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サッカー選手の炭水化物摂取戦略 パフォーマンスを最大限に発揮する摂取タイミングと量を考察

サッカーにおけるパフォーマンスと炭水化物摂取との関連をまとめた、「Sports medicine」誌に掲載されたレビュー論文を紹介する。サッカーでは高いスキルを持っている選手であっても、試合終盤ではパフォーマンスが低下し、スキルを発揮できなくなりやすい。それを炭水化物摂取でどの程度、抑制することが可能かという視点でまとめられた、英国の研究者による報告。

サッカー選手の炭水化物摂取戦略 パフォーマンスを最大限に発揮する摂取タイミングと量を考察

サッカーに必要なスキルを100%発揮するための炭水化物摂取戦略とは

サッカーには、パスやシュートのスピードや正確さなどの身体的スキルとともに、プレーの流れを読みながら他の選手と連携してスペースを作り味方に有利な展開を形づくるといった、認知的なスキルも求められる。前者の身体的スキルのうち、クローズスキルと呼ばれるフリーキックやコーナーキック、ペナルティーキック、スローインは個人的トレーニングでも高めることが可能だが、オープンスキルと呼ばれるパスやヘディング、シュート、タックルなどは、試合または試合形式のトレーニングで身に付けていくスキルであり、さらに後者の認知的なスキルについては、試合に参加していなければ培うことが難しい。

一方、サッカーの試合時間は90分で、その間、頻繁に攻守の切り替えが発生し、ピッチ上を長時間、低速から高速で走行することが要求される。さらに、90分戦い同点の場合は30分の延長戦に突入する。キックオフから90分経過した時点で筋グリコーゲンは著しく減少し、120分後にはさらに減少して、それとともに選手の走行量は減り、プレーの正確さも低下する。そこで、試合前と試合中に適量の炭水化物を摂取することが筋グリコーゲンの枯渇を防ぎ、疲労発生を遅延させてパフォーマンス低下を抑制すると考えられ、その効果を検討した研究結果が複数報告されている。

今回紹介する論文は、それらの研究報告のレビューであり、このトピックに関する現時点での知見を整理したもの。文献検索には、PubMed、Web of Science、SPORTDiscusという文献データベースを用いて、検索キーワードは「サッカー」「フットボール」「炭水化物」「スキル」「パフォーマンス」などが用いられた。

なお、論文ではイントロダクションに続き、「スキル評価(skill assessment)」という章が立てられている。サッカー特有のスキルレベルは従来、プロサッカー選手に何が求められるかを熟知している経験豊富なコーチによって評価されてきたという。ただし、サッカーの進化とともに、要求されるスキルも少しずつ変化しているようだ。例えば、1966年から2010年の男子ワールドカップの決勝戦の分析では、試合中の1分間当たりのパス数が35%増加し、プレー速度が15%上昇したと報告されている。

炭水化物摂取と試合のスキル

前述のように、試合中の疲労とグリコーゲン減少には密接な関連があり、それら両者がパフォーマンス低下を招く。チームスポーツにおけるそのようなパフォーマンス低下に対する炭水化物の摂取戦略は、既に一定のエビデンスをもって推奨されている。具体的には、以下のようにまとめられる。

チームスポーツにおける炭水化物摂取の推奨

炭水化物摂取が推奨される理由は、肉体的・精神的な疲労を遅らせること、身体的スキルの低下を防ぐこと、怪我や疾患のリスクを下げること、などが挙げられる。こられの目的のための炭水化物摂取量は次のとおり。

シーズン中のトレーニング

体重1kgあたり4~8g/日の炭水化物摂取。運動負荷量と個々の目標(例えば減量、体組成変更など)により調整し、さらに試合日を勘案して調整する。

試合前日~試合翌日

筋グリコーゲン貯蔵量を増やすため、体重1kgあたり6~8g/日の炭水化物摂取。肝グリコーゲン貯蔵量を増やすため、試合3~4時間前に体重1kgあたり1~3gの炭水化物摂取。ウォームアップ後とハーフタイムのインターバル中に炭水化物を30g摂取。試合後、グリコーゲンの回復と水分補給目的で、1g/kg/時の炭水化物を水分とともに摂取。

炭水化物摂取でサッカーの試合中の身体的スキル低下を防ぐことができるか?

では、チームスポーツの中で、とくにサッカーではどうだろうか?

炭水化物摂取が本当にサッカーの試合中のスキルの維持に役立つのかという問いかけの簡単な答えは、試合中に選手が疲れを感じにくくなるかという質問の答に近い。ただ、その質問に対する答も、決定的なエビデンスはまだない。しかし、少ないながらも試合前や試合中の炭水化物摂取によって、パフォーマンス低下が抑制されることを示唆する研究結果が複数報告されている。

また、利き足とその反対の足の動きに着目した研究からは、炭水化物摂取によるパフォーマンス低下抑制作用は、利き足でないほうの足で、より高く認められる可能性が示唆されている。利き手や利き足でないほうの手足の動作には、中枢神経系のより大きな活性化が必要となる。炭水化物摂取によるパフォーマンスに対する保護的作用が利き足でないほうに強く現れるという知見は、摂取した炭水化物が身体活動のためのエネルギー基質として働くだけでなく、中枢神経系に対しても有効に作用していることを示唆している可能性が考えられる。

炭水化物摂取と精神的疲労

精神的疲労に対する炭水化物摂取の影響は比較的多くの研究がある。近年では、炭水化物を嚥下せずに、水溶液のう含嗽(がんそう、うがい・口すすぎのこと)だけでも疲労抑制に有効な可能性が示唆されつつある。サッカーではこの効果はまだ検討されていないようだが、炭水化物が中枢神経系の主要なエネルギー源であることからも、炭水化物摂取または含嗽によって精神的疲労が抑制されたとしても、驚くべきことではないと言えるだろう。

文献情報

原題のタイトルは、「Carbohydrate Nutrition and Skill Performance in Soccer」。〔Sports Med. 2023 Jul 8〕
原文はこちら(Springer Nature)

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