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外因性ケトーシスによって高強度トレーニング後の睡眠の質が改善する

ケトン体を摂取し外因性にケトーシス状態とすることが、高強度トレーニングに伴う睡眠の質の低下を抑制する可能性が報告された。サイクリスト対象の無作為化クロスオーバー試験の結果であり、米国スポーツ医学会の「Medicine and Science in Sports and Exercise」に論文が掲載された。

外因性ケトーシスによって高強度トレーニング後の睡眠の質が改善する

ケトン体がアスリートの睡眠障害を防ぐ?

アスリートは、試合前や集中的なトレーニングを行った夜などに、中途覚醒の増加やレム睡眠の減少などの睡眠障害を起こしやすい。アスリートの睡眠障害はトレーニングからの回復の妨げとなり、翌日のパフォーマンスの低下および怪我または疾患の発症リスクの上昇につながる可能性がある。ただし睡眠障害に対して薬物を用いた場合、副作用や依存の懸念がある。

一方、近年、血中ケトン体レベルが睡眠の質と関連しているとする研究結果が報告されている。そこでこの論文の著者らは、外因性にケトン体レベルを高めることの睡眠の質への影響の有無を検討した。

3条件のクロスオーバー試験で、運動とケトーシスの睡眠への影響を比較

研究参加者は、日常的にトレーニングを行っているサイクリスト10名で、抑うつや不安などのメンタルヘルス不調、睡眠障害のある人、および夜間・早朝勤務者、喫煙者は除外されている。おもな特徴は年齢23±4歳、VO2max62.9±7.2mL/kg/分、トレーニング量10.8±4.4時間/週。

試験デザインは無作為化プラセボ対照クロスオーバー試験。高強度運動+外因性ケトーシス、高強度運動+プラセボ、および安静+プラセボという3条件を、1週間のウォッシュアウト期間を設け、順序を無作為化したうえで全員に試行した。なお、予備試験として研究参加者のVO2maxや乳酸閾値が測定された。本試験のタイムスケジュールは以下のとおり。

試験前日~当日のスケジュール

各条件の試行前夜、被験者は自宅で炭水化物が豊富(69%)な夕食(約1,340kcal)を摂取し、定められた時刻に就床して、翌朝も定められた時刻に起床。炭水化物が豊富(72%)の朝食(約620kcal)を摂取後、起床から2時間後に研究施設に到着してもらい、室温が一定に保たれた個室(昼間は21°C、夜間18°C)でひと晩すごしてもらった。

試験当日の午前中、起床から2時間半後から、乳酸閾値の60~80%の負荷で120分間のインターバルトレーニングをしてもらい、その後、炭水化物が豊富(69%)な昼食(約1,200kcal)摂取。午後は自由時間としたが、睡眠に影響を及ぼし得る運動や昼寝などの行動、および食品摂取、カフェイン摂取は禁止した。

定められた就床時刻の5時間前に炭水化物が豊富(69%)な軽い夕食(約410kcal)を摂取し、その2時間後に乳酸閾値の50%から最大175%での高強度トレーニングを90分間施行。なお、午前のトレーニング中は約150kcalのエネルギーケーキの摂取により、1時間あたり32gの炭水化物を補給してもらい、また各トレーニング摂食終了後にはリカバリーのため、炭水化物64g、タンパク質30gからなるスポーツ栄養食品を摂取してもらった。

午後のトレーニング終了後には、ぬるま湯(38°C)のシャワーを浴びて、定められた就床時刻の5分前に睡眠ポリグラフ検査用の電極を装着し就床。翌朝は定められた時刻に起床してもらい、睡眠の質に関する主観的な評価が行われた。

上記のスケジュールの中で、2回のトレーニングの終了直後、および就床時刻の30分前の計3回、各条件にあわせてケトン体エステル(β-ヒドロキシ酪酸;BHB)25gまたはプラセボを摂取してもらった。採血検査から、ケトン体摂取条件ではBHB濃度が3mM以上に上昇していることが確認された。

ケトン体摂取で激しい運動による睡眠への悪影響が緩和される

高強度トレーニングは一部の睡眠関連指標を低下させる

では結果だが、まず、安静+プラセボ条件と、運動+プラセボ条件との比較から、運動はレム睡眠を26%有意に減少させ(p=0.001)、また中途覚醒を95%増加させており、高強度トレーニングは一部の睡眠関連指標を低下させることが示された。一方、ノンレム睡眠の時間は運動+プラセボ条件のほうが有意に多かった。

就床時間に占める睡眠時間の割合で表す睡眠効率は、両条件間に有意差が認められなかった(p=0.108)。また、就床から入眠に要する時間である入眠潜時にも、有意差はなかった。

ケトン体摂取で睡眠効率が改善しレム睡眠が増加

次に、運動+プラセボ条件と、運動+外因性ケトーシス(BHB摂取)条件の比較から、BHB摂取によって睡眠効率が3%有意に改善すること(p=0.040)が示された。また、運動によるレム睡眠の減少を抑制し(p=0.011)、中途覚醒の増加を抑えること(p=0.009)も明らかになった。

睡眠に重要な脳内情報伝達物質であるドパミンのレベルにも有意差が認められ(p=0.033)、ケトーシスがドパミン分泌を増やす可能性が示唆された。ノンレム睡眠や睡眠潜時には有意差はなかった。

論文の結論は、「ケトン体エステルの摂取により、高強度運動後の睡眠の効率と質が向上することが示された。また、われわれの研究結果は、この変化がケトン体エステル摂取によるドパミンシグナル伝達の上昇に関連している可能性があるという、予備的なエビデンスと言える」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Exogenous Ketosis Improves Sleep Efficiency and Counteracts the Decline in REM Sleep Following Strenuous Exercise」。〔Med Sci Sports Exerc. 2023 Jun 1〕
原文はこちら(American College of Sports Medicine)

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