子どもの中~高強度運動を増やす鍵は親のサポート 名古屋の小学生と保護者対象調査で明らかに
名古屋市内の小学3年生とその保護者を対象に行われた研究から、子どもの中~高強度運動を増やすには、親のサポートが重要な鍵となることを示唆するデータが報告された。一方、子どものウォーキングや中強度運動については、地域の運動関連施設の利用を親が勧めることと有意な関連が認められたという。京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻の細川陸也氏らの研究であり、「BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation」に論文が掲載された。
子どもの身体活動量は親次第?
子どもの身体的・精神的な成長・発達にとって運動が重要であることは論をまたない。それにもかかわらず国内では、子どもたちの体力・運動能力の低下が指摘されている。例えばスポーツ庁「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の成績は、1980年頃をピークとして低下傾向にある。このような変化には、子どもたちが屋外で遊ぶスペースが減り、ゲームなどに費やす時間が増えたことなどが関与していると考えられている。子どもたちの体力や運動能力の低下は、将来の健康にとってマイナスとなるだけでなく、自尊心の低下や不安レベルの上昇を招く可能性もあることから、対策が急がれている。
一方、親の身体活動量が子どもの身体活動量と正相関することが報告されている。ただし、子どもの身体活動に対する親によるサポートが、実際に子どもの身体活動量を増やすのかどうかは明らかになっていない。細川氏らは、親の子どもに対するサポートが、子どもの身体活動量に関連しているとの仮説を立て、以下の検討を行った。
小学3年生の身体活動量と親のサポート状況の関連を調査
この研究は、文部科学省科学研究費助成事業として進められている、子どもの社会的発達と行動に対する養育環境の影響の調査の一部として行われた。2017年に名古屋市内の小学3年生1,515人とその保護者を対象に自記式アンケートによる調査を実施。発達障害と診断されていた子どもやデータ欠落のある回答を除外し、717件を解析対象とした。子どもの年齢は9.08±0.33歳で男児が51.0%、一人親が5.9%で、15.1%は単独子(一人っ子)だった。
親の子どもに対する身体活動上のサポート状況については、4項目を評価する質問票(activity support scale for multiple groups;ACTS-MG)を用いて把握した。4項目とは、「運動できる場所へ子どもを連れて行く」、「身体活動を親が行い規範を示す」「近所の運動関連施設の利用を子どもに勧める」、「ゲームなどの座位行動の時間を制限する」であり、それぞれ1~4点のリッカートスコアで同意の程度を回答してもらい、スコアが高いほど、より強くサポートしていると判定した。
子どもの身体活動量については、国際標準化身体活動質問票(international physical activity questionnaire;IPAQ)の簡易版を用いて、過去7日間の身体活動量を評価し、高強度運動(8METs)、中強度運動(4METs)、およびウォーキング(3.3METs)に分類した。
女児や一人っ子は身体活動量が少ない
まず、子どもの性別や家族構成、世帯収入、親の教育歴による、子どもの身体活動量の相違を検討。その結果、世帯収入では有意差がなく、その他の項目については以下のような有意差が認められた。
性別
男児は女児に比べて、高強度運動、中強度運動、およびそれら両者の合計(中~高強度運動)の量が有意に多かった。ウォーキングについては有意差がなかった。家族構成
単独子(一人っ子)は兄弟のある子どもに比べて、高強度運動、および中~高強度運動の量が有意に少なかった。中強度運動単独およびウォーキングについては有意差がなかった。また、一人親か二人親かでは、有意差がなかった。親の教育歴
父親の教育歴によって子どものウォーキングによる身体活動量が異なり、中学卒または高校卒の場合に最も多く、大学卒以上がそれに続き、短大・専門学校卒の場合に最も少なかった。ただし、高強度運動や中強度運動の量には有意差がなかった。また、母親の教育歴別の比較では、子どものすべての強度の身体活動量に有意な差がみられなかった。子どもの中~高強度運動を増やすには、より積極的な働きかけが必要
次に、子どもの身体活動量を目的変数、その他の因子(子どもの性別、家族構成、世帯収入、親の教育歴)を説明変数とする重回帰分析を施行。以下のように、子どもの各運動強度に対して独立した関連のある親のサポート内容が浮かび上がった。
高強度運動や中~高強度運動に関連する因子
子どもの高強度運動に独立した関連のある親のサポートは、「運動できる場所へ子どもを連れて行く」ことであり(β=0.228、p<0.001)、他の3項目(身体活動を親が行い規範を示す、近所の運動関連施設の利用を子どもに勧める、ゲームなどの座位行動の時間を制限する)は有意な関連因子ではなかった。
また、子どもの中~高強度運動に独立した関連のある親のサポートも、「運動できる場所へ子どもを連れて行く」ことのみだった(β=0.227、p<0.001)。
中強度運動やウォーキングに関連する因子
一方、子どもの中強度運動に独立した関連のある親のサポートは、「近所の運動関連施設の利用を子どもに勧める」ことのみだった(β=0.108、p=0.026)。また、ウォーキングによる身体活動量に独立した関連のある親のサポートも、「近所の運動関連施設の利用を子どもに勧める」ことのみだった(β=0.129、p=0.008)。
ゲームやスマホ利用の制限では、子どもの運動量は増えない可能性
以上より、子どもの中強度以上の身体活動量を増やすには、何らかのスポーツクラブに入会するといった保護者による子どもへの直接的なサポートが必要と考えられた。一方でウォーキングなどの中強度以下の身体活動量を増やすには、地域の運動関連施設の利用を進めることが有効と言える。
著者らは、「子どもたちの身体活動量を増やすことは喫緊の課題と言えるが、新型コロナウイルス感染症パンデミック以降、スクリーンタイムが増加し、タブレットを用いた授業も増えている。今回の研究からは、それらの座位行動を減らすようなアプローチは、子どもの身体活動量を増やす手段として有効でない可能性があり、より積極的な介入が必要かもしれない」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Parental support for physical activity and children’s physical activities: a cross-sectional study」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2023 Jul 25;15(1):90〕
原文はこちら(Springer Nature)