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「代謝の健康」を導く時間運動学のエビデンス 最大の効果を得る運動タイミングは?

2023年08月24日

時間運動学に関する新しいレビュー論文が報告された。心血管代謝の改善に焦点を当てて考察した、スペインの研究者によるもの。要旨を紹介する。

「代謝の健康」を導く時間運動学のエビデンス 最大の効果を得る運動タイミングは?

イントロダクション

人間の生理機能に概日リズム(サーカディアンリズム)は密接に関連しており、エネルギー恒常性や代謝に関与している。近年では食事の摂取タイミングが異なると体重や代謝が異なることが明らかになり、時間栄養学として注目されている。身体活動もエネルギー恒常性や代謝に関与していることから、食事と同様に運動の効果も概日リズムの影響を受けると考えられ、時間運動学として研究が進められている。ただし、時間栄養学に比べると時間運動学に関する知見はまだ少ない。

今回紹介する論文では、肥満や2型糖尿病、脂質異常症などの心血管代謝性疾患の予防や治療における時間運動学の適用の可能性、および、運動のタイミングの違いによる効果の違いを生むメカニズム、これまでの研究の結果の一部に一貫性が欠如している理由などが考察されている。

時間運動学の臨床への適用可能性

肥満

時間帯に基づいた運動は、肥満の管理に役立つ可能性がある。ただし、体重減少と減少した体重の維持は異なる概念であることに注意を要する。一般に、食事摂取量の削減は体重減少の重要な要素と考えられ、一方で運動は減少した体重の維持を可能にするとされる。減量後の体重を維持した人は、対照者よりも朝に中~高強度の身体活動をより多く行っているとする観察研究がある。早朝の運動は、運動習慣の維持という点でもこの関連性に寄与しているのかもしれない。

全体として多くの研究で、運動のタイミングが体重減少の違いにつながる可能性が示されている。ただし、利用可能な研究は女性のみを対象としたものが少なくない。一部の矛盾する結果は、介入方法の不均一性に関連しているのではないか。持久力運動は体重減少に対する時間依存的な効果を誘発するようだが、レジスタンス運動や高強度インターバルトレーニングについては、このトピックについて評価可能な研究が乏しい。

2型糖尿病

このトピックに関しては近年、連続血糖測定(continuous glucose monitoring;CGM)を利用した研究により多くの知見が示されるようになった。いくつかの研究で示されているように、運動のタイミングが血糖反応に影響を与える可能性がある一方で、複数の研究からは否定的な結果が報告されている。運動のタイミングの違いによる血糖変動への影響を評価する際、食事のタイミングとの兼ね合いも考慮する必要があり、解釈が複雑になる。

脂質異常症

冠動脈疾患患者330人を対象とする無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)では、12週間にわたり1日30分以上のウォーキングを夕方に週5日以上行ったところ、朝のウォーキングよりもLDL-Cや炎症マーカー(C反応性蛋白〈CRP〉やフィブリノーゲン)が有意に低下した。脂質代謝は概日リズムの影響下にあり、夜間にピークがあることも報告されている。ただし血糖反応と同様に、血清脂質レベル、とくに中性脂肪は食事の状態に応じて変化することに留意が必要。

高血圧

夜間の運動介入により、血圧がより大きく低下することを示した報告がある。例えば、高血圧治療中の男性の診察室血圧を、夜間の有酸素トレーニングのみが低下させたとするRCTの報告がある。また、運動のタイミングが血圧に及ぼす潜在的な影響には性差が存在する可能性が指摘されている。女性では午前中の運動、男性では夜間の運動によって血圧が低下するとするRCTもみられる。

結果の一貫性欠如をもたらしていると考えられる因子

性別

エネルギー基質の利用や代謝は、性ホルモンの影響を受ける。そのため、運動のタイミングの違いによる代謝への影響も、性ホルモンの変動によって変化すると考えられる。しかし、代謝に関するこのトピックの研究は男性で行われることが多く、知見が限られている。

年齢

年齢は、運動のタイミングの違いに伴う反応の変動に関与する、もう一つの潜在的な因子の可能性がある。とはいえ、代謝性疾患の管理のために運動介入を行う研究の多くは中年成人を対象としており、高齢者または若年者での知見が少ない。

ふだんのトレーニング

運動による代謝への影響を検討した研究の大半は、ふだん座位行動の多い対象で行われている。よって、日常的に活発な身体活動を行っている対象との比較はできないが、潜在的には運動のタイミングの違いの影響の差を説明する因子の一つである可能性が考えられる。

健康状態

肥満や2型糖尿病などの代謝障害を有する状態では、運動に対する代謝反応が健常者と異なることがあるため、それがこのトピックに関する研究の一貫性欠如に影響を及ぼしている可能性もある。ある研究では、運動のタイミングにかかわらず過体重者の血糖反応が改善されたが、2型糖尿病を有している場合は朝の運動がより効果的だったという。

運動の種類

持久力運動とレジスタンス運動の効果は、時間帯によって異なることを示唆する研究がある。レジスタンス運動や高強度インターバルトレーニングは有酸素運動よりも日内変動の影響を受けやすい可能性がある。一方、体重に対する運動介入研究は大半が有酸素運動で行われているため、この点での検討が困難。

現時点のエビデンスと今後への期待

上記のほかに、運動の時間によって代謝への影響が変化するメカニズムとして、概日リズムとミトコンドリア機能の変化などについて考察が加えられている。

結論としては、「運動のタイミングは、肥満、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧などのさまざまな代謝性疾患の管理において、重要な役割を果たす可能性がある。血糖や血圧、脂質の改善には、午前中の運動よりも午後や夜間の運動のほうが効果的であることが、複数の研究結果として報告されている。一方、体重減少に対する運動タイミングの効果を評価したいくつかの研究では、朝のトレーニングは夜の運動と比較して追加のメリットを伴う可能性があり、これらの違いはエネルギーバランスや食欲調節の変化などが関与していると考えられる。これらの有望な発見にもかかわらず、運動のタイミングと代謝の健康の間の複雑な関係を理解はまだ初期段階にあり、大規模な無作為化試験が必要である。さらに、個人差によって運動のタイミングに対する反応が異なる可能性があるため、将来の研究では、性別、年齢、健康状態、トレーニング状態、運動の種類、クロノタイプを考慮すべきだろう」。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of exercise timing on metabolic health」。〔Review Obes Rev. 2023 Jul 7;e13599〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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