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慢性疾患患者へのデジタルヘルスを利用した運動介入の効果は? 注意事項は? メタ解析からの知見

治療上、運動介入が重要な意味をもつ疾患は少なくないが、動機付けや継続の困難さがしばしば指摘される。それに対して近年、スマホアプリなどを用いたデジタルヘルス介入が行われるようになってきた。そのような介入は実際に有効なのだろうか。この疑問を、システマティックレビューとメタ解析によって検討した研究結果が報告された。身体活動量の増加や身体機能の改善などの有用性が認められた一方で、重篤とは言えないながらも有害事象のリスクも観察されたという。

慢性疾患患者へのデジタルヘルスを利用した運動介入の効果は? 注意事項は? メタ解析からの知見

運動介入の効果をシステマティックレビューで解析

運動不足はさまざまな慢性疾患のリスクを押し上げる。運動不足が関与する慢性疾患が35種類存在し、医療費の4.6%は運動不足によって生じているとの報告もあるという。そのような疾患の予防や治療に運動介入が重要であることはいうまでもないが、実際に運動を始めたり継続したりすることには高いハードルがあることも、多くの研究によって指摘されている。そのハードルを少しでも下げるために、対象者のニーズや好み、運動能力に応じた運動を処方することが一つの解決策となる。とはいえ、数多くの慢性疾患患者1人1人の運動能力や生活パターンなどを評価して、適した運動を処方することにもまたハードルが立ちはだかる。

このような状況の解決策として近年、デジタルヘルステクノロジーの利用が試みられるようになった。デジタルヘルステクノロジーには、モバイルアプリやウェアラブルデバイス、ソーシャルメディアの使用などが含まれる。それらの利用によって、受療行動のための時間や距離などの物理的障壁がなくなり、患者にとって利便性が高く、また医療コストの削減につながる可能性もある。

デジタルヘルスの有用性については既に複数の研究が行われ、報告されてきている。ただし、それらの報告の多くは単一の疾患に対するデジタルヘルス介入について有用性を検討していることが多い。それに対してリアルワールドでは、複数の慢性疾患を併発している患者が多くを占めている。よって、デジタルヘルス介入の実際的な有用性を評価するには、包括的な検証が必要とされる。

そこで本論文の著者らは、システマティックレビューとメタ解析によって、デジタルヘルスを用いた慢性疾患に対する運動介入の効果を検討した。

136件のRCTを抽出して検討

文献検索には、MEDLINE、Embase、CINAHL、Cochrane Central Register of Controlled Trialsを用い、各データベースの開始から2022年10月までに収載された論文を検索対象とした。包括基準は、研究対象が18歳以上の成人であり、身体活動のためのデジタルヘルス介入の効果を無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)で検討した報告であって、介入対象疾患は、高血圧、2型糖尿病、虚血性心疾患、心不全、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、下肢の変形性関節症、うつ病、不安症。除外基準は、対象に1型と2型の糖尿病が混在している研究や、先天性心疾患、心筋症、心臓弁膜症、狭心症患者対象の研究。

一次検索で1万4,078報がヒットし、重複を削除後に、PRISMA ガイドラインに即して5人の研究者が独立してタイトルと要約に基づくスクリーニングを実施。選択された427報を2人の研究者が全文を精査し、採否の意見の不一致は討議によって解決した。最終的に140報、136件のRCTが適格と判定された。

抽出されたRCTの研究参加者数は2万94人で、年齢60.68±7.17歳、女性41.63%であり、31カ国から報告されていた。国別で報告数の多いのは米国(24件)、オーストラリア(21件)。RCT介入期間は22.94±18.72週間(範囲4~104)だった。

多くの評価項目でデジタルヘルス介入の有用性を確認

解析の主要評価項目は、客観的に評価された身体活動量と身体機能で、副次的に主観的にそれらを評価した結果が解析された。また、介入終了時点の評価の解析に加え、介入終了後に追跡調査が行われた研究に関しては、その追跡調査時点での評価も解析されている。

介入終了時の主要評価項目:身体活動量・身体機能ともに有意に改善

介入終了時点でデジタルヘルス介入が行われた群は、対照群に比べて客観的に評価された身体活動量が有意に増加していた(標準化平均差〈standardized mean difference;SMD〉0.29〈95%CI;0.21~0.37〉)。これは1日あたり970.79歩の増加に相当する。

また、客観的に評価された身体機能も、デジタルヘルス介入によって有意に向上していた(SMD0.36〈0.13~0.59〉)。ただし、中~高強度身体活動(moderate-to-vigorous physical activity;MVPA)には有意差がみられなかった(SMD0.03〈-0.31~0.37〉)。

介入終了時の副次的評価項目:身体活動量・身体機能に加えHRQOLも有意に改善

介入終了時点での主観的な評価でも、身体活動量(SMD0.29〈0.19~0.39〉)、身体機能(SMD0.21〈0.13~0.29〉)のいずれも有意に改善していた。さらに、健康関連の生活の質(health-related quality of life;HRQOL)も、デジタルヘルス介入が行われた群のほうが向上していた(SMD0.18〈0.07~0.29〉)。

一方、介入群では重篤ではない有害事象(筋骨格系の痛みなど)のリスクが有意に増加していた(リスク比〈RR〉1.31〈1.11~1.55〉)。ただし、重篤な有害事象のリスクは有意差がなかった(RR0.89〈0.76~1.04〉)。

追跡調査時の主要評価項目:身体活動量・身体機能とMVPAも有意に改善

次に、追跡調査時点での評価の解析結果をみると、デジタルヘルス介入が行われた群は対照群に比べて客観的に評価された身体活動量が有意に増加し(SMD0.17〈0.04~0.31〉)、身体機能も有意に改善していた(SMD0.29〈0.06~0.40〉)。さらに、介入終了時点では非有意だった中~高強度身体活動(MVPA)にも有意差が生じていた(SMD0.23〈0.06~0.40〉)。

追跡調査時の副次的評価項目:身体活動量のみ有意に改善

それに対して追跡調査時点での主観的な評価については、身体活動量は引き続きデジタルヘルス介入が行われた群で有意に改善していたが(SMD0.29〈0.06~0.40〉)、身体機能(SMD0.14〈-0.06~0.34〉)とHRQOL(SMD0.09〈-0.06~0.24〉)は有意差が消失していた。

また、追跡調査時点でのデータからメタ解析が行われたメンタルヘルス関連の指標については、うつ病(SMD-0.06〈-0.22~0.10〉)、不安症(SMD-0.12〈-0.25~0.01〉)ともに、対照群との有意差が認められなかった。

著者らは、「デジタルヘルス介入は、さまざまな慢性疾患にわたって身体活動と身体機能を改善した。うつ病、不安症、健康関連の生活の質(HRQOL)に対する影響は、介入終了時にのみ観察された」とまとめるとともに、「デジタルヘルスソリューションは、慢性疾患をもつ人々に効果的な身体活動介入を提供することができ、より多くの人がこの種の介入を低コストで利用可能とするのではないか」と結論を述べている。ただし、「重篤でない有害事象の潜在的なリスクについて、参加者に対し教育することも不可欠」との留意事項の付言もしている。

文献情報

原題のタイトルは、「Benefits and Harms of Digital Health Interventions Promoting Physical Activity in People With Chronic Conditions: Systematic Review and Meta-Analysis」。〔J Med Internet Res. 2023 Jul 6;25:e46439〕
原文はこちら(JMIR Publications)

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