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β-アラニンが高齢者の認知機能低下や抑うつを抑制する可能性 プラセボ対照RCTの報告

アスリートの運動パフォーマンスの維持や向上という点で確かなエビデンスが確立しているβ-アラニンについて、高齢者の認知機能や気分状態に対しても有用である可能性を示す研究結果が報告された。ベースライン時に認知機能が低下している高齢者での認知機能改善などが認められたという。

β-アラニンが高齢者の認知機能低下や抑うつを抑制する可能性 プラセボ対照RCTの報告

β-アラニンは認知・精神機能にも有用?

β-アラニン摂取によって筋肉内のカルノシン濃度が上昇し、筋力が増強される。また、無酸素運動時の疲労発生の遅延などのエルゴジェニック効果があり、これらスポーツパフォーマンスに関するβ-アラニンのエビデンスは一貫性をもって示されている。

β-アラニンに関する研究が進むとともに、β-アラニンが骨格筋以外の組織にも作用している可能性が明らかになってきている。また、β-アラニンは血液脳関門を通過して脳領域でのカルノシン濃度を上昇させることが、動物実験により確認された。さらに、β-アラニンを投与された実験動物はストレス負荷時の脳の炎症が軽減され、不安関連行動が減り、記憶が維持されるみことも報告されている。

ヒトでは加齢に伴い脳内酸化ストレスと炎症レベルが高まり、神経変性が生じたり認知機能が低下する。一方、高齢者がβ-アラニンを摂取すると若年者と同様に筋力増強などの効果が認められる。これらから、高齢者の認知機能にβ-アラニンが保護的に働く可能性も考えられるが、そのような視点での研究はまだ少ない。

この研究は、以上を背景に実施された。

β-アラニン2.4g/日で10週間介入しプラセボと比較

この研究のために60~80歳の高齢者150人が募集された。過去に認知症と診断されていないこと、神経変性疾患を含む研究参加の妨げとなる疾患を有していないこと、直近6カ月にβ-アラニンを摂取しておらず、直近6週間にサプリメントを利用していないことという除外条件に該当しない100人(男性29人)が参加登録。無作為にβ-アラニン群とプラセボ群の2群に分け、10週間介入した。

β-アラニンまたはプラセボは、1回2錠(1錠あたり600mg)、1日2回(1日2.4g)、食事とともに摂取してもらった。評価項目は、以下に記す認知機能と気分状態および身体機能であり、ベースライン時と介入中間時点(5週後)、介入終了時(10週後)に評価した。

認知機能は、Montreal Cognitive Assessment(MoCA)とストループテストで評価した。MoCAは軽度の認知機能低下の判定に優れていて臨床で頻用されている。ストループテストは、4種類の色の名称(単語)が4種類の色でディスプレーに表示され、その表示色をできるだけ正確かつ迅速に答えるというもの(例えば緑色で赤という文字が表示されたら緑と回答する)。

気分状態は、気分プロフィール検査(profile of mood states;POMS)、高齢期うつ病尺度(geriatric depression scale;GDS)、高齢期不安尺度(geriatric anxiety scale;GAS)で評価した。

身体機能は、上半身のパフォーマンスとして握力を評価。下半身のパフォーマンスは椅子立ち上がりテスト(座位から立位への変化を連続5回できるだけ速く繰り返す)のタイムで評価した。

認知機能の評価指標の一部と抑うつの指標に有意差

介入を終了したのは79人(β-アラニン群38人、プラセボ群41人)だった。残薬を基に評価したコンプライアンスは92.0±7.4%と計算された。

認知機能が低下傾向の人ではβ-アラニンの有効性が示唆される

まず認知機能に着目すると、MoCAスコアは、両群ともに介入により有意に改善しており(p=0.005)、改善の幅の群間差は非有意だった(p=0.190)。ただし、ベースライン時点で認知機能の軽度低下(MoCAスコア26点以下)が認められた人のみで比較すると群間に有意差があり、β-アラニン群のほうが介入後のスコアが高かった(中間時点でp=0.009、介入終了時点でp=0.016)。

ストループテストも両群ともに有意に改善しており(p<0.001)、改善の幅の群間差は非有意だった(p=0.711)。ただ、ベースライン時点のストループテストのTスコア未満の人のみ(回答の速度と正解率が平均以下)で比較した場合、介入効果に有意な群間差はなかった。

抑うつレベルがβ-アラニン群で改善

次に気分状態については、ベースライン時点から介入後にかけてPOMSには有意差がなかった。それに対してGDSは介入時点では有意差がなく、介入後のスコアはβ-アラニン群のほうが有意に低値であり(p=0.037)、抑うつレベルが抑制されていた。また、β-アラニン群のGDSスコアは、ベースラインから中間時点にかけて(p=0.012)、および介入終了時点にかけて(p=0.002)、有意に改善していた。プラセボ群ではこの変化が非有意だった。

不安の評価指標であるGASの介入後のスコアに関しては、β-アラニン群のほうが低値ではあるものの、群間差は有意水準未満だった(p=0.096)。

身体パフォーマンスは有意差なし

最後に身体機能については、握力は両群ともに介入前後で有意な変化がなく、群間差も非有意だった。一方、椅子立ち上がりテストは両群ともに介入後に有意に改善したが(p<0.001)、群間差は非有意だった。

以上より論文の結論は、「ベースラインの認知機能が境界域以下の高齢者の認知機能をβ-アラニンが向上させることが示された。またβ-アラニン摂取は抑うつ症状の軽減と関連していた」と述べられている。

なお、β-アラニンを用いた介入研究の多くは筋力トレーニングなどの運動介入が並行して行われるが、本研究は行っていない。著者らは、「β-アラニン摂取が高齢者の身体機能を向上することはこれまでに複数の研究で示されてきているのに対して、本研究ではプラセボと有意差が生じなかった。その理由は運動介入を行わなかったためと考えられる」としている。また、この点に関連して、「高齢者は運動パフォーマンス向上のためではなく、健康とウェルネスのためにサプリメントを摂取することが多いため、本研究で用いた介入デザインは適切と思われる」と付言している。

文献情報

原題のタイトルは、「Role of β-Alanine Supplementation on Cognitive Function, Mood, and Physical Function in Older Adults; Double-Blind Randomized Controlled Study」。〔Nutrients. 2023 Feb 12;15(4):923〕
原文はこちら(MDPI)

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