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4割以上が利用可能エネルギー不足 米国大学の水泳選手が抱える栄養関連の諸問題

米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)ディビジョンIIIの水泳選手のプレシーズンの栄養に、さまざまな問題が存在することを示唆する研究結果が報告された。エネルギー可用性が低い選手が少なくなく、とくに、意外にも、BMIが高値の選手でその傾向がより大きくみられること、タンパク質以外の主要栄養素と野菜や果物の摂取量が不足していることなどが明らかになった。

利用可能エネルギー不足が4割以上 米国大学の水泳選手が抱える栄養を取り巻く諸問題

NCAAディビジョンIIIの水泳選手の「栄養」を調査

大学生アスリートは、推奨される栄養素摂取量を満たしていないことが多いと、しばしば指摘される。摂取エネルギー量が少ない、いわゆる利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)は潜在的なパフォーマンス低下や怪我のリスク因子であり、さらに健康への悪影響への懸念も生じる。

大学生としての本分である学業と、アスリートとしてのトレーニング、試合のための遠征という過密なスケジュールが、大学生アスリートの栄養への配慮を妨げる要因と考えられ、それに加えてプレシーズンには、トレーニング量が低めから高めに移行するという変化に伴う食事の変更がなされないことがあり、よりLEAを来しやすくなると考えられる。

これまで、大学生アスリートのLEAリスクについては、主として陸上長距離などの持久系アスリートを対象とし、かつ、米大学体育協会(National Collegiate Athletic Association;NCAA)のディビジョンIまたはIIの選手で調査されてきた。それに対してディビジョンIIIは、NCAA所属選手の40%を占める最大カテゴリーであるにもかかわらず、種々の研究対象とされることが少なく、また栄養士などによる教育システムも、ディビジョンIIIでは充実しているとは言えない。さらに、ディビジョンIIIの水泳選手のLEAリスクはほとんど調査されていない。

今回紹介する論文の研究は、以上を背景として実施された。

大学水泳選手の間で利用可能エネルギー不足(LEA)が蔓延?

研究対象は、NCAAディビジョンIIIの水泳選手30人(男子と女子が各15人)。主な特徴は、男子、女子の順に、平均年齢19.9、19.7歳、BMI23.6、23.2、体脂肪率11.1、25.3%、除脂肪体重(fat free mass;FFM)70.2、48.8kg、骨格筋量(skeletal muscle mass;SMM)40.3、27.1kg。

プレシーズンの連続していない平日2日と休日1日、計3日の食事記録から各栄養素摂取量と摂取エネルギー量(energy intake;EI)を把握するとともに、7日間のトレーニング記録から、運動による消費エネルギー量(exercise energy expenditure;EEE)を把握。〔EI-EEE/FFM〕にて、エネルギー可用性(energy availability;EA)を算出し、EAが45kcal/kg FFM/日を「最適(optimal)」、30~44kcal/kg FFM/日を「最適でない(sub-optimal)」、30kcal/kg FFM/日未満を「利用可能エネルギー不足(LEA)」と判定した。

選手の4割以上がLEAに該当

結果について、まずエネルギー出納と主要栄養素摂取量を性別にみると、男子は女子より摂取エネルギー量(EI)が有意に多かったが(2,930.4±717.8 vs 2,201.8±625.2kcal/日、p=0.007)、運動による消費エネルギー量(EEE)は有意差がなかった(664.2±406.7 vs 525.6±211.2kcal/日)。また、体重換算した主要栄養素摂取量は性別間に有意差がなく、タンパク質以外はアスリート対象の推奨値(sport recommended intakes;SRI)を下回っていた。

エネルギー可用性(EA)は、男子32.7±12、女子34.9±13.7kcal/kg FFM/日であり、性別間に有意差はなかった(p=0.65)。前述のカットオフ値で分類すると「最適」は20%、「最適でない」は37%で、「利用可能エネルギー不足(LEA)」が43%(男子7人、女子6人)を占めた。

女子選手のLEAスクリーニングツールの感度に疑問符

次に、女性アスリートのLEAのスクリーニングツールとして開発された、25項目のアンケート(low energy availability in females questionnaire;LEAF-Q)を今回の調査対象に適用して実用性を検証した。なお、LEAF-Qに関しては、クロンバックのα係数が0.71以上で信頼性が比較的高く、感度は78%、特異度は90%との報告がある。

しかし、前記の計算式でLEAと判定された6人の女子選手のうち、LEAF-QでLEAと判定されたのは3人のみだった。この点について著者らは、「LEAF-QはLEAのアスリートを特定する際に有用でない可能性があり、新たなスクリーニングツールを開発する必要があるのではないか」と述べている。

BMIが高い選手のほうがエネルギー可用性(EA)が低い

続いて、エネルギー可用性(EA)と体組成関連指標との相関を検討。体脂肪、除脂肪体重、脂肪量、骨格筋量はEAとの有意な相関が認められなかった。ただし、唯一BMIは、r=-0.424(p<0.02)であり有意な負の相関が認められた。つまり、BMIが高い選手のほうがエネルギー可用性(EA)が低いことが明らかになった。

この点について著者らは「注目すべきこと」と述べ、「体格の大きい選手はその分、エネルギー需要も高くなるため、エネルギー要件を満たすことが難しくなることを示唆している」との考察を加えている。

野菜・果物不足も示される

最後に、野菜や果物の摂取量に目を向けると、米国農務省(USDA)の推奨を満たしていたのは、野菜についてはわずか3人のみ、果物も8人にすぎなかった。著者によると、ディビジョンIの学生アスリート対象の研究からは、野菜や果物をほぼ毎日食べているアスリートが多いことが示されているとし、「それとは対照的な結果だ」と論評。

以上の結果を総括し、「これらの結果は、NCAAディビジョンIII大学水泳選手の食事摂取量を改善する必要性を強調するものだ」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Pre-Season Nutritional Intake and Prevalence of Low Energy Availability in NCAA Division III Collegiate Swimmers」。〔Nutrients. 2023 Jun 21;15(13):2827〕
原文はこちら(MDPI)

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