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唾液中のコルチゾールとテストステロン濃度から、トレーニングのストレスを把握できる可能性

唾液検体を用いて測定したコルチゾールとテストステロン濃度により、男性アスリートのトレーニングによるストレスを把握できる可能性を示唆する研究結果が報告された。唾液は医療職者がいなくても非侵襲的に随時採取できるため、生体のリズムやストレス反応を評価するのに有利であり、オーバートレーニング症候群リスクの早期検出などに役立つ可能性があるという。群馬大学大学院医学系研究科臨床検査医学の常川勝彦氏らの研究であり、「Scientific Reports」に論文が掲載された。

唾液中のコルチゾールとテストステロン濃度から、トレーニングのストレスを把握できる可能性

コルチゾールはインターバルトレーニング後にのみ有意に上昇

男性ホルモンのテストステロン、および“ストレスホルモン”と呼ばれるコルチゾールの血清濃度には概日リズムがあり、早朝に最も高く夕方に向かって低下するとともに、身体的または精神的ストレスが生じた場合に上昇する。よって、血清テストステロンやコルチゾールを測り、概日リズムの影響を調整することによってストレスレベルを把握できると考えられる。とはいえ、それには採血を頻繁に繰り返さなければならず現実的でない。それに対して近年、唾液中のテストステロンやコルチゾール値が、血清濃度と相関することが知られるようになってきた。ただし、アスリートのストレスレベルをこの手法で評価可能か否かは十分検討されていない。

トレーニングストレスが過剰な状態が続いていると、いわゆるオーバートレーニング症候群のリスクが生じ、トレーニング量に見合ったパフォーマンス向上効果を得られなくなったり、かえってパフォーマンスが低下したりする。しかし現時点でオーバートレーニング症候群の早期検出に有用なマーカーは特定されていない。

以上を背景として常川氏らは、病院の血液検査用の自動機器を用いることで、多数の唾液検体からコルチゾール濃度を簡便、正確に測定できることを過去に報告し、日本人女性アスリートの概日リズムとともに運動によるストレス応答を評価している。さらに今回、日本人男性アスリートを対象に、2日間のトレーニング中に唾液検体を複数回採取し、トレーニング強度とテストステロンやコルチゾールの変動との関連を検討するという研究を行った。

なお、唾液採取の手法として、受動的な採取方法(自然に流出する唾液を集める方法)と、綿棒を口に含んで吸収する方法があるが、後者では測定方法によっては血清濃度との乖離が生じやすくなることが報告されているため、本研究では受動的採取法を用いた。テストステロンとコルチゾールの濃度は、医学部附属病院検査部の自動測定機器を使用して電気化学発光免疫測定法(ECLIA)で測定した。

日本人男子長距離ランナーを対象に、トレーニング強度別に検討

この研究の参加者は、日本人男子長距離ランナー20人。年齢は中央値19歳(四分位範囲19~19)、BMIは同19.5(19.1~20.0)、体脂肪率11.4%(9.3~13.3)。トレーニングの影響を検討するステージに先立ち、まず午前7時(朝食やトレーニング開始前)に唾液検体採取と採血を実施。それらの検体中のテストステロンとコルチゾールの相関を確認した。

その結果、以下のように、両者ともに有意な正相関が認められた。唾液テストステロン濃度と血清総テストステロン濃度との相関はρ=0.702、血清遊離テストステロン濃度との相関はρ=0.789(いずれもp<0.001)。唾液コルチゾール濃度と血清総コルチゾール濃度はρ=0.586(p=0.007)。また、ストレスに対するテストステロンとコルチゾールの反応の違いを表す両者の比「testosterone/cortisol比(T/C比)」も、有意な正相関が認められた(血清総テストステロン/総コルチゾール比との相関はρ=0.618〈p=0.004〉、血清遊離テストステロン/総コルチゾール比との相関はρ=0.663〈p=0.001〉)。

