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持久系自転車アスリートのための栄養戦略 日常の食事摂取からケトジェニック食ほか最新情報

サイクリストの栄養戦略のエビデンスを総括したレビュー論文が、米国スポーツ医学会の「Current Sports Medicine Reports」に掲載された。90分以上の持久力を要する競技サイクリストまたはレクリエーションサイクリスト対象の栄養についてまとめられている。以下に、自転車競技に特化した内容をおもに抜粋して、要旨を紹介する。なお、論文のイントロダクションによると、新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、手軽に始められ、屋外で身体的距離を保ちながら行えるサイクリングは、世界中で実践者が増加しているという。

持久系自転車選手のための栄養戦略 日常の食事摂取からケトジェニック食、その他の最新情報

炭水化物摂取

長距離サイクリングには、外因性(炭水化物摂取)および内因性(筋グリコーゲンおよび血漿グルコース)にエネルギーを安定的に利用できることが必要。従来、持久系アスリートには高炭水化物食が推奨されており、その理論的根拠はエネルギーとして利用可能な筋グリコーゲンを増加させることにある。近年は、主要栄養素の摂取量と摂取タイミングをトレーニングの需要に基づいて、より精緻に調節するアプローチが行われるようになってきた。

サイクリストの場合は、消費エネルギー量が摂取エネルギー量を容易に上回りやすい。また、体重換算したパワー(パワーウェイトレシオ)が重要視されやすい競技であり、可能な限り低体重が良いとする傾向があって、利用可能エネルギーが不足する(low energy availability;LEA)のリスクにさらされやすい。

炭水化物摂取のピリオダイゼーション(期分け)

高強度トレーニングでは炭水化物が必須だが、低強度のトレーニングでは、炭水化物の可用性が低い状態で行うことで、脂質の酸化を高めエネルギーを確保できる可能性が報告されてきている。また絶食状態でのトレーニングは、消化器症状の軽減にもつながる可能性がある。

ただし、このような戦略がパフォーマンス上のメリットをもたらし得るかは、いまだ明確にされていない。加えて、絶食状態でのトレーニングにより、潜在的には骨折リスクの増加、女性アスリートではRED-S(スポーツにおける相対的エネルギー不足)の懸念が高まる。

炭水化物摂取のピリオダイゼーション(期分け)の最大の目的は、LEAを回避し試合で最良の結果をあげることであり、これまでに示されてきている種々の推奨は「定説」ではなく、「ツール」と捉えることが適切だろう。絶食状態でのトレーニングについては、それが従来のトレーニング方法の効果を上回るものなのかや、効果を得られやすい特定の集団が存在するのかといった点の解明のため、今後の研究が必要とされる。

回復のための炭水化物とタンパク質

持久系サイクリストは、トレーニング後の回復促進のため、炭水化物とタンパク質の最適な摂取が必要とされる。両者の最適な摂取により筋タンパク質合成(muscle protein synthesis;MPS)が活性化する。運動後1時間以内に1~1.2g/kgの炭水化物を摂取し、8時間未満の間隔で次のトレーニングセッションを行う場合は、これを4時間ごとに繰り返すという提案もなされている。

タンパク質に関しては、メタ解析からロイシンの重要性が明らかにされている。ロイシンは、MPSを誘発する分岐鎖アミノ酸であり、MPS刺激には3.2~4.4gが必要であると示唆されている。また、睡眠前のカゼインタンパク質の摂取が睡眠中のMPSを高めることも報告されている。ただし、パフォーマンスや回復上のメリットを検討した研究では、それらの結論に一貫性の欠如も認められ、さらなる研究が求められる。

水分摂取

長距離サイクリングのための適切な水分補給は、血液量を維持し、熱ストレスを軽減して、電解質の不均衡による影響を回避することにより、パフォーマンスを向上させる。夏季に164kmの自転車競技を完走した男性サイクリストの総水分摂取量は2.1~10.5Lで、発汗量は4.9~12.7Lの範囲と報告されている。レース中は過度の体重減少(水分不足による体重の2%以上の減少)を避ける必要があり、1%の水分補給は通常5〜10mL/kgを飲むことで達成される。

9件の研究のメタ解析から、水分を0.15~0.20mL/kg/分の割合で摂取すると、パフォーマンスが向上する可能性があることが示唆されている。また、自由に摂取するよりも計画的に摂取したほうが、パフォーマンスが向上するとする研究報告もある。

一方で、自転車競技中の水分補給に関連する問題として、低ナトリウム血症、低体温、筋肉のけいれん、消化器症状などが挙げられる。これらに対して、炭水化物と電解質混合物を含む低張液(75mOsmol/kg未満)が、水分補給とパフォーマンスという点で、最も有益であると考えられている。

自転車競技とケトジェニックダイエット

ケトーシスは、「エネルギーの危機」においてケトン体が脳のエネルギー源となる適応状態と見なすこともできる。この状態は、一晩の絶食によって意図的に達成可能。

ケトーシスにおいては身体の主要なエネルギー源として脂質が使用され、肝臓において遊離脂肪酸がケトンに変換される。運動中に筋肉でのケトン体の取り込みは最大5倍に増加するとの報告があり、その利用はグリコーゲンの温存につながる。ただし、クロスオーバー試験からは、ケトジェニック食によってVO2maxが有意に上昇するものの、最大パワーは低下するというデータがある。この研究におけるVO2maxの上昇は、体重の減少や交感神経活性の亢進などによるものであり、最大パワーの低下は筋グリコーゲンの低下と解糖系酵素の活性低下によるものとされている。

これらの結果から、持久系アスリートにとって好ましいケトジェニック食とは、体脂肪を酸化させ低強度のトレーニングを大量に行うプレシーズンのみである可能性がある。競技パフォーマンスは低下するため、実際のイベントには推奨されない。また、ケトジェニック食には、ナトリウムとカリウムの不足が生じる懸念もあり、体内の総水分量の減少により、めまいや頭痛が引き起こされる可能性がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Strategies for Endurance Cyclists — Periodized Nutrition, Ketogenic Diets, and Other Considerations」。〔Curr Sports Med Rep. 2023 Jul 1;22(7):248-254〕
原文はこちら(American College of Sports Medicine)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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