スポーツは歯の成長に良い影響を与える? トルコの体育高校と美術高校の歯年齢を比較
成人前のスポーツへの参加が、身体的・精神的成長や発達に好ましい影響を及ぼすことが知られているが、歯の成長にもプラスに働く可能性のあることが、トルコで行われた横断的研究から明らかになった。体育高校と美術高校の生徒を比較した結果、歯の年齢に有意差が認められたという。
歯の成長も栄養状態や身体活動の影響を受けるのか?
成人に至るまでにスポーツを行っていると、骨密度や筋肉量などの面で良好な影響を期待できる。これには、スポーツへの参加により身体活動量が増加することだけでなく、食習慣の乱れが抑制されたり、健康的な食品の摂取が増えることも関与していると考えられる。それらの影響は、歯の成長に対してもプラスに作用する可能性がある。ただし、別の考え方として、歯は、身体活動や食習慣の影響を受ける諸臓器や器官系とは異なる存在であって、栄養状態や身体活動の影響は受けないとする研究報告もあり、結論は得られていない。
トルコの体育高校と美術高校の生徒の“歯年齢”を比較
今回紹介する論文の著者らは、体育を専門的に教育する高校の生徒と、美術を専門的に教育する高校の生徒とで、歯の年齢を比較するという手法で、この点を検討した。いずれもトルコ南西部の都市、ウスパルタに立地している高校であり、同国の公的データによれば、所在地の住民の所得レベルは低所得層に分類されており、生徒の社会経済的地位は同等と判断された。
解析対象は、体育高校の生徒は138人(女子46人、男子92人)、トレーニング歴は4.21±0.23年(女子4.37±0.25、男子4.14±0.22年)で、週あたりのトレーニング時間は7.31±0.43時間(同順に7.02±0.52、7.45±0.38時間)であり、BMI20.66±0.20(19.90±0.33、21.04±0.25)だった。一方、美術高校の生徒は126人(女子79人、男子47人)で、BMIは21.23±0.33(女子20.92±0.43、男子21.75±0.50)だった。
生徒の実年齢は、高校間および性別間で有意差はなかった。ただし、性別の分布は有意差があり、体育高校では男子が多く、美術高校は女子が多かった。
歯の年齢は、パノラマX線撮影の適応となる所見のある生徒を対象に、Nolla法、Haavikko法という二つの手法により成熟の程度を評価した。それぞれの高校の生徒の実年齢の平均、および二つの評価法による歯の年齢の平均を性別に比較した結果、以下に示すように、体育高校の生徒の方が歯の年齢が高い(成熟度が高い)ことが明らかになった。
実年齢と歯の年齢の差
美術高校の生徒の平均実年齢は15.99±1.09歳であるのに対して、歯の平均年齢はNolla法で14.96±1.74歳、Haavikko法14.68±2.08歳であり、いずれも実年齢より有意に若かった(未成熟だった)。それに対して体育高校の生徒は、平均実年齢が15.93±1.13歳であり、歯の年齢は前記と同順に15.63±1.92歳、15.23±1.9歳であって、実年齢と有意差がなかった。
性別の解析結果
性別に解析すると、美術高校の生徒は女子・男子ともに実年齢よりHaavikko法で評価した歯の年齢のほうが若かった。Nolla法の評価については、女子は実年齢より歯の年齢のほうが有意に若く、男子は実年齢と有意差がなかった。
一方、体育高校の生徒は、女子は2種類の評価方法のいずれの結果も、実年齢より歯の年齢が若いという有意差が認められた。ただし男子については、2種類の評価方法のいずれの結果も、実年齢と歯の年齢との間に有意差はなかった。
学年別の解析
次に、学年別(14~18歳の各学年)に検討すると、Haavikko法では美術高校のすべての学年の生徒が、実年齢よりも歯の年齢のほうが若いという結果だった。それに対して体育高校の生徒では、14、15、18歳は実年齢より歯の年齢のほうが有意に若かったが、16、17歳は有意差がなかった。
また、Nolla法による検討では、美術高校の14歳の学年を除くすべての学年で、実年齢よりも歯の年齢のほうが若いという有意差が認められたのに対して、体育高校の生徒で実年齢と歯の年齢の有意差が認められたのは、18歳の学年のみだった。
パラメーター間の相関
続いて、評価したパラメーター間での相関を検討すると、以下のように、体育高校の生徒のトレーニング歴と歯の年齢との間に有意な相関が認められた。また、実年齢と歯の年齢との相関は、美術高校の生徒よりも体育高校の生徒のほうが、係数が高い傾向にあった。
トレーニング歴とHaavikko法による歯の年齢の相関はr=0.188(p=0.027)、トレーニング歴とNolla法による歯の年齢はr=0.198(p=0.020)。
Haavikko法による歯の年齢と実年齢の相関は、美術高校の生徒ではr=0.464、体育高校の生徒ではr=0.650、Nolla法による歯の年齢と実年齢の相関は、美術高校の生徒ではr=0.421、体育高校の生徒ではr=0.577(すべてp<0.001)。
以上の結果に基づき著者らは、「スポーツが歯の成熟にプラスの影響を与える可能性があることが示唆される」と結論づけている。ただし、体育高校、美術高校ともに学校としてのサンプル数が1であること、被曝回避のため適応のある生徒のみを評価対象としたことなどの限界点があることから、さらなる研究の必要があるとしている。
文献情報
原題のタイトルは、「The effects of sports participation on the dental age in adolescents」。〔Eur Oral Res. 2023 May 4;57(2):75-82〕
原文はこちら(Istanbul University Press)