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睡眠時間が少ないと身体活動による認知機能の低下を抑制する効果が相殺されてしまう

身体活動が加齢に伴う認知機能の低下速度を抑制する可能性があるものの、睡眠時間が少ない場合、そのようなメリットが相殺されてしまうことが、縦断研究の結果として示された。英国からの報告。

睡眠時間が少ないと身体活動による認知機能の低下を抑制する効果が相殺されてしまう

認知機能低下に対する睡眠と身体活動の影響に関する縦断研究のエビデンス

認知症は世界中で増加しており、各国の公衆衛生対策上の喫緊の課題となっている。これまで、主として横断研究から、睡眠時間が6~8時間未満、または入眠困難や中途覚醒などの睡眠障害は認知機能低下リスクを高めること、身体活動は認知機能低下のリスクを抑制することが示唆されている。ただし横断研究であるため因果関係は明らかでない。とはいえ、認知症のような長年にわたって緩徐に進行する病態の因果関係を、縦断研究により検証することには高いハードルがある。

今回紹介する論文の研究は、英国で2008~2019年に2年ごとの追跡調査が行われていた、加齢に関する縦断的研究のデータが解析に用いられた。ベースライン時点で認知機能が正常の50~95歳の一般住民8,958人を、10年間(中央値)追跡して、睡眠時間および身体活動量と認知機能の推移との関連を検討した。

認知機能、身体活動、睡眠時間の評価について

認知機能は、示された10個の単語を、時間をおいてから思い出すテストや、1分間で動物の名前をできるだけ多く挙げるテストによって評価した。

身体活動量は、頻度を「週に数回以上」、「週に1回程度」、「月に1~3回」、「ほとんどしない」の四つから選択してもらい、運動強度を「軽度」、「中等度」、「高強度」に分類して、その積をスコア化したうえで三分位により3群に分類。最高三分位群(身体活動量の多い上位3分の1)を「身体活動量が多い」と定義し、最低三分位群および第2三分位群を統合してそれらは「身体活動量が少ない」と定義した。

睡眠時間は、6時間未満を「短時間」、6~8時間を「至適」、8時間以上を「長時間」と3群に分類した。

研究参加者のベースライン時点の特徴

ベースライン時点で、身体活動量が少ない5,889人の認知機能は標準化されたスコアで-0.11±0.83、身体活動量が多い3,069人は0.21±0.81であり、身体活動量の多い群のほうが有意にスコアが高かった(p<0.0001)。睡眠時間は短時間が14.2%、至適が56.4%、長時間が29.4%、年齢は身体活動量が少ない群が中央値65歳(四分位範囲58~73)、身体活動量が多い群は62歳(57~68)であり、前者のほうが高齢だった(p<0.0001)。

身体活動による認知機能上のメリットが、短時間睡眠では発揮されない

この研究では、ベースライン時と中央値10年の追跡終了時の横断的解析、および、10年間での変化の縦断的解析を、ベースライン年齢が50代、60代、70歳以上の3群に層別化して行っている。また、解析結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙習慣、慢性疾患、教育歴、収入、うつレベル〈CES-Dスコア〉)は、統計学的に調整されている。

ベースラインの横断的解析では身体活動量のみが認知機能と有意に関連

身体活動量が多くて睡眠時間が指摘である群を基準として、ベースラインの認知機能を比較すると、年齢層にかかわりなく、身体活動量が少ない場合、睡眠時間の長短にかかわらず、基準の群より認知機能スコアが有意に低かった。一方、身体活動量が多ければ、睡眠時間の長短にかかわらず、認知機能スコアは基準の群と有意差がなかった。

つまり、ベースライン時点の横断的解析では、認知機能に関連しているのは身体活動量のみであり、身体活動量が多い場合、年齢にかかわりなく認知機能が高かった。

追跡終了時点の横断的解析では年齢層により異なる結果

次に、中央値10年の追跡後の認知機能スコアをみると、年齢層により異なる傾向がみられたが、身体活動量が多くて睡眠時間が長い群は、年齢にかかわらず基準の群と認知機能に有意差がなかった。その一方、身体活動量が多くても睡眠時間が短い場合、50代と60代では基準の群より認知機能のスコアが有意に低値だった。70歳以上では有意差がなかった。

つまり、身体活動量は多くても睡眠時間が短い場合は、70歳未満の場合、10年間で認知機能がより早く低下していたと考えられ、縦断的解析からもそれが示された。

なお、性別の層別解析からは、身体活動量が多いことと睡眠時間が至適であることによる認知機能の低下抑制は、男性でのみ認められた。この点について著者らは、「さらなる研究の必要性が示された」と述べている。

論文では、研究参加者の睡眠時間と身体活動量を客観的な指標ではなく、本人の自己申告によって評価していることを限界点として挙げたうえで、「頻度が高く高強度の身体活動による認知機能への影響は、短時間睡眠の場合には加齢に伴う変化を抑制するには不十分になることが示された。世界保健機関(WHO)では認知機能の低下抑制のために身体活動を推奨しているが、身体活動のメリットを最大化するためには睡眠習慣も考慮する必要がある」との結論がまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Joint associations of physical activity and sleep duration with cognitive ageing: longitudinal analysis of an English cohort study」。〔Lancet Healthy Longev. 2023 Jul;4(7):e345-e353〕
原文はこちら(Elsevier)

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