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サルコペニアの最も効果的な治療法は? ネットワークメタ解析からの知見

人口の高齢化によってサルコペニアが世界的に増加し、各国の公衆衛生対策の優先事項となっているなか、最も効果的な介入方法はなにかをネットワークメタ解析により検討した研究結果が、中国の研究者により報告された。比較検討された7種類の介入方法のうち、レジスタンストレーニングによる介入が多くの評価指標において最も優れていたという。

サルコペニアの最も効果的な治療法は? ネットワークメタ解析からの知見

ネットワークメタ解析でサルコペニアへの介入法の効果を比較

サルコペニアは加齢、身体活動不足、栄養の偏り、疾患の影響などにより発生し、QOLの低下および死亡リスクの上昇につながる。現在のところサルコペニアの治療薬はなく、最適な治療戦略も明らかになっていない。

前記のリスクファクターから考えれば、身体活動を増やすこと、適切な栄養素摂取、慢性疾患の適切な管理などが、サルコペニアの発生や進展を抑制すると考えられる。これまでのところ、栄養介入に関してはさまざまな考え方があり、より多くの研究を要する段階であって、運動介入についてはレジスタンス運動やバランストレーニングの有効性に関するエビデンスが蓄積されつつある。とはいえ、それぞれの介入がどの程度の効力をもっているかは明確でない。これを背景として今回紹介する論文の著者らは、これまで報告されてきた無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)のデータを用いたネットワークメタ解析によって、最も優れている介入方法の特定を試みた。

RCTは一般的に二つの介入方法の優劣を比較するために実施される。そのRCTの介入に含まれていない別の介入方法の有効性が別のRCTで比較検討されていたとしても、互いのRCTは研究対象や研究デザインが異なるため、研究結果はそれぞれ独立したものであって、直接的な比較は不可能。ネットワークメタ解析は、複数のRCTの結果を統合した統計学的解析手法によってこの点を解決しようとするもので、有効性が直接的には比較検討されていない介入方法であっても優劣をある程度推測することが可能であり、近年、多用されている。

7種類の介入が行われた30件のRCTを抽出して解析

この研究では文献検索に、PubMed、Web of Science、Embase、Cochrane Libraryなどの国際的に利用されているデータベースのほかに、China National Knowledge Infrastructure や Wan Fangといった中国国内のデータベースも利用。サルコペニア、有酸素運動、レジスタンス運動、バランス運動、身体活動、タンパク質、栄養、サプリメント、鍼治療、電気刺激などのキーワードを用いて、サルコペニアに対して8週間以上の何らかの介入が行われたRCTの報告を検索した。

研究対象の性別や人種は問わず、またサルコペニアが原発性か続発性かも制限しなかった。総説や動物実験の報告、詳細なデータが利用不能の報告は除外した。

検索でヒットした文献は4,315報で、英語文献が3,607報、中国語の文献が708報だった。重複削除後の1,694報をスクリーニングにより159報に絞り込み、全文精査の対象とした。これらの工程はPRISMAガイドラインに基づき2人の研究者が独立して行い、採否の意見の不一致は、他の研究者との討議により解決した。

最終的に30件のRCTの報告が解析対象として抽出された。それらの研究には合計2,371人のサルコペニア患者が参加し、さまざまなレジスタンス運動、有酸素運動、栄養介入、および電気刺激療法がそれぞれ単独または組み合わせて行われていた。この研究では以下の7種類の介入群と非介入群に分類され、有効性が比較検討された。7種類の介入方法とは、有酸素運動、レジスタンス運動、有酸素運動+レジスタンス運動、栄養、レジスタンス運動+栄養、有酸素運動+レジスタンス運動+栄養、栄養+電気刺激。なお、非介入群では一般的な治療、プラセボによる栄養介入、健康教育のみなどが行われていた。

介入効果の評価測定には、四肢骨格筋量(appendicular skeletal muscle mass;ASMM)、除脂肪量(fat free mass;FFM)、握力、歩行速度、椅子立ち上がりテスト(chair stand;CST)、タイムアップアンドゴーテスト(timed up and go;TUG)などが用いられていた。

レジスタンス運動単独またはレジスタンス運動+栄養による介入が多くの指標で高評価

では、ネットワークメタ解析の結果をみていこう。まず、2種類の介入で比較した結果に着目し、有意差の認められた関係をピックアップすると以下のようになる。

2種類の介入法での比較

レジスタンス運動単独による介入が、ほかの介入より複数の評価指標において有意に優れている可能性が示唆された。

レジスタンス運動単独介入との比較

レジスタンス運動単独による介入を基準としてほかの介入との効果を比較した場合、有酸素運動+レジスタンス運動+栄養による介入に対して歩行速度が平均差(mean difference;MD)0.19(95%CI;0.02~0.36)、栄養単独介入に対して四肢骨格筋量(ASMM)がMD1.01(0.21~1.89)、歩行速度がMD0.24(0.09~0.38)であり、レジスタンス運動単独介入のほうが有意に優れていた。ただし、レジスタンス運動+栄養による介入との比較では、除脂肪量(FFM)への影響がレジスタンス運動+栄養介入のほうが有意に優れていた。なお、対照群との比較では、FFMが非有意であることを除き、すべての指標についてレジスタンス運動単独介入のほうが有意に優れていた。

