介入後に低下していた。それにもかかわらずSTG群ではATが維持され、PM群では低下するという差異が生じていた。著者らは、ATは高値であるほど持久系競技には有利と考えられ、STG摂取により脂質酸化が亢進したことがこの差異をもたらしたのではないかと推測している。論文の結論には、「本研究によって構造脂質である『構造化トリグリセライド(STG)』の摂取により、持久力が向上することを実証し得た」と記されている。

一方、研究の限界点として、サンプル数が少ないこと、VO2peakの低下が観察されたこと、80%VO2peakでの持久力テストの結果に差がなかったことを挙げ、「より大きなサンプルでのさらなる研究が必要」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Eicosapentaenoic Acid and Medium-Chain Triacylglycerol Structured Lipids Improve Endurance Performance」。〔Nutrients. 2023 Aug 23;15(17):3692〕
原文はこちら(MDPI)

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