インターバルトレーニングの有無別に検討

唾液検体と血液検体の有意な相関を確認した上記の検討の28日後から2日間にわたり、トレーニング中に唾液検体を採取して経時的な変化を把握した。

研究参加者20人のうち、12人は1日目のトレーニングにインターバルトレーニング(interval training;IT)を含むメニューを行い(以下「IT群」と省略)、他の8人のトレーニングにはITが含まれていなかった(以下「非IT群」)。2日間に計16回の唾液採取を行ったが、IT群の5人は測定に必要な唾液量を得られない、または唾液の粘度が高くて測定不能なことがあったため解析から除外し、IT群7人、非IT群8人で比較検討した。

IT群と非IT群とで年齢、BMI、体脂肪率、安静時心拍数に有意差はなかった。一方、トレーニング強度については、ランニング走行速度・走行距離、ボルグスケール、最大心拍数などに複数のタイミングで有意差が認められ、IT群のほうがより高強度のトレーニングを行ったこと、さらにIT群のトレーニングの中でもITが最も高強度の運動であったことが示された。

コルチゾールはインターバルトレーニング後にのみ有意に上昇

それでは結果をみていこう。全体として、テストステロン、コルチゾールともに、1日目、2日目とも朝に高値であり、その後は時間経過とともに低下していた。起床後の測定値については、1日目、2日目ともに、テストステロン、コルチゾール、およびT/C比のいずれも、有意な群間差がなかった。

午後のトレーニング後にはテストステロンが上昇

次に、午前中と午後のトレーニングの前後での変動をみると、テストステロンについてはIT群、非IT群ともに、トレーニングの強度に関わらず1日目と2日目の午後のトレーニング後の値がトレーニング前より有意に上昇していた。この結果からは、テストステロンのみでは運動強度によるストレス応答の違いを適切に評価できていないことが推測される、と論文には記されている。

インターバルトレーニング後にはコルチゾールが有意に上昇

続いてトレーニング前後でのコルチゾールの変化に着目すると、IT群において、1日目の午後のトレーニングの後(最も強度の高いITを行った後)に有意な上昇が認められた。それに対して2日目は、同じく午後のトレーニング(IT群も2日目の午後には非ITのトレーニング)の後に有意な低下が認められた。非IT群では2日間を通して、トレーニング前後での有意な変化は観察されなかった。つまり、コルチゾールが運動強度に応じたストレスレベルの違いを適切に評価していることが、この結果から示された。テストステロンもコルチゾールもともに午前中のトレーニングの前後の変動は有意でなかったが、その理由について論文には、午前中の早い時間帯ほど概日リズムのために高値であることが、運動負荷のストレスによる上昇を検出しにくくしたためと考えられると記されている。

これらの結果を反映して、IT群では1日目の午後のトレーニング(IT)の前後でT/C比が有意に低下し、2日目の午後のトレーニングの前後では有意に上昇した。他方、非IT群ではトレーニングの前後にT/C比の有意な変動が認められなかった。さらに、運動前後の変化率で評価すると、コルチゾールのみの変化率よりもT/C比の変化率が、高強度運動であるITによるストレスをより良く評価していることが確認できた。

唾液検体でアスリートのストレス反応を評価可能

著者らは本研究の限界点として、サンプルサイズが小さいこと、およびトレーニング強度をVO2maxなどのより客観的な指標で評価していないこと、トレーニングの影響や日内変動を評価するための検体採取の最適なタイミングが明らかにされていないことなどを挙げ、さらなる研究が必要であるとしている。

そのうえで論文の結論は、「唾液検体中のテストステロンとコルチゾール濃度の自動ECLIAによる測定の精度は、血清サンプルと同等と言える。連続的な唾液検体を採取し、かつ簡便な自動測定でこれらの経時的な変動を評価することが、アスリートの概日リズムとストレス反応を検出するのに役立つのではないか」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Assessment of exercise-induced stress via automated measurement of salivary cortisol concentrations and the testosterone-to-cortisol ratio: a preliminary study」。〔Sci Rep. 2023 Sep 4;13(1):14532〕
原文はこちら(Springer Nature)

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