有酸素運動+レジスタンス運動との比較

有酸素運動+レジスタンス運動による介入では、対照群の握力とタイムアップアンドゴーテスト(TUG)について有意に優れていた。何らかの介入を行った群との比較では、いずれの指標についても有意差が認められなかった。

レジスタンス運動+栄養との比較

レジスタンス運動+栄養による介入では、対照群のFFM、TUG、椅子立ち上がりテスト(CST)について有意に優れていた。何らかの介入を行った群との比較では、いずれの指標についても有意差が認められなかった。

その他の介入

上記以外の4種類の介入では、ほかの何らかの介入を行った群および対照群との比較において、いずれの指標についても有意差が認められなかった。

介入効果のランキング

次に、介入効果をランク付けすると、多くの評価項目について、レジスタンス運動単独介入が最も効果的であることが示された。各評価指標ごとのランキングと順位確率(括弧内の数値)は以下のとおり。

四肢骨格筋量(ASMM)は、レジスタンス運動単独(0.55)、栄養+電気刺激(0.30)、有酸素運動単独(0.06)、レジスタンス運動+栄養(0.05)、有酸素運動+レジスタンス運動+栄養(0.02)、有酸素運動+レジスタンス運動(0.01)、栄養単独(0.00)の順(表1)。

表1 四肢骨格筋量(ASMM)
レジスタンス運動単独0.55
栄養+電気刺激0.30
有酸素運動単独0.06
レジスタンス運動+栄養0.05
有酸素運動+レジスタンス運動+栄養0.02
有酸素運動+レジスタンス運動0.01
栄養単独0.00

除脂肪量(FFM)は、レジスタンス運動+栄養(0.85)、有酸素運動+レジスタンス運動(0.12)、栄養単独(0.03)、レジスタンス運動単独(0.01)の順(表2)。

表2 除脂肪量(FFM)
レジスタンス運動+栄養0.85
有酸素運動+レジスタンス運動0.12
栄養単独0.03
レジスタンス運動単独0.01

握力は、レジスタンス運動+栄養(0.39)、レジスタンス運動単独(0.30)、有酸素運動+レジスタンス運動(0.26)、有酸素運動+レジスタンス運動+栄養(0.04)、有酸素運動単独(0.02)、栄養単独(0.00)の順(表3)。

表3 握力
レジスタンス運動+栄養0.39
レジスタンス運動単独0.30
有酸素運動+レジスタンス運動0.26
有酸素運動+レジスタンス運動+栄養0.04
有酸素運動単独0.02
栄養単独0.00

歩行速度は、レジスタンス運動単独(0.77)、レジスタンス運動+栄養(0.14)、栄養+電気刺激(0.06)、有酸素運動+レジスタンス運動(0.02)、有酸素運動+レジスタンス運動+栄養(0.01)、栄養単独(0.00)の順(表4)。

表4 歩行速度
レジスタンス運動単独0.77
レジスタンス運動+栄養0.14
栄養+電気刺激0.06
有酸素運動+レジスタンス運動0.02
有酸素運動+レジスタンス運動+栄養0.01
栄養単独0.00

椅子立ち上がりテスト(CST)は、レジスタンス運動+栄養(0.42)、レジスタンス運動単独(0.29)、有酸素運動+レジスタンス運動(0.22)、有酸素運動+レジスタンス運動+栄養(0.06)、栄養単独(0.02)の順(表5)。

表5 椅子立ち上がりテスト(CST)
レジスタンス運動+栄養0.42
レジスタンス運動単独0.29
有酸素運動+レジスタンス運動0.22
有酸素運動+レジスタンス運動+栄養0.06
栄養単独0.02

タイムアップアンドゴーテスト(TUG)は、レジスタンス運動+栄養(0.46)、レジスタンス運動単独(0.34)、有酸素運動+レジスタンス運動+栄養(0.12)、レジスタンス運動単独(0.07)、栄養単独(0.01)の順(表6)。

表6 タイムアップアンドゴーテスト(TUG)
レジスタンス運動+栄養0.46
レジスタンス運動単独0.34
有酸素運動+レジスタンス運動+栄養0.12
レジスタンス運動単独0.07
栄養単独0.01

以上のまとめとして著者らは、サルコペニアに対するレジスタンス運動による介入は、ほかの介入方法よりも多くのメリットがあるようだ。一方、栄養介入は、その運動介入に必要とされる基礎づくりに役立つと考えられると述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「The efficacy of different interventions in the treatment of sarcopenia in middle-aged and elderly people: A network meta-analysis」。〔Medicine (Baltimore). 2023 Jul 7;102(27):e34254.〕
原文はこちら(Wolters Kluwer Health)

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